第一話「今も、昔も、いち番星の君」
第三章、本編開始。
紫竜暦192年、後暖季。
11月3日。
ルナティシア――ルナティック人――としての転生から、12年が経過した。
ネトニスとの遭遇から、数えると、約4年になる。
――
「ふぁあ……。あれ?」
目が覚めて、上半身を起こしたところで、目線の高さが上昇していることに気づいた。
自分の体を見てみると、10歳くらいから、10代後半の姿になっていた。
「おおー!
アクアたちの言うとおり、成長してる!」
「んぅ……?」
「リョウちゃん、どうしたの?」
成長したことに興奮していると、フィアーナが橙色のパジャマ姿で、目覚めて、上半身を起こしながら、瑞々しく、艶やかな唇を動かし、甘く、天使みたいな美声で、尋ねてきた。
その動きに合わせて、桜色グラデーションの長い白銀髪が動く。
さらに、右手首の〈星のルナリング〉――赤色のシリコン製リストバンド――、そして、橙色のパジャマ越しの豊満すぎる胸が揺れる。
「眠ってたのに、ごめん。
体が急成長してて――」
返答しながら、美しく、温和で、愛らしい顔を見ると、初恋の彼女と重なって、涙が溢れ出した。
「りょ、リョウちゃん!?」
フィアーナが驚いて、美しく、しなやかな両手で、俺の左手を包むように、握ってきた。
「どうしたの?」
「大丈夫、大丈夫。
昔……転生前のことを
思い出しちゃっただけ」
右手で、涙を拭いながら、素直に返答する。
「聞いても、大丈夫?」
「長くなるけど、いい?」
「うん。
聞かせて」
よし。
想い合った相手だと、確認してもらえる。
「体が不自由なひと向けで、
小中高合同の学校に、
通っていたんだ」
10歳のときに、転校したんだよな。
「中1への進級のときに、
女子が転校してきたんだけど、
出会ったと同時に、
彼女に、恋したんだ」
厳密には、中1の4月じゃなくて、彼女が学校を見にきた小6の下半期だけどな。
親友も、中3のとき、学校を見にきていたっけ。
「色々、話していく内に、気が合って、
どんどん、仲よくなっていったんだ」
恋仲みたいになっていって、いち時的にふられたけど、すぐに仲直りしてくれたな。
ここまでは、比較的、普通の恋愛なんだけどな。
「次第に、彼女も、
俺と夫婦になりたいと思うくらいに、
好きになってくれてたらしいんだ」
このことを知ったとき、幸せだったな。
「でも、俺も、彼女も、
体が不自由だったから、
おとうさんに、
反対されたそうなんだ。
仲のいいひとに、
そのことを相談しようとしたらしいけど、
その全員が忙しくて……」
ここから、話したくねえ。
でも、辻褄が合わなくなるから、話すしかないんだよな。
「ほかのクラスメイトは、
男子ひとりだけだったから、
仕方なく、彼に相談したそうなんだ。
そしたら、あいつ……その男子は、
『彼女は、自分のことが好きなんだ』って
勘違いした上に、
俺に向かって、それを言ってきたんだ」
まぁ、友情や恋愛感情を知っていても、少しは、空気を読めても、彼女の気もちは、わかるわけがない。
「俺は、主に、下半身だけど、
全体的に、不自由で、
自分のことがほぼできない。
あいつは、下半身が不自由なだけで、
自分のことができる。
俺より、あいつのほうが
いいもんな……と思って、
鵜呑みにしちゃったんだ」
恋仲みたいな感じだったのは、彼女が俺の気もちに、付き合ってくれていただけ……という考えに、行き着いたんだよな。
「そして、中等部の卒業とともに、
彼女と離れ離れになることになって、
卒業の2ヶ月前に、
これまでのことを話してくれたんだ」
正確な日付は、わからないけど、中3の3学期の前半だったのは、覚えてる。
「俺と夫婦になりたいと思うくらいに
好きだということ、
おとうさんに、それを反対されたこと、
クラスメイトの男子に、
そのことを相談してしまって、
勘違いされたことを話してくれたんだ」
俺の気もちと連動するように、日光が差し込む教室で、彼女が隣の席に着いている光景は、今でも、鮮明に思い出せるわ。
それよりも……。
「最後に、『友だちとしても、
もうひとつの意味でも、
好きだよ』って、告白してくれたんだ。
この言葉は、ずっと残ってる」
人生最高の言葉だな。
「彼女と離れ離れになるまで、
想い合ってることへの嬉しさで、
いっぱいだったけど、
離れ離れになってからの人生は、
ずっと辛かったんだ」
物理的にも、精神的にも、な。
「彼女との幸せな人生を潰されたしっ、
不自由のレベルもっ、
増していくからっ、
死んじゃいたいって――」
転生前の気もちが蘇って、涙が溢れ出していく中、話していると、フィアーナが抱きしめてくれた。
抱きしめられたことにより、鼻が詰まっていて、果実みたいなフェロモンは、わからないが、橙色のパジャマ越し、圧倒的な豊かさの胸が押し当てられた。
「わたしもっ、だよっ。
リョウちゃんと両想いなのにっ、
いっしょにっ、なれないしっ、
不自由なのもっ、
治せるものじゃないからっ、
わたしもっ、同じことを
思ってたよっ」
フィアーナが少し泣きながら、告げてくる。
「フィアーナ……って、
『――』ちゃん?」
「うんっ、そうだよっ。
『――――』だよっ」
初恋の彼女の名前を出して、確認すると、フィアーナは、俺と顔を合わせ、細い指で、涙を拭う。
そうしながら、嬉しそうに、美しく、温和で、愛らしい顔を綻ばせて、肯定し、初恋の彼女のフルネームを述べた。
「なーたんっ。
こうやって、なーたんと恋人らしいことを
したかったっ」
嬉しくなって、フィアーナを抱きしめ、思っていたことを伝える。
やばい。
今の呼び名、照れて、使えなかったものなのに。
「わたしもっ、リョウちゃんと
したかったよっ」
彼女は、呼び方を追求せずに、同じ考えだったと教えてくれた。
そういえば、正式には、告白してなかったな。
「なーたんっ、聞いてっ」
「うんっ」
「顔、声、大人しいところ、
優しくて、おねえさんっぽいところ、
いつのなーたんも、大好きです。
俺と恋人に、なってもらえますかっ?」
フィアーナと顔を合わせて、美しく、しなやかな両手を包むように握り、告げる。
すると、彼女の垂れ目で、赤色の大きな瞳から、涙が溢れた。
「うんっ。
今度こそっ、いっしょになってっ、
前世の辛かった分もっ、
幸せになろうねっ」
フィアーナは、涙を流しながらも、美しく、温和で、愛らしい顔を綻ばせて、返事とともに、心を掴むような言葉を口にした。
愛おしすぎる。
『キスとか、したかったこと、しちまえよ。
おまえ相手なら、断らねえよ』
俺の中の悪魔が囁いてきて、そっち方向に、気もちを持っていく。
「ち、ちゅーしていい……?」
「……う、うん。
……い、いいよ」
フィアーナの尋ねると、彼女は、引くことなく、ほおを赤らめた。
そして、俺から目線を逸らし、美しく、しなやかな右手で、赤みを帯びた状態の耳に、桜色グラデーションの長い白銀髪をかけしながら、了承してくれた。
耳かけの動きに合わせて、右手首の〈星のルナリング〉が揺れる。
「するよ?」
「うん……」
フィアーナに告げると、彼女は、まぶたを閉じた。
キス顔、天使すぎるだろ。
顔を近づけて、瑞々しく、艶やかな唇に、口付けした。
「初めてが涙の味になって、ごめん」
「大丈夫だよ。
わたしも、泣いちゃったし、
このほうが印象に残るし」
初キスが涙の味になってしまったため、謝ると、フィアーナは、美しく、温和で、愛らしい顔を綻ばせた。
「そっか」
「うん」
やばい。
会話が終わってしまった。
この会話なしの状況は、俺は、惚れた側だから、幸せだけど、フィアーナからすれば、気まずいはず。
『おまえがしたかったことは、
キスだけじゃねえだろ?
しちまえよ』
話す内容を考え始めると、俺の中の悪魔が囁いてくる。
「あっ、そうだ。
誕生日プレゼント――」
「大丈夫。
俺の気もちを
受け止めてくれるだけでいいよ」
「う、うん……」
かっこつけて、言うと、フィアーナは、戸惑いながらも、返事してくれる。
「受け止めてくれる?」
「ふふっ、そんな不安そうに、
聞かなくても、
恋人なんだから、断らないよ」
「俺、なーたんの恋人に
なれたんだったね」
「うん。
恋人として、リョウちゃんの気もち、
受け止めたいから、おいで」
フィアーナのことが愛おしくなって、瑞々しく、艶やかな唇に、深く口付けした。
後々、フィアーナが誕生日プレゼントとして、イルカ2匹による合作ハートポーズ――イルカ2匹が口先同士と尾鰭同士をくっつけて、ハートを形作っている姿――の首飾りをくれた。




