第133話:江戸川・マブイ開花賞開幕! ― 山口軍団の進撃と、黄金の野性 ―
2030年4月後半。
江戸川競艇場を包む空気は、数週間前の「死闘」の冷たさとは一変していた。
堤防沿いに並ぶソメイヨシノが満開を迎え、吹き荒れる春の嵐によって散らされた花びらが、中川の水面を淡いピンク色に染め上げている。だが、その風流な景色に騙されてはならない。
「……また戻ってきた、この魔境に」
速水誠は、39号機のシートに座り、水面を見据えた。
表面はピンク色の絨毯に覆われているが、その下では東京湾からの強烈な「上げ潮」と上流からの「下げ潮」が激突し、マブイの波動が狂ったように渦を巻いている。
今回の開催は**『江戸川・SGマブイ開花賞』**。
江戸川を完全制覇した誠の名声は全国に轟き、今や山口支部は「泥を制した最強軍団」として、日本中のレーサーたちの標的となっていた。
ピット内は、かつてないほど「山口弁」の熱気に満ちている。
今回の山口勢は、誠を筆頭に最強の布陣で乗り込んできた。
「師匠! 江戸川の泥、今日も最高に煮え繰り返ってるっすよ! 桜の塩漬けにしてやりたい気分っす!」
最も大きな声を上げているのは、今回の目玉の一人、野田あかりだ。
ギャルな見た目とは裏腹に、江戸川教習所を首席で卒業した才女。前回はメカニックとして誠を支えた彼女だが、今回はついに選手として江戸川に初参戦。
誠直伝の「泥杭」走法を、エンジンのリミッターを外してマブイを爆回しする独自の「ギャル・ドリフト」に昇華させ、試運転から既に異彩を放っている。
「あかり、油断するなよ。今日の相手は、昨日までの奴らとはマブイの厚みが違うっす」
誠が釘を刺すが、彼の背後からは、あかりの明るさとは真逆の、背筋を凍らせるような「マブイの冷気」が漂っていた。
山口支部の守護神、守屋あおい。
彼女は誠と恋仲でありながら、弟子として誠にベタベタするあかりに対し、静かな、しかし苛烈な嫉妬心を燃やしていた。彼女の機体からは、周囲の空気を凍らせる「氷のマブイ」が漏れ出している。
「……誠くん。弟子への指導もいいけれど、自分のレースも忘れないでね。もし1マークで鼻の下を伸ばしてたら、私がダンプ(体当たり)で江戸川の底まで沈めてあげるから」
「あ、あおいさん、そんなに睨まないでほしいっす……。あかりはただの弟子っすよ!」
誠が冷や汗を流していると、彼の肩に乗るシロ(ペキニーズ)が、あおいの愛犬、ポメラニアンのヘラに鋭い視線を向けられた。
ヘラは「ワン!(誠を甘やかさないわよ!)」と誠を威嚇し、シロは「(チッ、こいつの飼い主は江戸川の波より怖ぇな)」と耳を伏せる。
さらにその横には、あおいと同じく山口の次世代女王候補、塩田まなみ。
そして、マブイを全く持たないことで逆に存在を消す「賞金稼ぎ」の瓜生俊樹。
山口支部――通称「平野グループ」を中心とした結束は、今や鉄壁の要塞と化していた。
だが、迎え撃つ遠征組も黙ってはいない。今回の「開花賞」は、誠を王座から引きずり下ろすための「誠包囲網」と言っても過言ではなかった。
【佐賀・福岡勢:絶対王者の旋回】
佐賀支部からは、泣き虫の天才・大峰幸太郎。
彼はフレンチブルドッグの「ムネリン」と共に、水面全体を支配する圧倒的なマブイ量を誇る。彼のマブイは「海」そのものを支配し、江戸川の濁流さえも彼の意のままに操る静かなる威圧感を放っていた。
【愛知支部:空中戦の支配者】
愛知支部からは、瓜生と同じくマブイ0の特異体質を持つ水谷佳恵。
チルト3度の使い手であり、彼女の機体は誠の「スカイ・ハイ」に匹敵する、あるいは凌駕するほどの揚力を持つ。江戸川の空を飛び、泥を無視して滑空する彼女は、誠にとって最大の相性最悪なライバルとなる。
【大阪支部:女王のレッドカーペット】
大阪支部からは、現女王・鎌倉明奈。
師匠である坂田結衣と共に、江戸川の泥さえも「女王のレッドカーペット」に変える気迫で参戦。彼女の機体から放たれるマブイは、周囲の艇を平伏させる王者の香気を纏っている。
「1R、予選スタート! 1号艇は山口の野田あかり、対するは大峰の弟子・宮地明! 江戸川の泥に山口のギャルがどう立ち向かうのか!」
ピット離れ。あかりの機体からは、桜の花びらと同じピンク色のマブイ火花が激しく散っていた。
「行くよー! ウチの最強の差し、見せつけたるし!!」
スタートライン。あかりは誠直伝の衝撃吸収バイオ・サスペンションを独自の「ギャル・チューン」で強化。荒波の中でバランスを崩すどころか、あえて波の頂点を飛び跳ねるようにダンスを踊る**『ピーチ・バウンス』**を披露する。
「な、なんだあの動きは!? 波の上でステップを踏んでいるのか!?」
1マーク。先行する宮地に対し、あかりは「泥杭」の原理を応用しつつ、マブイをプロペラの先端で爆発させた。泥を掴むのではなく、泥を「爆破」してその反動で一気に内側を抉る!
「差しが決まったぁ!! 山口の野田あかり、デビュー初戦から江戸川の洗礼を跳ね返したぁ!!」
堤防の上では、もう一つの「開花賞」が行われていた。
誠の愛犬シロが、黄金の紋様をチラつかせながら、大峰の飼い犬**ムネリン(フレブル)と、宮地の愛犬毅**の前に威風堂々と座り込んでいる。
(……おい。ここのナワバリがどこの誰のものか、分かってんだろうな? 昨日の優勝旗を噛みちぎったのは俺様だ。佐賀だろうが福岡だろうが、俺様の許可なく江戸川の泥を啜るんじゃねぇぞ)
シロの放つ黒鉄のマブイに、他県の機獣たちは思わず身を縮める。
「クゥン……(このペキニーズ、昨日までとはマブイの質が違う……)」
からくり競艇公式YouTube『カササギ』PV更新
> 【マブイ開花】江戸川に山口支部旋風! 弟子・野田あかりが初戦から大暴れ! 累計PVは一気に4,000万を突破。女王・守屋あおいの冷たい視線が、誠を射抜く!? 誠、今夜は生きて帰れるのか!?
>
PVのカウンターは、あかりの快勝と山口支部の圧倒的な存在感によって跳ね上がり、4,000万の大台へ。
しかし、画面の隅で誠をじっと見つめるあおいの「氷のマブイ」の数値が、誠のメインモニターに「警告:接近中」と表示される。
「あおいさん、今のはあかりの技術を褒めてただけで、別にデレデレしてたわけじゃないっす……!」
「……ふーん。誠くん、次のレースは私と同じ第12Rよね。1マークで、どっちのマブイが本物か、じっくり教えてあげる」
誠の背筋に、江戸川の冷たい水が流れた。
江戸川の魔物よりも恐ろしい、山口の守護神。
『マブイ開花賞』。それは、全国の強豪との戦いであると同時に、誠にとっての「家庭内サバイバル」の幕開けでもあった。
【SGマブイ開花賞:初日終了後の情勢】
| 注目選手 | 所属 | 状態・コメント |
| 速水 誠 | 山口 | 泥杭の練度は完璧。しかし背後のあおいの圧が強すぎる。 |
| 野田 あかり | 山口 | 1R快勝。勢いは今大会No.1。師匠大好きオーラ全開。 |
| 守屋 あおい | 山口 | マブイが完全に「氷属性」へ変化。誠を沈める準備は万端。 |
| 大峰 幸太郎 | 佐賀 | 弟子の敗北に涙。「誠くん、泣かせないでよ……」。 |
| 水谷 佳恵 | 愛知 | チルト3度で江戸川の空を狙う。誠との空中戦を熱望。 |
「(兄貴、頑張れよ。堤防の上から応援してるぜ……主に、あおいさんの逆鱗から逃げ切れるかどうかをな)」
健吾が遠くから同情の視線を送る中、誠の激動の予選がスタートする。




