第179話:島原の龍、とぐろを巻く ― 2マークの攻念と決着 ―
2030年8月29日。長崎県大村競艇場。
予選最終日のメインレース、バックストレッチ。
並走する黄金の39号機・速水誠と、漆黒の機獣を駆る地元の総帥・新武友哉。その距離はわずか数センチ。カクテル光線の下、二つの巨大なマブイが火花を散らし、水面を沸騰させていた。
しかし、2マークを目前にして、新武友哉がその「深淵」を見せつける。
「来い、速水くん。大村の潮は、俺の指先一つで牙を剥くバイ!」
新武がハンドルを極限まで絞り込む。その瞬間、彼の背後に宿る「島原の龍」が水面に溶け込み、海水を物理的な「渦」へと変質させた。
『奥義:島原絞り』
1マークで発生させた自らの引き波を、マブイの引力で強引に引き戻し、2マーク周辺に超高密度の重力圏を作り出す新武の必殺技。その渦は、内側へ入ろうとする全ての艇をブラックホールのように中心へ吸い寄せ、旋回の出口で猛烈な遠心力として外側へ弾き飛ばす。文字通り、ライバルを「絞り殺す」ための鉄壁の檻。
「うわっ……ハンドルが、勝手に内に持っていかれるっす! 捕まったら最後、水面に叩きつけられるっす!!」
誠は叫んだ。39号機のフロントが渦に飲まれ、コントロールを失いかける。シロが必死に爪を立てて重心を支えるが、龍の重力は非情だった。
絶体絶命。しかし、誠の瞳から光は消えていなかった。
荒れ狂う渦の中で、誠の脳裏に野田あかりの言葉がリフレインする。
『師匠、覚えておいてっす。蔵野家の金属性パーツは、ただ硬いだけじゃない。外部からの衝撃やマブイの圧力を受ければ受けるほど、それを内部に蓄積できる性質があるっす!』
「……耐えるっす。今、勝負を急いじゃダメっす!」
誠はあえてスロットルを一瞬緩めた。新武の渦の「外縁」に機体を滑り込ませ、あえて渦の圧力を全身で受け止める道を選んだのだ。『足をためる』――。
新武の「島原絞り」が発生させる莫大なエネルギーが、39号機の金属性装甲を軋ませる。だが、その圧力は金属性の伝導体を通じて、機体内部の蒸気タービンへと吸い込まれ、極限まで圧縮された回転エネルギーへと変換されていく。
(フゴォ……!!)
シロが黄金の瞳で一点を凝視する。
渦が最も強くなり、新武が旋回の出口へ向けて全力を解放する「一瞬の綻び」。それこそが、唯一の反撃の好機。
「新武、絞りきったぁぁ!! 速水誠、完全に渦に呑まれ、消えたか……!? いや、違う! 水面の下で、黄金が光を圧縮している!!」
実況の絶叫と共に、新武が旋回を終え、ホームストレッチへ向けて機体を向けたそのコンマ数秒後。
39号機の内部でチャージされたエネルギーが臨界点に達した。
誠は一気に全速レバーを叩き込んだ。
『奥義:黄金・一閃』
「島原絞り」の遠心力を、そのまま自らの推進力へと変換。溜めに溜めた黄金マブイが爆発的な輝きを放ち、39号機は渦の出口から「黄金の弾丸」となって飛び出した。
その速度、その衝撃。新武の龍の鼻先をわずか数ミリで掠め取り、誠が先行する!
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> 【衝撃のカウンター】三冠王者、新武の『島原絞り』を逆にブースターに変えた! 耐えて放った一撃が、長崎の龍を切り裂く!! 累計PVは驚愕の13億5,000万を突破!!
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ホームストレッチ、誠がわずかにハナ差で前に出る。場内は逆転劇に沸き立ち、ボルテージは最高潮に達した。だが、大村の海を四半世紀以上支配してきた男、新武友哉は動じていなかった。
「速水くん……良か根性バイ。ばってん、大村の風ば読みきれんうちは、俺には勝てん!」
誠が最高速に達したその瞬間、大村湾特有の「夕刻の突風」が水面を叩いた。
わずかに浮き上がった誠の39号機。あかりのカーボン翼が空力を捉えすぎ、海水との接地面積が減った一瞬の隙。
対する新武の機体は、まるで吸盤のように水面に吸い付いたまま、一ミリの揺らぎもない。
新武は、誠が作ったわずかな引き波の「隙間」に、針の穴を通すような精密さで舳先をねじ込んだ。マブイを爆発させるのではなく、大村の潮の流れと同調させ、水に身を任せる技術。
『奥義:龍の帰還』
「抜いた!! 新武友哉、直線で誠を差し返したぁぁ!! まさに地力、まさに長崎の総帥!!」
誠がどれだけ黄金マブイを燃やしても、新武との距離が縮まらない。新武の走りは派手さこそないが、最短航路を「削り取る」ように進んでいく。誠が放つ黄金のプレッシャーさえも、新武が意図的に跳ね上げた「龍の飛沫」によって拡散され、本来の伸びを奪われてしまった。
「……届かないっす。新武さんの背中が、あんなに遠いなんて……!」
(フゴッ……)
シロも悔しそうに唸る。新武から放たれる圧倒的な「安定感」という名の威圧感。誠は己の経験不足、そして「自然と対話する技術」の差を痛感せざるを得なかった。
「1着、新武友哉! 2着、速水誠!!」
ゴールを駆け抜けた瞬間、新武はヘルメット越しに誠へ短く手を挙げた。それは、王者の誇りを懸けて戦った若者への、最大級の敬意だった。
「速水くん、四冠ば獲りたかなら、次は『自分』を捨てることバイ。海と一体にならんね」
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> 【王者の貫禄】新武友哉、三冠王を地力で圧倒! 大村の龍は、まだ眠らない。誠、惜しくも2位。累計PVは14億!!
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【予選最終日・最終結果】
| 順位 | レーサー | 状態 | 次戦 |
| 1着 | 新武 友哉 | 完璧なる支配 | 準優勝戦1号艇 |
| 2着 | 速水 誠 | 善戦、しかし敗北 | 準優勝戦1号艇(他組) |
| 3着 | 石田 健太郎 | 安定の技巧 | 準優勝戦進出 |
レース後のピット。誠は一人、39号機を洗っていた。
「……負けたっす。新武さんは、マブイの量じゃなくて『使い方』が次元違いだったっす。でも……次は負けないっす!」
そこへ、レディースクラシックを戦い終えた守屋あおいから緊急の通信が入る。
「誠くん、お疲れ様。……悔しいけど、今はあの背中を追いかけるしかないね。でも、落ち込んでる暇はないよ! あかりが『師匠の今の足なら、新武さんの龍を焼き切れる秘策がある』って鼻息荒くしてる!」
通信の向こうで、あかりの叫び声が聞こえる。
「師匠! 新武さんの龍が『水』なら、こっちは『熱』で蒸発させてやる! 蔵野家の金属性パーツに隠された、禁断のオーバーヒートモード……使うぞ!!」
誠の瞳に、再び闘志の火が灯る。
四冠への道は、まだ閉ざされていない。大村の龍を越えるための「最後のリミッター」を外す時が来た。




