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からくり競艇 ~黄金の波切り、魂のフルスロットル  作者: 水前寺鯉太郎
第5章:誠の試練編

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第88話整備士のプライド ― 闇を照らす「白銀の火花」 ―

ボートレースにおける「整備士」の役割は、本来ピットの中だけで完結するものと思われがちである。しかし、マブイが物理現象を左右する「からくり競艇」の世界において、整備とは単なる機械の修繕ではない。それは、レーサーの精神と機獣アニマ・ギアの接続を最適化し、乱れた波形を正す「魂の調律」である。

整備士・野田あかりの「属性」:

野田あかりのマブイは、攻撃的な「破壊」でも、冷徹な「支配」でもない。彼女の力は、**「微細な不協和音を察知し、それを本来の旋律に戻す」**という、極めて稀少な調和の力である。

エネルギーの再定義(整流):

ボルト一本の緩みが発する周波数を、彼女は自らの鼓動として聞き取る。他者が「攻撃」として放つ破壊エネルギーも、彼女にとっては「過剰な振動」に過ぎない。それを整え、無害化あるいは再利用する「整流レクティファイ」の技術は、整備士としての矜持から生まれた彼女独自の奥義である。

鳴門の「浄化作用」:

あかりは鳴門の激流を熟知している。誠の闇を無理に消し去るのではなく、激流へと「逃がす」ことでフィールドの均衡を保とうとしていた。

 2029年5月12日。鳴門、SG『衆望万魂祭』三日目、第2レース。

 ホームストレッチは、ピットの誠から漏れ出した「漆黒のマブイ」によって、視界も物理法則も奪われた絶望の空間と化していた。

 「……誠師匠。あなたが闇に呑まれて出口を見失っているなら……私が、その歪んだ世界をまるごと『整備』してあげるっす!」

 野田あかりは黒い霧の中で、あえて瞳を閉じた。不確かな視覚を捨て、愛機「ノースフライト」を通じて伝わる「水の振動」と「ボルトの唸り」だけに全神経を集中させる。

 あかりにとって、誠が放つ混沌とした闇は「敵」ではない。それは出力設定が狂い、暴走しただけの「不具合バグ」に過ぎなかった。

 あかりは自機のプロペラのピッチを微調整し、押し寄せる闇の超振動を物理的に「整流」し始めた。闇の莫大なエネルギーを自機の加速力へと反転リバウンドさせる。

 「何……!? 私の氷も、誠くんの闇も……すべてをただのエネルギーとして『利用』したというの!?」

 守屋あおいの驚愕。彼女の鋭い氷の楔は、あかりが作り出した「凪の空間」に触れた瞬間、冷気を奪われ、ただの水飛沫へと還されていった。

 2マーク。野田あかりは闇の濁流を「加速装置」として完璧に使いこなした。

 黒い霧が彼女の艇に触れるたび、それは摩擦係数をゼロにする潤滑剤へと変質する。氷の海を滑るような、物理学を置き去りにした最短小回りの旋回。

 「私は整備士っす……! 壊れたエンジンも、悲しみに壊れた心だって……直し続けてみせるっす!!」

 あかりの叫びが鳴門を震わせた瞬間、誠の闇は「調律の光」によって押し戻された。バックストレッチに抜け出した時、あかりは守屋に3艇身以上の差をつけて独走態勢に入っていた。

 そのままトップでチェッカーを受けたのは、野田あかり。

 レジェンドでも天才でもない。ただひたすらに、師を守り、その心に寄り添ってきた整備士の「純粋な想い」が、世界を飲み込む闇に打ち勝ったのだ。

【衆望万魂祭 3日目 2R:リザルト】

| 着順 | 枠番 | レーサー | 戦術・状態 | 備考 |

| 1着 | 1 | 野田 あかり | 『マブイ整流』 | 誠の闇を加速に変える逆転劇。 |

| 2着 | 4 | 守屋 あおい | 氷結強襲 | あかりの執念に一歩及ばず。 |

| 3着 | 2 | 野田 真理子 | 同盟の支援 | あかりの勝利を確信し満面の笑み。 |

 「……あかり……?」

 ピットで意識を蝕まれかけていた誠は、あかりのゴールと共に重圧から解放され、瞳に微かな光を取り戻した。漆黒のシロもまた、体毛の中から元の白銀を一房だけ覗かせ、安堵したように吠えた。

 走り寄るあかりの顔は油と涙で汚れ、機体はボロボロだったが、その表情は晴れやかだった。

 「誠師匠! 見てたっすか!? 闇だって、ちゃんと整備すれば、人を助ける力になるっす!」

 「あかりさん……ありがとう。君がいなかったら、俺、自分を失っていたかもしれない」

 だが、その背後で黒田瑛人が静かに告げる。

 「……誠、あかりの光はお前を救ったが、石の『闇』は、より強い刺激を求めてお前を食い荒らし始めるぞ」

 誠の胸の中で、黒影のマブイ石が拒絶するように再び冷たく拍動を始めた。7900万の衆望は、まだ誠を離さない。しかし、あかりが示した「整流」という可能性は、誠にとって唯一の、そして最も頼もしい道標となった。

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