第140話:女王たちの氷壁、新星の泥沼強襲 ― もも、覚醒のイン差し ―
2030年4月22日、13時15分。
江戸川競艇場、第5レース予選のバックストレッチ。
そこには、人類が競艇というスポーツに持ち込み得た「冷気」の限界点が存在していた。
1番人気の「絶対女王」鎌倉明奈。そして、誠への愛と山口の誇りを胸に、篠田チームの魔改造を受け入れた守屋あおい。二人の「氷の女王」による意地の張り合いは、もはや着順を競うレースの枠を大きく踏み越え、中川の水面上に独自の理を強いる**「極寒の領域争い」**と化していた。
カクテル光線が反射するのは水面ではない。あおいが作り出した分厚い氷盤と、鎌倉が撒き散らすダイヤモンドダストのプリズムだ。後続の選手たちは、この二人が放つマブイの吹雪によって視界を奪われ、文字通り「物理的な壁」と化した氷に航跡を阻まれていた。
「あおいちゃん、しつこいわよ! その硬すぎる氷、私のエッジで全部砕いてあげる!」
鎌倉明奈が、氷上を滑走する『クリスタル・エッジ』をさらに鋭角に刻む。彼女の機体から伸びるフィンの刃が、あおいが敷き詰めた氷の路面を火花のように散らしながら切り裂いていく。それは芸術的なまでの破壊。大阪の女王は、相手の土俵を逆利用することで、その優位性を自らの加速へと変換してみせた。
「譲りません……! 誠くんに、『山口の女王』は私だって、私だけだって、分からせてやるんです!!」
あおいの瞳は、すでにハイライトを失い、深い「嫉妬の蒼」に染まっていた。彼女は篠田チーム直伝の「氷河プロペラ」の回転数をレッドゾーンまで叩き込む。
ドォォォォン!!
機体後方から噴出された巨大な氷塊が、鎌倉の進路を物理的に塞ごうと水面から突き出す。
二人の女王は、お互いのマブイを打ち消し、牽制し、絡み合うようにして第2ターンマークへ突入した。しかし、あまりにも高い出力の冷気がぶつかり合った結果、水面は異常なまでの硬化を起こし、二人の艇は遠心力に抗いきれず、大きく外側へと膨らんだ。
その一瞬。
女王たちの足元で、これまで凍結に耐えていた江戸川の本質――「泥」が、不気味に、そして力強く蠢いた。
「……今です! 先輩たち、ごめんなさいですぅぅ!!」
山口支部の最年少、若干20歳の原田もも。
彼女は、あおいの氷が作り出した「煌びやかで冷たい道」を、最初から見ていなかった。彼女が狙いを定めていたのは、氷盤が割れ、重厚な泥が剥き出しになった**「ぐちゃぐちゃの泥濘」**だった。
あかりの同期であり、共に山口のピットで泥にまみれて整備を学んできた彼女の艇には、あかりが極秘で組み上げた「泥粘性推進スクリュー」が装備されていた。
『奥義:もも色ドロ沼ターン』!!
「えっ!? ももちゃん!?」
あおいが驚愕して内側を見たときには、ピンク色のヘルメットを被った小さな影が、氷の女王たちが空けた最短コース、すなわち江戸川の「底」を、凄まじい泥飛沫を上げながら猛スピードで駆け抜けていた。
氷の上を滑るのではなく、泥を掴み、泥を喰らい、その反発力で弾丸のように突き進む。誠の「泥杭」をさらに軽量化し、若さゆえの爆発力を加えた、まさに「山口の真髄」とも言える一撃。
「1着争い、大波乱!! 女王二人が競り合う内側を、山口の新星・原田ももがズバッと差し切ったぁぁ!! 氷の壁を泥が突き破った!!」
からくり競艇公式YouTube『カササギ』PV更新
> 【新星誕生】原田もも、女王・鎌倉と先輩・あおいを泥に沈める衝撃のイン差し! 山口支部の層の厚さに全日本が震える!! 累計PVは一気に1億8,000万を突破!!
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ももは「ひぇぇ、後で絶対に怒られるぅ!」と半泣きで叫びながらも、一度掴んだ泥の感触を離さない。彼女の機体は、ピンクのマブイを噴射しながら、後方の女王二人を瞬く間に引き離していく。
ピットでは、野田あかりがモニターを叩き割らんばかりの勢いで飛び跳ねていた。
「ももー!! そこでアクセル緩めたらギャル失格っすよ! 先輩たちの顔色なんて見るな! そのまま泥だらけで逃げ切るっす!!」
誠もまた、呆然としながらモニターを見つめていた。
「……ももちゃん。あんなに細い体で、あの重い泥を御しきるなんて。……山口の女子、恐るべしっす……」
4. ゴールライン:勝者と、絶対零度の微笑み
「確定が出ました! 1着、6号艇・原田もも! 2着、3号艇・鎌倉明奈! 3着、2号艇・守屋あおい!!」
江戸川の歴史に刻まれるジャイアントキリング。
山口支部の新星が、大阪の女王と山口の守護神を土壇場で泥に沈めたのだ。
【第5R:確定結果と表情】
| 順位 | レーサー | レース後の様子 |
| 1着 | 原田 もも | 勝利の喜びよりも「あおい先輩の顔が見れない」と泣きべそ。 |
| 2着 | 鎌倉 明奈 | 「……やられたわね。あの泥臭い加速、まるで……」と誠の幻影を見る。 |
| 3着 | 守屋 あおい | 「も、ももちゃん……。後で、ピットの裏で『お話』しましょうか?」 |
ピットに戻ってきたももは、勝利の凱旋とは思えないほどガタガタと震え上がっていた。彼女を待ち構えていたのは、機体から降りたばかりの守屋あおい。
あおいは、いつもの慈愛に満ちた笑顔を浮かべていた。だが、その背負っているマブイは**「マイナス100度」**。周囲の空気がパキパキと音を立てて凍りついていく。
「ももちゃん、ナイスレース。山口支部の勝利に貢献してくれて嬉しいわ。……でも、私の氷を『踏み台』にして、誠くんの目の前でかっこよく差し切ったあの感触、忘れないでね?」
「ひ、ひぃぃぃ! あおい先輩、わざとじゃないんですぅぅ! あの、隙間が、隙間があったから、ついつい手が動いちゃって……!」
ももが逃げ惑う中、誠が不用意にも駆け寄ってしまった。
「ももちゃん、凄かった! まさかあの江戸川の泥をあんな風に味方につけるなんて! さすが山口の期待の星だ!」
誠がももの肩を叩き、純粋な賞賛を送ったその瞬間。
あおいの瞳から、最後の光が消えた。
「……あら。誠くん。ももちゃんのこと、そんなに見てたの? ……私の『氷の地獄』、まだ冷え方が足りなかったかしら……?」
「あ、あおい? なんでそんなに機体の出力を上げてるんすか? ……あおいさん! 氷の槍がこっちに向いてるんですけどぉ!!」
からくり競艇公式YouTube『カササギ』PV最終更新
> 【山口内乱!?】殊勲の原田もも、守屋あおいの「嫉妬の氷河」に飲み込まれる寸前! 誠、フォローのつもりが火に油、いや氷に窒素! 伝説の泥仕合は、第6レースへ続く!!
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江戸川・マブイ開花賞、2日目。
山口支部の層の厚さは証明された。しかし、それと引き換えに、誠を巡る「女子レーサーたちのマブイ抗争」は、解凍不能の永久凍土へと突入しようとしていた。




