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からくり競艇 ~黄金の波切り、魂のフルスロットル  作者: 水前寺鯉太郎
第8章:黄金の波切り編

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第178話:島原の龍と黄金の鷲 ― 予選最終日、新武との一騎打ち ―

2030年8月29日。長崎県大村市、大村競艇場。

予選最終日のメインレースを前に、大村湾はその表情を劇的に変えていた。

この日の夕刻、大村は「大干潮」の時刻を迎えていた。海水面は刻一刻と下がり続け、普段は水面下に隠れている消波装置の基部や、太古からこの地を見守ってきた岩肌が、牙を剥くようにその姿を現している。

そして、潮の流れが止まる「潮止まり」。

かつて「ガラスの水面」と称えられた大村の海は、風の一筋さえも拒絶するような、不気味なまでの静寂に包まれていた。それは、見る者の魂を吸い込む鏡。1号艇に座る地元長崎の絶対的支配者、新武友哉(43歳)の静かな怒りを映し出しているかのようだった。

「……良か水面たい」

新武は、漆黒のヘルメット越しに、水平線を睨んだ。

彼の背後には、島原の雲仙普賢岳を源流とすると伝えられる、重厚な「龍のマブイ」が立ち昇っている。その出力コアは、今節最高値の32,000を記録。大村の海水そのものを自らの神経系の一部として支配する新武にとって、この干潮の静寂は、己の機獣を解き放つための最高の祭壇であった。

対する4号艇、速水誠(24歳)。

三冠王者としてこの地に乗り込み、初戦の惨敗から這い上がってきた若き龍は、ピットで静かに愛機・39号機の心音を聞いていた。

「あかりが……あいつが残してくれた最後のピース、ここで使う」

誠の手元には、野田あかりがレディースクラシックの会場へ向かう直前、ピットの工具箱の底に隠すように置いていった「贈り物」があった。

それは、最新鋭の超高密度カーボンを用いた**「軽量化カーボンウイング」**。

これまでの39号機は、尼崎で組み込んだ蔵野家伝来の「金属性パーツ」により、圧倒的な剛性と破壊力を得ていた。しかし、その代償として機体重量が増し、大村の強い浮力と喧嘩をしてしまうという弱点を抱えていた。

あかりが残したカーボン翼は、その「重さ」を「揚力」へと変換するための魔法の杖だった。

「師匠! これ、マジでギャル的に最高傑作っす。金属性の重みで水面を叩き、カーボンの軽さで風を掴む。これこそが、39号機の『完全体』っすからね!」

あかりの勝ち気な声が脳裏に蘇る。

誠は、その翼を39号機のサイドカウルにボルトオンした。

剛(蔵野家の鉄)と、あかりのカーボン

相反する二つの力が、シロの黄金マブイを触媒として一つに溶け合っていく。39号機は、夕闇の中で黄金の日本刀のような鋭さと、神鳥の羽根のようなしなやかさを併せ持つ、異形の機体へと進化を遂げていた。

(フゴォォォォォン!!)

シロが力強く吠える。その咆哮が、大村の鏡面をわずかに震わせた。

「さあ、予選最終日、第12レース! ピット離れから、火花が散るようなマブイの激突です!!」

実況のボルテージが上がる。

1号艇・新武友哉のピット離れは、もはや「瞬間移動」に近い。マブイを水面に叩きつけ、その反動で一気に1コースを主張する。その際、新武から放たれた「島原の龍」の波動が、青白い燐光となって大村湾を這い回り、後続の艇を威圧した。

「速水くん、昨日のは良かレースだったバイ。ばってん、ここからが本当の大村の怖さバイ。俺が『潮目』を支配するけん」

新武の念波が、誠の脳内に直接響く。

新武は1コースに機体を固定し、微動だにしない。通常、大村で新武のインを奪うことは不可能に近い。誠は、無理な進入争いを避け、ゆっくりとボートを後退させた。

「新武さんのインは、正面からぶつかっても崩せないっす。なら……俺は『風』になるっす!」

誠が選んだのは、4コース。

ダッシュを乗せるための「4カド」だ。

これには、スタンドのファンからもどよめきが上がった。大村のイン絶対有利という神話に対し、あえて外側からの捲り勝負を挑む。それは三冠王者としての誇りと、新武という巨大な壁を乗り越えるための、誠なりの解答だった。

「大時計、始動!! 3、2、1……スタートォォ!!」

号砲と共に、6隻の機体が一斉にスリットラインへ向かって加速する。

「全艇ゼロ台! 究極の同速スタートだぁぁ!!」

1号艇の新武、4号艇の誠、共にコンマ05。

一寸の狂いもない完璧なタイミング。しかし、加速の質が違った。

誠の39号機は、あかりのカーボン翼が風を捉え、水面から数ミリ浮き上がるような「滑空加速」を見せる。対する新武は、大村の海水を自らの重圧で固め、水面そのものを道路に変えるような「剛力加速」だ。

1マーク。

新武が先行してハンドルを切った。その瞬間、彼の機体から放たれたマブイが、1マーク周辺の水面を幾何学的な「龍の鱗」のように結晶化させた。

「……何かっすか、これ!?」

誠は戦慄した。

新武の作り出した引き波は、単なる水の流れではない。マブイによって高密度に圧縮された海水の塊だ。後続のボートがその引き波に乗れば、まるでコンクリートの壁に衝突したかのような衝撃を受け、機体は粉々に砕け散るか、大きく弾き飛ばされる。

「これが『島原の龍』の奥義、『水龍・鱗壁うろこかべ』!! 速水誠の黄金の進路を、完全に封じ込めたぁぁ!!」

誠は外から捲ろうとするが、龍の鱗に接触した瞬間、39号機のカウルが悲鳴を上げ、機体が制御不能なほどに跳ね上がった。

「くっ……重いっす! 新武さんの引き波、水じゃないっす……まるで山が動いてるみたいっす!!」

絶体絶命。

新武のイン速攻が完成しようとしたその時、誠の膝の上で、シロが鋭く鼻を鳴らした。

(フゴッ! フゴッ!!)

シロが指し示したのは、干潮によって露出した消波装置と、新武の鱗壁との間に生まれた、わずか数センチの「空気の通り道」だった。

干潮により水深が浅くなったことで、海底の地形が海風を複雑に屈折させている。その微かな風が、龍の鱗の「継ぎ目」を叩いていた。

「そこっすか、シロ! 浮かせるんじゃない……『切り裂く』っす!!」

誠は、三冠の死闘で培った反射神経で、チルトを瞬時にマイナス0.5からプラス3.0へと跳ね上げた。

金属性のプロペラが、水面ではなく「空気を切り裂く刃」へと変わる。

あかりのカーボン翼が、海底から吹き上がる上昇気流を捉えた。

『奥義:黄金・旋風つむじかぜスカイハイ』!!

高く跳んで逃げるのではない。

誠は、新武の鱗壁の「節(つなぎ目)」を狙い、機体を極限まで傾けた。

金属性の鋭利なエッジが、マブイの結晶を物理的に両断する。

旋風のごとき超高速回転を伴った旋回が、龍の守りを内側から引き裂いた。

「バッ……馬鹿な! 俺の鱗壁を、力技で斬り裂いたとや!?」

新武が驚愕に目を見開く。

黄金の閃光を纏った39号機は、砕け散る水の鱗を突き抜け、新武の1号艇の懐、最短航路へとその舳先をねじ込んだ。

水面スレスレを滑空しながら、新武のインを「差し切る」。

競艇の常識ではあり得ない、空中と水面を同時に支配する「第四の走法」。


「新武の鉄壁を、誠の旋風が切り裂いたぁぁぁ!! 地元の神話が、三冠王の黄金によって今、粉々に塗り替えられるのか!!」

からくり競艇公式YouTube『カササギ』PV更新

> 【龍虎相搏】速水誠、大村の絶対支配者・新武友哉を「旋風スカイハイ」で撃沈寸前! 黄金の龍と島原の龍、バックストレッチで並走!! 累計PVは驚愕の13億を突破!! サーバーは完全に溶けたが、世界中の熱狂は止まらない!!

>

【1マーク通過後の情勢】

| 順位 | レーサー | 状態 | 属性 |


| 1位争い | 速水 誠 | 旋風スカイハイで内を奪取。加速中。 | 黄金・風 |

| 1位争い | 新武 友哉 | 鱗壁を破られるも、驚異の立て直しで並走。 | 水龍・岩 |

| 3位 | 濱田 一翔 | 昨日の大破を乗り越え、意地の差しで追随。 | 江戸・火 |

| 4位 | 石田 健太郎 | 虎視眈々と展開を突く。 | 無音・影 |

バックストレッチに向いた瞬間、二艇は並走状態となった。

右に新武の黒い重圧、左に誠の黄金の旋風。

二つの巨大なマブイが激突し、大村湾に雷鳴のような衝撃波が吹き荒れる。

その時、誠のイヤーモニターに、ノイズ混じりの絶叫が飛び込んできた。

「誠くん、そのまま差し切って!! 私の氷が……誠くんの道を、絶対に滑らせる!!」

それは、レディースクラシックの準決勝を終えたばかりの、守屋あおいの声だった。

彼女もまた、自らのレースでボロボロになりながら、誠の戦いを見守っていたのだ。

そして、その隣からは、あかりの泣き笑いのような声も聞こえる。

「師匠! あかりのカーボン翼、最高っしょ!? 龍だろうが神様だろうが、ギャルの技術でぶっ飛ばしてくるっす!!」

二人の、そして山口支部の仲間たちの想いが、39号機のエンジンを限界を超えて吠えさせる。

「新武さん……俺は、ここで止まるわけにはいかないっす。四冠、そしてその先の景色を、あいつらに見せるって決めたんっすよ!!」

誠の黄金マブイが、大村の夕闇を真昼のような輝きで照らし出した。

新武のベテランのハンドル捌きか、誠の若きマブイの瞬発力か。

運命の2マーク、大村の海が、再び割れる。


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