↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
からくり競艇 ~黄金の波切り、魂のフルスロットル  作者: 水前寺鯉太郎
第5部:グランプリへの道

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
164/185

無色の鉄槌、漢たちのバトン


 2030年8月3日。兵庫県、尼崎競艇場。

 準優勝戦のピットに、かつてないほど鋭利なマブイの波動が満ちていた。

 昨夜、野田あかりの不眠不休の外科手術によって、蔵野家伝来の金属性パーツを組み込まれた速水誠の39号機は、もはや龍というよりは抜身の刀のような、触れるものすべてを切り裂くような静かな闘気を纏っていた。

 俺はヘルメットのシールドを下ろし、隣に並ぶ一人の男に視線を送る。

 6号艇、瓜生俊樹。

 からくり競艇という、マブイの出力がすべてを決める狂った世界において、マブイを持たないという絶望的なハンデを背負いながら、トップレーサーに君臨し続ける男だ。

「俊樹……」

「誠、気負うな。お前の黄金は、あかりが守り抜いた。なら、その道を切り拓くのは俺の役目だ」

 瓜生の声には、マブイの波動など一切混じっていない。ただ、極限まで鍛え上げられた一人の競艇選手としての、冷徹なまでの決意だけが宿っていた。

「大宮橋右衛門杯、準優勝戦! 1号艇・速水誠、2号艇・西野貴志、3号艇・大宮忠志……全艇、スリットラインへ向かって突入! ……ああっ、3号艇・大宮、痛恨の出遅れだぁぁ!!」

 実況の悲鳴に近い声が響き渡る。昨日の機獣『大ムカデ』使用による精神的・肉体的過負荷が、大宮忠志の肉体を蝕んでいた。コンマ25。からくり競艇のスピードレンジでは、一瞬の瞬きが永遠の距離となる致命的な失策。

「くっ、体が……言うことを聞かない……。だが、負けません! 速水誠、あなたの首を獲るまでは!! 行きなさい、大ムカデ!!」

 焦実に駆られた忠志は、スリット直後に禁忌のレバーを再び引いた。尼崎の水面が大きく盛り上がり、昨日俺を絶望の淵に突き落とした巨大機獣が再びその姿を現す。ターゲットは、1コースから完璧な旋回に入ろうとする俺の39号機。だが、その狂った殺意の航路を塞ぐように、大外6コースから信じられない速度で艇をねじ込んできた影があった。

「大宮……お前のからくり遊びは、ここで終わりだ」

 6号艇、瓜生俊樹。彼が駆るボートには、からくり仕掛けのブースターも、マブイ石の増幅器も搭載されていない。一般の競艇場で使われる極めて標準的な、しかし瓜生の手によって極限まで整備された旧式ボートだ。通常、マブイの防御フィールドを持たないボートが機獣に接触すれば、紙屑のように粉砕される。しかし、瓜生は逃げなかった。

「行くぞ、パスタ」

 フガッ!!

 瓜生はハンドルを折れんばかりに深く切り込み、全速のまま大宮の3号艇の懐へと飛び込んだ。マブイによる加速ではない。波の反動を利用し、自らの体重移動だけで遠心力を極限まで制御した、人間業とは思えない旋回。

 奥義――『マブイゼロ・鉄槌』!!

 マブイの補助がないからこそ、瓜生のボートは属性による干渉を一切受けない。ただの鉄と木の塊が、物理法則という名の絶対的なルールに従い、大宮の機体へと襲いかかる。

 ドォォォォォォォォン!!!!!

 尼崎の静水面に、金属が激しくひしゃげる破壊音が轟いた。瓜生は、機獣の制御に全神経を注いでいた大宮の3号艇のサイドに、自らのボートを物理的な質量として叩きつけたのだ。

 【からくり競艇公式YouTube『カササギ』Template更新】

 > 【衝撃のネービラ】瓜生俊樹、生身の肉弾戦で大宮の禁忌を粉砕! 「魂の重さ」にマブイは不要であることを証明した漢の鉄槌に、世界中のタイムラインが完全大狂熱!!

「瓜生の捨て身のダンプ!! 大宮、大きく外へ飛ばされたぁぁ!!」

 マブイのバリアに守られたはずの大宮の機体だったが、瓜生の生身の執念が込もった一撃は、そのバリアを物理的な衝撃で突き破った。衝撃で大宮の意識が一瞬白濁する。その瞬間、機獣との精神的同期が途切れた。主の制御を失った大ムカデは、尼崎の水面で悲鳴のような金属音を上げ、のたうち回った。昨日、俺を追い詰めたあの圧倒的な威容はどこへやら、制御回路がショートし、内側から爆発するように霧散していく。

「誠、今だ! 行けぇ!!」

 ダンプの衝撃で自らのボートも激しく跳ね、転覆寸前の状態になりながらも、瓜生が吼えた。その声が、迷っていた俺の背中を強く押した。

【準優勝戦・11R:決着】

| 着順 | レーサー | 状況 | 備考 |

| 1着 | 速水 誠 | 三冠王手 | 瓜生が開いた最短航路を「金属性」の伸びで突き抜ける。 |

| 2着 | 西野 貴志 | 優出決定 | 混乱の隙を突く、熟練のハンドルさばき。 |

| 3着 | 瓜生 俊樹 | 執念の連対 | ダンプで大破寸前ながら、驚異の立て直しで3着。 |

| 着外 | 大宮 忠志 | 予選落ち | 機獣の自爆による衝撃で失速。 |

 レース後、ボロボロになったボートと共にピットに戻ってきた瓜生を、俺は涙を堪えきれずに迎えた。

「俊樹……ありがとう」

「よせ。俺はただ、邪魔なゴミを掃除しただけだ」

 瓜生はぶっきらぼうに言いながら、ヘルメットを脱いだ。その顔には、大宮のバリアを突き破った際の激しいGによる内出血が浮かんでいたが、その目はかつてないほど澄んでいた。

「誠。俺にマブイはないが、お前の黄金が本物であることはわかる。明日の優勝戦、尼崎のこの静かな水面を、お前の光でいっぱいに輝かせてこい」

 瓜生の膝の上で、パスタがスーに向かって「フガッ」と、誇らしげに鼻を鳴らした。スーもまた、瓜生の闘志を称えるように、その足元にそっと寄り添った。

「ああ。俺は絶対に勝つ。俊樹の繋いでくれたこの道を、三冠まで走り抜けるぞ!!」

 俺の39号機から放たれる黄金のマブイは、金属性の硬度を得たことで、もはや何者にも遮られない意志の光へと進化していた。尼崎の夜が明ければ、いよいよ最終決戦。大宮家の総帥が待ち構える優勝戦が幕を開ける。

「あかり、あおい、スー……そして俊樹。みんなの想い、全部背負って俺は走る!!」

 俺の誓いの叫びが、夜の尼崎のピットにどこまでも高く響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。