淀みなき流れと迷いなき選択
スーパーに着いた私達は繋いだ手を解いた。
お父さんは買い物カートを手に、私はお買い物の邪魔にならないよう傘を預かる。
「こんな所にスーパーがあったんだね」
私の時代にここって、何があったっけ。少なくともスーパーはもっと別の、大きい所を使ってるんだよね。
「僕の馴染みのお店ですよ。よく奴隷仲間とご一緒する事もあります。ちぃちゃんの時代には、ここにスーパーはなさそうですね」
店内を己の庭のように動いては次々とお野菜をカゴに入れていく。
全体的に過去の方が少し値段は安いかな。それでも、その中で更に良質な物を瞬時に見抜いている。
「いい鮮度だけど、もっと吟味すれば最良を選べるんじゃないかな」
「ちぃちゃんはいい目を持っていますね。けど最適解が必ずしも正解とは限らないのですよ」
意味わかんないや。最適解なら間違いなく正解でしょ。
「質と量、そして時間をかけすぎない事が重要なんです。スーパーを利用するのは僕らだけじゃないですからね」
見渡してみると様々な奴隷たちが懸命になって買う物を吟味している。中には1歩下がって棚の前があくのを、首を長く伸ばしながら待っている人もいる……物理的に
「そっか。確かに私、自分の視点でしか買い物してなかったかも」
吟味するために思いっきり陣取ってたな。
「大事なのは完璧を求めすぎない事ですよ」
「えっ……完璧な方が凄いし、求めるべきじゃないの」
「人なんてどこか抜けているものなんです。それに完璧ばかり求めて張り詰めていては、生き方が窮屈になってしまいますからね。失敗を楽しめるぐらいが丁度いいんですよ」
愉快そうにお父さんは持論を教えてくれる。完璧な人は、完璧じゃない事を許せないから自分を追い詰めやすくなる……か。
「なんかその考え、強い生き方だよね」
「難しく考えなくていいんです。要は楽しむ余裕が大切なんですから」
楽しむ余裕、か。
なんとなく店内を見渡してみる。天井からぶら下がったエリア案内の中にお菓子コーナーを見かける。
「気になるなら行ってきても構いませんよ。一個ぐらいなら買ってあげますし」
「もぉ優太さん、子供扱いしすぎだよぉ」
ほっぺをプクーってさせて反抗すると笑われてしまった。解せぬ。
「けどどんなのがあるか気になるから見てくるね」
「行ってらっしゃい」
微笑ましく見送られながらお菓子コーナーへ入る。
変わってないパッケージもちらほらあるけど、リニューアルされてたり知らなかったりするお菓子も多いな。あっ、コレ。
激辛系のお菓子を手に取って眺める。
お母さんが好きそう。樺澄ちゃんにはまだ早いかな。たぶん泣いちゃいそう。
微笑ましく見下ろしていると、大きな手が私からお菓子を奪ってカゴへと入れた。っていうかカゴの中、もう肉や魚や諸々も入ってていっぱいだ。
「あっ」
「千羽様が好んで食べてるお菓子ですね。折角なので買っちゃいましょう」
やってくれるじゃん。コレ、謀られたよね。っていうかちょっと目を離した内に買いたい物全部カゴの中に入れてあるんじゃないの。
ちょっとモヤモヤしてグズついていると、優しく頭を撫でられてしまった。
「ははっ。時を超えたお菓子を味わうなんて滅多に出来ませんよ。だから、楽しみましょう」
「もぉ、敵わないなぁ」
負け負け。全然勝てないや。頼りない風貌のクセして、伝説の奴隷の肩書きを持ってるだけあるよ。お父さんは。
「仕方ないから、買ってもらってあげよう」
「素直じゃないですね」
満更でもない声。レジに並んでバッグへ詰めて、雨空の下刹那家へ一緒に帰る。私の手には、買ってもらったお菓子が収まっている。
何人たりとも入り込む事が出来ない雨の日の絶対領域の中で、不快な体温を愛おしく感じながら歩く。
「あっ」
静かな雨音を感じながら過ごしていた2人の時間を、運命の時が割り込んできた。
足下から輝きだした魔方陣。時間だ。次の時間に飛ばされる。
「ここまで、ですね」
「うん。またね、優太さん」
巻き込まないように傘の外へ出て、お父さんから距離と取って振り向いた。
互いに手を振り合っていると、時の光が2人の時間を引き裂いたよ。




