第176話:マブイゼロの鉄槌、Vモンキーを撃墜せよ ― 瓜生の男気 ―
2030年8月27日、長崎県。大村競艇場。
「発祥の地」のプライドが渦巻く大村湾のバックストレッチは、今や現世の物理法則が通用しない「神域」へと変貌していた。
予選第8レース。60メートルラインという、通常の競艇では考えられないほどの長距離助走から放たれた5つの弾丸が、時速100キロを超える極限状態で1マークへと殺到する。
先頭を行くのは、東京支部の刺客、石田健太郎。彼の奥義「ナイトサイレンサー」は、大村の海が持つ高い浮力を完璧に手なずけ、マブイの音すら消し去ることで、水面との摩擦を理論上ゼロにしていた。
その後方、外側から誠を飲み込もうと、濱田一翔の「Vモンキー」が巨大な水壁を作り上げ、牙を剥く。
「三冠王の看板、ここで下ろしてもらうぜ! 江戸の華に散りな!!」
濱田の吠え声と共に、V字に切り裂かれた海水が、空中へと舞い上がっていた速水誠の39号機を、物理的な質量となって叩き落とそうとしていた。視界は真っ白な飛沫に覆われ、誠の黄金マブイは海水の塩分に吸い出され、出力が不安定になる。
まさに絶体絶命。黄金の龍が、大村の深淵に沈もうとした、その時だった。
「誠、そのまま行け! 江戸の華は、俺が根こそぎ散らしてやるバイ!!」
6号艇、マブイを一切持たぬマブイ0の猛者・瓜生俊樹。
彼が咆哮した。瓜生は、自らの機体を、濱田が描き出したV字航跡の最も鋭利な頂点へと、文字通り「強引」にねじ込んだのだ。
「なっ……!? 瓜生、貴様正気か! この速度でぶつかれば、ただじゃ済まねえぞ!!」
濱田の驚愕の叫びが響く。当然だ。マブイによる防御フィールド(属性障壁)を持たない瓜生のボートにとって、時速100キロを超えた状態での他艇への接触は、生身の肉体に数十Gの衝撃がかかる、自殺行為に等しい暴挙だ。
しかし、瓜生には、目に見えるエネルギーなど必要なかった。彼には、誰よりも重い「魂の重さ」があったのだ。
『奥義:マブイゼロ・全速ダンプ(鉄槌)』!!
ドォォォォォォォォォォォォォン!!!!!
大村の海面を震わせる凄まじい衝突音。
瓜生のボートの舳先が、濱田の機体の右サイドカウルに物理的な「質量」として叩きつけられた。マブイによる緩衝材など一切ない、鋼鉄と魂の激突。
そのあまりに純粋な衝撃に、濱田の描いた精密なV字軌道は強制的に崩壊させられ、大村湾のうねりの中へと、あえなく弾き飛ばされた。
「瓜生……ありがとう!!」
誠の瞳に、熱いものがこみ上げる。
空中、10メートル近い水飛沫が舞う地獄のような光景の中で、瓜生が命をかけて作り出した「空白の一秒」。誠はその一瞬を、コンマ数秒の遅れもなく掴み取った。
「シロ、ここだ! 瓜生の想い、無駄にはさせない!!」
(フゴォォォォォォォォォン!!)
空中から着水した瞬間、誠は新調された金属性パーツの「剛性」を全開にした。
通常のボートなら、着水の衝撃で船底が割れるか、跳ね上がって転覆する。しかし、蔵野家の技術が組み込まれた39号機は、大村の硬い海水を真っ向から「斬り裂き」、着水エネルギーをそのまま前方への推進力へと転換した。
「誠、着水成功! 瓜生がこじ開けた最短航路を、黄金の光が一直線に駆け抜ける!! 先行する石田の無音の背中、その射程圏内に捉えたぁぁ!!」
先行する石田健太郎の「ナイトサイレンサー」は、たしかに静寂の極みにあった。
しかし、もはやそれは、誠の黄金を惑わすことはできなかった。
シロの鋭敏な聴覚は、石田の機体が水を切る、超高周波の「微かな振動」をレーダーのように捉えていたのだ。そのデータは、シロから誠の脳内へと、黄金のグリッド線となって直接投影される。
「見えたっす……石田さんの『無音の航跡』!!」
誠は瓜生への感謝と、三冠王としての誇りを黄金マブイに昇華させた。
1滴の無駄もない、極限の精密コントロール。
誠の39号機は、2マークの手前、石田が最も隙を見せる「ターンの入り口」へと、黄金の槍となって飛び込んだ。
からくり競艇公式YouTube『カササギ』PV更新
> 【衝撃の自己犠牲】瓜生俊樹、渾身の肉弾ダンプで江戸のVモンキーを撃墜! 誠、恩師と友の想いを背負い、石田の無音を黄金の旋回で撃ち抜くか!? 累計PVは驚愕の12億を突破!! 掲示板には「瓜生アニキ、漢すぎるだろ……」の書き込みが殺到!!
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【予選第8R:2マーク攻防・戦況解析】
| 順位 | レーサー | 状況 | マブイ残量 |
| 1位争い | 速水 誠 | 石田の懐へ強襲。金属性パーツがフル共鳴。 | 85% |
| 1位争い | 石田 健太郎 | 無音を破られ、初めて機体が激しく震える。 | 40% |
| 3位 | 平野 一貴 | 弟子の激走を見届け、冷静に後続をブロック。 | 60% |
| 5位 | 瓜生 俊樹 | 衝撃でボートが大破寸前。だがその顔は笑っている。 | 0% |
| 着外 | 濱田 一翔 | 水飛沫に消える。「長崎の海は怖すぎる……」 | 15% |
5. 黄金の咆哮、大村を支配する
2マーク。
石田は、自らの背後に迫る「黄金の熱量」に戦慄していた。
「……信じられない。僕の音を、気配を、どうやって捉えたんだ……速水誠、君の黄金は、海さえも変えるというのか!」
石田の無音の旋回に対し、誠はあえて「咆哮」を選んだ。
黄金マブイを39号機の周囲に高周波の振動として展開し、海水の浮力を強制的に「面」で押し潰す。
「決める! 大村の海に、俺たちの、山口支部の名前を刻むぞ!!」
黄金の光が、石田の無音の影を飲み込む。
その一瞬、尼崎から運んできた「三冠」の重みが、大村の「四冠」へと続く第一歩となって、水面に深く、力強く刻み込まれた。
ピットでは、破損した機体から降りる瓜生が、パスタを抱き寄せながら、モニターに映る誠の先頭を確認して満足げに頷いていた。
「……よくやった、誠。お前の黄金、大村の海にも届いとる」
四冠への道。
それは、友が繋ぎ、師が導き、己が掴む、黄金の覇道。




