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地獄の入所式

2026年4月

琵琶湖の朝霧が立ち込める中、比叡山から吹き下ろす冷たい風が、教習所の鉄門を叩いていた。

ここは滋賀県・琵琶湖畔にそびえる**「大宮機艇教習所」**。

学費無料という甘い蜜に釣られ、全国から集まった数千人の志願者のうち、今日この門をくぐることが許されたのは、わずか数十名の「マブイの卵」たちだけである。

「……おい、手が震えてるぞ」

列に並ぶ速水 誠は、隣に立つ無口な少年に声をかけた。

声の主は、モデルのような整った顔立ちとは裏腹に、マブイの気配が一切しない瓜生 俊樹だ。

「……マブイがないと、この風は少し冷たく感じるだけだ」

瓜生は淡々と答える。彼はこの時代、極めて稀な**「コアマブイ0」**の志願者だった。マブイによる身体強化ができない彼は、生身の寒さに耐えている。一方の誠も、コアマブイはわずか1000。外付けを合わせても、この場に集まったエリートたちの半分にも満たない。

「俺も似たようなもんだ。量じゃ負けるが、コントロールで勝負するって決めてる」

誠が不敵に笑ったその時、列の前方から圧倒的な熱量が押し寄せてきた。

「マブイの量で勝負できない奴から脱落していく。それがこの世界のルールだよ」

振り返ったのは、宝石のような輝きを放つマブイを纏った山崎 征也だった。コアマブイ10000。彼が歩くだけで、周囲の気温がわずかに上がるほどの高密度な魂。その隣には、冷静な瞳の守屋 あおいと、負けん気の強そうな實森 ゆえが控えている。

講堂に集められた新入生たちの前に、一人の男が登壇した。

足音一つ立てない。だが、その男がマイクの前に立った瞬間、広大な講堂の空気が一変し、全員のマブイが萎縮した。

校長・上田 通彦。

通算1080勝、グランドスラム3回。かつて「不死鳥」と呼ばれ、異世界の戦場ですら無傷で帰還したと言われる伝説のレーサーだ。顔と指に縫合痕がありそれが生々しさを現している。

「……ここへ来たからには、これまでの名前も家系も忘れろ」

上田の声は、低く、重い。

「貴様らに与えられるのは、抽選で決まる不公平なエンジンと、自ら叩き出すプロペラ(ペラ)のみだ。ここではマブイの量など、ガソリンの量に過ぎん。コントロールを誤れば、自らのマブイで機体ごと爆散すると思え」

上田の鋭い視線が、一瞬だけ誠と、そしてマブイを持たない瓜生の上で止まった。

「今日から1年間、貴様らは『人間』ではない。からくり機体に魂を吹き込むための『部品』だ。ついてこれぬ者は、今すぐ琵琶湖に飛び込んで実家に泳いで帰れ」

入所式の直後、休む間もなく最初の訓練――「エンジン抽選」が始まった。

並べられたのは、長年使い古された教習用の蒸気タービンエンジン。

「……最悪だ」

誠が引き当てたのは、排気圧が不安定で、至る所に「サビカビ」の予兆が見える、誰もが忌避する**「死に体」の39号機**だった。

「誠、それ……タービンの軸が歪んでる。今の君のマブイ量じゃ、振動に負けて腕が壊れるよ」

守屋あおいが心配そうに覗き込むが、誠はエンジンの金属面にそっと手を触れた。

「……いや、いいエンジンだ。暴れ馬な分、マブイを流し込む『隙間』がはっきり見える」

誠はタブレットを取り出し、独自の計算で**「チルト0.5」**を打ち込む。

「持たざる者」の逆襲が、この琵琶湖の地から始まろうとしていた。



からくりスポーツ第2弾始動しました

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