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恐怖はAIから始まる  作者: ことぶき神楽
第二章 断片の収集

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第22話 生霊

「野々村さんの生霊ですか」

 常磐道が、悪霊は野々村だと言うのであれば、そういうことになる。

「いや、野々村さんは三日後の二十三日に亡くなったのです」

 未来形と過去形が一緒になった文章を聞き、有江は察する。

「未来の時間世界の野々村さんは二十三日に事故で亡くなり、現在の時間世界に現れているのですね」

「そうです」

 常磐道は言い切った。


「野々村さんは、先の質問の答えからすると、かなりの『運命論者』であるようです。事故で亡くなっても運命と諦めるしかないと答えられています」

 取材が始まって、常磐道が野々村に真っ先に投げ掛けた質問だ。

「亡くなった野々村さんは、ここにいる野々村さんも事故で亡くなる運命だと思ったのでしょう。しかし、時間世界は独立しています。起きるであろう事故を過去の時間世界で伝えれば、当然、避けようとします。歴史は変わるのです」

「私が避けようとすれば、事故に遭わないのですか」

「そうです。現に部屋に籠って避けようとしています。事故には遭いませんよ」


「それ以前に、悪霊は既に歴史を変えてしまったと思われます」

「姉乃さんですね」

 有江が確かめる。

「ええ。コンピュータは、野々村さんの死以前に深い悲しみに包まれると言ったのですよね。しかも、その悲しみを防ぐことができるとも」

「そうです。そう言いました」

「姉乃さんをさらい、悲しみを防いだのでしょう」

「姉乃はそのままでは、死んでいた?」

「深い悲しみとは、そういうことだと思います」

「つまり、姉乃さんは生きている、ということですね」

 いよいよ、有江の出番だ。


「でも、どうやって悪霊を退治し、姉乃さんを助け出したらよいのでしょう」

 そう言った有江は、野々村を悪霊呼ばわりしたことを詫びる。

「構いませんよ。動機はともあれ、悪霊に違いありません。私にできることがあるのなら何でもします。姉乃を救ってください」

「もちろん、野々村さんの協力は不可欠ですが……今日では、ありません」


 外は、薄暗くなり始めていた。

 公園で遊んでいた子供たちが帰ってきたようだ。「さよなら」と交わす言葉が微かに聞こえてきた。


「今、企画部に測定を依頼しました。夜間は霊体のエネルギー損失が少なくなり、こちらとしては不利です。明日、作戦の詳細をお話ししますよ」

 常磐道は、量子通信機をバッグにしまいながら話す。


 設置した機器はそのままに、野々村には外出しないように伝え、マンションを後にした。

 有江たちは、無事に階段を降り、問題なく車に乗り込んだ。

 調世会本部から指示される青信号だけの裏道ルートを通り、ホテルに戻る。


 ロビーに入った陽人は、ホッとしたような表情でつぶやく。

「なぜ、悪霊は……」

「AI反対派をつくり……」

 有江は言葉をつなぐ。

「死に至らしめるのか」

 常磐道も同じことを考えていたようだ。



 部屋に戻った有江は、すぐに防護服を脱ぎ、シャワーを浴びる。

 残暑と緊張でかいた汗を洗い流した。


 髪を拭きながら部屋に戻った有江は、パソコンを開き、調世会本部経由の回線に接続する。

 通常業務の校正メールが一本届いていた。

 有江は、最初の内こそテキストを読んでいたが、疲れからから、そのまま寝てしまった。

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