無のマブイ、一貴の教え
第6話:無のマブイ、一貴の教え
女王・鎌倉明奈との遭遇で、自身のマブイ量の少なさに焦りを感じる誠。そんな彼に、平野一貴が静かに声をかけた。
「……マブイの量で悩んどるんか、速水」
一貴の声は、エンジン音のように低く、安定していた。彼は一切のマブイを纏っていない。
それなのに、指先で機体に触れた瞬間、ボロい教習機が息を潜め、しかし猛烈な推進力で滑り出し――まるで最新鋭機のように静かに、鋭く空を切り始めた。
一貴は誠と瓜生を連れ、夜の下関の空へと繰り出した。
「菜奈はマブイの力で機体をねじ伏せるが、俺は違う。機体が『行きたい方向』を指先で聞くだけだ。瓜生、お前なら分かるはずや。マブイがないからこそ、聞こえる音がある」
一貴が先頭、瓜生が二番手、誠が三番手。
史上初の**「三連単ライン」**――一貴の「無」の波動を先頭に、瓜生の「静寂」がそれを重ね、最後に誠が自身の必殺技「チルト3.0」の爆音で一気に突き抜ける旋回訓練が始まった。
一貴の機体が空を切り裂く「無」の軌跡に、瓜生が音もなく寄り添う「静寂」の層を重ねる。
そして誠が、最後尾から爆発的な加速でその列を貫き抜ける――三機が連なる一本の、最短にして最強のライン。
「……これが、山口支部の『本当の形』か!」
誠の脳裏に、かつてないほどクリアな最短軌道が焼き付くように浮かび上がった。
今までぼんやりとしか見えなかった勝利のイメージが、初めて胸を熱くする確信に変わり始めていた。
特訓の最中、菜奈のスマホに動画メッセージが届く。
送り主は、香川支部の平田千夏。
『菜奈、あんたの支部の新人が下関で勝ったって聞いたわよ。でも、次は私のホーム、香川・丸亀サーキットへ来なさい。本当の「全速旋回」が何か、教えてあげるわ』
「……あいつ、相変わらず気が早いやけん!」
菜奈は笑いながら、誠の肩を叩いた。
「誠、一貴さんの『無』を盗め。そうせんと、千夏の58,000マブイには弾き飛ばされるよ!」




