第21話 正体
「他の悪魔や堕天使に知られたらどうなりますか」
答えを薄々知りながらも、有江は常磐道に尋ねる。
「たちどころに、現世は悪魔たちに支配されるでしょう」
思ったとおりの答えだった。
そのとき、常磐道の背後に設置した観測装置がピーというアラーム音を発した。隣でビデオカメラを構えていた陽人が驚き、カメラを下に向ける。
「下根田さん、撮影を続けてください。悪霊がお出ましのようです」
有江は、玄関に設置した機器が作動したことを確認して、アラーム音を停めた。
「悪霊は、礼儀正しく玄関から入ろうとしていますね。ホントに、この部屋には入れないのですか」
「システムは、悪霊のエネルギーを検知し、それ以上のエネルギーで電磁場を発生させますから、入ることはできませんよ」
常磐道がそう説明する間にも、玄関のチャイムが何度も鳴り、玄関ドアを叩く音が響いてくる。
ピンポーン、ピンポーン。ドンドン、ドンッ。ピンポーン。
外を覗きに行ったところで誰もいないのだから、仕組みを知らなければ怖いに違いない。
いや、仕組みを知っていても怖い。
音が鳴り止んだ。
「諦めたようですね」
「悪霊はネットワーク上に戻ったのですか」
「そうだと思います。この部屋にもネットワークを介して入れば、エネルギーの消費は少ないはずですが、私たちが切断していますからね。悪霊も止むを得ず玄関に回ったのでしょう」
野々村の疑問に常磐道が答えた。
「さて、悪霊の正体も当りが付いていますので、エネルギー総量の測定を企画部にお願いしましょう」
常磐道は、量子通信機を取り出し、前面カバーを下にスライドさせた。液晶の画面が仄かに光る。
「わたしには、悪霊の正体に見当が付きません」
有江は、常磐道に尋ねた。
陽人もカメラを構えたまま、頷いている。
「そうですか。たぶん、ですけど、悪霊の正体は、野々村さんですね」
野々村は何も言えずに、常磐道を見ている。
「コンピュータが言った『私は、君自身だ』という言葉を信じるのですか」
有江は驚きを隠せない。
悪霊がAIと一体であれば、なおさら、その言葉を信じてはいけないはずだ。
「状況証拠は揃っているのですよ」
常磐道は、野々村に目を移す。
「野々村さんの会社『ソフト・クリムゾン』は、どなたが命名されたのですか」
「私……ですが」
ダジャレだ! 有江は気が付いた。
「姉乃さんは、野々村さんの声が聞こえたと言っているのに、野々村さんはコンピュータを介しての声しか聞いていません。自分の声を聞いても、それは自分の脳内の声だと勘違いしますからね」
常磐道は、量子通信機に打ち込みながら話を続ける。
「霊はどこでも通り抜けられるのですよ。それをわざわざ玄関から入ろうとするのですから、習慣とは恐ろしいものです」
いや、待って。
だって。
「野々村さんは、生きているのですよ」
有江は、目の前の野々村を見て言った。




