第20話 冥界
「悪霊はAIと一体となっている」
常磐道のその言葉に、野々村、有江、陽人の三人は明らかにつまらなそうな顔をしている。
「ありきたりですね」
有江が言葉にしてしまった。
「AIと一体であろうが、倒すべきは悪霊本体ですよね。AIが動くサーバー機ごと片付けられませんか」
今からでも、準備をしてオフィスに向かいましょうと、有江は先走る。
「いや、そう簡単ではなさそうです。今までの挙動から、悪霊はネットワーク上に存在しているようです。しかも、そのネットワークは冥界と繋がっていると考えられます」
「ネットワークは冥界と繋がっている」
常磐道のその言葉に、三人は明らかに理解できないといった顔をしている。
「何を言っているのか、わかりません」
有江が言葉にした。
「悪霊は一か月前から現世にいます。そして、今日までに信号やカーナビを操作して事故を引き起こし、ダンプの運転手や足場作業員、誘拐犯、警察官、そして先ほどのトレーラー運転手に憑依し、命を絶たせています」
ソファに戻りながら、常磐道は話を続ける。
「冥界に戻らずに、これだけのエネルギーを断続的に使うためには、冥界と繋がる悪魔や鬼のようにエネルギーの供給源が必要なのです」
野々村と有江もソファに戻る。
「野々村さんが、コンピュータと会話したのも、ウィルスやAIではなく、ネットワーク上の悪霊が語り掛けてきたのでしょう。姉乃さんの失踪も悪霊の仕業に違いありません」
「♯今井予言も悪霊が投稿したのですか」
眉間にしわを寄せながら野々村は常磐道に尋ねた。
「厳密に言うと、悪霊が投稿したものではなく、AIに指示したものだと思われます」
「なぜですか」
有江は間髪入れずに尋ねた。もはや、取材対象は野々村ではなく、常磐道になっている。
「昨日、野々村さんに見せていただいたSNSの#今井予言のアカウントは、@imai_prophecyでした。imaiは、I'm AIですね」
「ダジャレですか!」
それも悪霊の指示なのか。そんなふざけた悪霊がいるのだろうか。
「悪霊はAIに指示し、世論を『AI反対』に導いています」
「人々がAIに傾倒した方が、悪霊は影響力を行使できるのではないですか。なぜ、反対のことをするのでしょう」
野々村は、疑問を口にする。
「悪霊には、目的があるのでしょう」
常磐道も自信がないのか、それ以上のことは口にしない。
「ネットワークが冥界と繋がっているなら、わたしたちの手には負えないのではないですか」
有江は、フードの両耳を摘まみ、風を送り込みながら言った。
ネットワーク上を自在に動かれては、エネルギーの滞留を検知して対処することができないことを意味している。
「そう、私たちに勝ち目はありません。しかし、おかしいと思いませんか」
常磐道は、手を組み考えている。
ビデオを撮影しながら、陽人が左手を挙げている。
有江が指を差し、振り向いた常磐道に陽人は答える。
「攻撃が地味です」
「正解です。地味で弱いのです」
常磐道は、悪霊の攻撃が強いことを期待しているのか、有江には真意が見えない。
「この世界のネットワークを支配できるのなら、信号を変える程度の使い方はしないでしょう。人工衛星の一機も落とせばいい」
確かに。
「それは、何を意味しているのでしょうか」
話についていこうと野々村は真剣に聞いている。
「ネットワークが冥界と繋がっていることは、この悪霊しか知らないということです」




