残す者と生き残る者
地面に縫いついているように短い草を強風が加減もせずに揺らす季節の変わり目。
この強風と寒さが和らげば春がやってくるだろう。
包むように温かくて、花の香りが優しくて、そして別れと出会いが織りなすちょっと寂しい季節。
みんなが仕事に出ている正午の庭で、物思いに耽ってしまった。
この刹那家の庭も俺が整えたんだよな。
胸に手を当てて目を閉じる。強い風の音。はためく服の裾。運ばれては連れ去られる空気。
子供が産まれる月を選べるのなら、4月がいいな。
虫の知らせのように思いついた。たぶん俺の残り時間的にも、ベストなんだろう。まだ誰が相手になるかもわからないんだけれども。
目を開いて青空を見上げると、黒髪の魔女がほうきに乗って飛んでくるのを確認する。後ろには奴隷も乗せている。
刹那家のお母さんである明理さんと、悪魔族のケバブさんだ。
風が穏やかだったら庭でお茶でも嗜もうと思っていたんだけれど、自然はそう簡単に味方してくれない。
家に入ってリビングで話をする事に。
明理さんからは当然、娘たちの誰を選ぶかって問われる。
わからない、そもそも俺に選ぶ権利があるかもわからないから答えられなかった。
ただ明理さんが言うには、選択肢は俺にあるらしい。最善を選べるのは、俺だけなんだ、と。
疑うつもりはないけど、信じられないかな。
ケバブさんからも、どうして平然としていられるのか尋ねられる。
「明理と人生をと共に歩む奴隷だからよ、婚礼生誕の儀を控える奴隷の気持ちって言うか……不安とかがちゃんと解れねぇんだ。どうして平然と過ごせるんだ。怖くないのか」
怖くないわけではないけれど、なんか自然と受け入れられるんだよな。期待とか、嬉しさの方が勝っているのかな。
こんな気持ちになっている時、真っ先に浮かぶシルエットがある。だけれど瞬時に、次々に別のシルエットに移り変わっていくからどうも自信を持てない。
選べるのならみんなを選びたい。けど俺の魂を4分割にはできない。
何より託したい未来がある。
寄り添う未来も素敵だと思うけれど、未来を紡ぐ役割を捨てたくない。
まっすぐ視線を返したら、ケバブさんは背にもたれて天井を見上げだした。
「敵わねぇな。婚礼生誕の儀に挑む奴隷には、どいつもこいつもよぉ」
俺はそんな大それた奴隷じゃないんだけどな。けどそっか。子虎の奴隷も見てきたんだっけ。置いていかれるのは寂しいんだろうか。
訊いたら視線を逸らした舌打ちが返ってきて、明理さんがおもしろそうに笑っていた。
俺が捨てなきゃいけない刹那家での未来の姿なんだろうな。
2兎は追えない。選べる未来は1つしかないから。
覚悟はとっくに決まってる。足りないのは決断力。ビジョン。イメージ。
そういえば、千羽に似たような事を伝えた気がするな。天使のように白い羽なんだけれど、千羽の事だから大形の鳥の翼で例えた方が喜びそうだな。
結局答えなんて出ないままだけれど、不意に微笑んでしまった。




