先のこと②
こんにちは
「どうした?スー達は準備しないのか?」
僕の問いに3人は顔を見合わせると、いつもチームを取り仕切っているスーが歩きながら話し出す。
「御当主様と入浴ということは、御当主さまの護衛がいるもの。アル様とは違い、メイドの規模もそうですが質も段違いでしょうから、食事と違って私達なぞ外で待っているのが普通と思います。」
僕の少しばかりの文句に対して、スーは正当な返事をしてくる。
違うんだよ。ちょっと。ほんの少しだけ甘えてみてんだ。……ただそれだけなんだ。
しばし無言で、当主の館の風呂場までゆっくり歩いて行く。因みに、間取り図は男子棟が5階建で目の前どけど数百メートル先に女子棟が2棟あり、この男棟と女棟の間に母上達の個人的な棟と、それらに繋がり更に当主本館にも繋がる6階層の書庫が中央にある。
とりあえずは、書庫の側を通り父が住む館へ進む感じである。
「……」
「どんな家庭教師が着任するのでしょうね。」
風呂場へ近付くと、外では姉上達が稽古しているのが見えた。僕達男子棟からは兄弟とはいえ、女子の生活を覗けないから女子の稽古を見るのは新鮮ではあるのだが、"現在スー達とやっている事と同じなのでは?"とフと頭をよぎった。
大きなドア前に父の護衛の方に会釈をすると『どうぞこちらへ』と招かれる。やはりスー達は外だった。
しゅぱぱぱぱーん!と服を脱ぎ捨て、それなりの大きな声を発して『父上』と叫んだ。
「遅いぞアル。入って来なさい。」
風呂場は、等間隔でメイド達や執事達が配置されていることから1人で入る場所……もとい、母上達と父を入れても広すぎた。
そんな場所に僕が来て、1人中央に入っている父の元へ焦らずゆっくりと近寄る。
「御辞儀や、体を洗うなど不必要だ。男同士の話をしようじゃないか!」
ガハハと笑う父に対し、さほど人生の中で分岐点のみ関わって来たし、教えの中でしか敬い尊敬するしかない対象が目の前にいる人は全裸という初の体験は、僕にとって『は。はあ』と気が抜ける返事をするので精一杯であった。
『遅くなった。すまん。』と、父があまり申し訳無さそうなトーンで話だす。
「ところで、ちょうど1年前の御披露目はアルにとってどう感じた?」
いっ!?1年前のこと……え~と、という感じで。されど忘れちゃったよと悟られ無いように、僕は話し出す。
「特に。特にありませんでした。」
以外と僕の返事に"だろうね"という顔だった父は続けて
「それでも。何かいつもと違うなぁとか、誰かに見られていたりとか……無かったか?」
「あー。そういえば、1人の女性。確か、北東の公爵領土で日が昇る高貴なるサンシャイン家の令嬢が僕の事をチラチラ見ていましたが。」
「それは無いだろ。」
ほんとダヨ!僕だってそれなりに勉強しているんだ!家紋を見間違えて無いからね!とは言えないので
「いえ。本当です。」
「だが、あれから一向に誰からにも御見合いのお誘いが無いぞ?……ああアル、全然来ないんだ。」
『ああ。そうなんですか』とサラッと我関せずという反応をすると父はすかさず悲しい顔をするのだった。
「アルよ。実に残念だが、妻達と話し合った結果家庭教師は着けず、更に9歳からの聖騎士魔法学校は中止だ。」
ハ?となる僕に『だが安心しろ』と力強く肩を抱きしめて続けて言うのだった。
「たとえ家から出て行ったとしても……」
瞬間!『(家から出るの!?)』と思ったが、父の話はスムーズに流れる。
「子供達に掛ける金額は同じにしようと思っている!だから、ハイエルフのスーとエンシェントエルフのヤー、そしてハーフエルフのエンをアルの一生涯のお供と契約して貰ったから安心するといい。
スーとヤーは昔冒険者でチームを組んでいて、ヤーが無銭飲食をしたせいで奴隷となってしまったが、この契約で晴れて自由の身となりアルを一生支えてくれるだろう!
そして、ハーフエルフとはいえ魔法に長けているからなっ!?お乳も出るハイブリットなエルフだ。将来、子供が出来たらマナ素をたっぷり含んだ乳を飲ませろよ。」
そう言うと、ザバァ!と勢いよく父は出て行かれるのだった。
そうそう、父が去り際に『スーとヤーの歳は840をこえるそうだから、何かと聞けば解決するぞ』と言っていた。
『……はぁ』と1人浸かって下を向いていると
「続きはアル様男子棟のお風呂で堪能してください。」
「はい。」
色々と。色々とあって、なんによく分からず乱雑に脱ぎ捨てられた僕の服を拾いながらゆっくり着替え出ると
「これからヨロシク・よろしくな・……。」
スーに続きヤー、エンは無言で深く礼をして挨拶をした。
全然気付かなかったけど、彼女達の首には首輪が無かったのをジーと見てからスーを見た。
「とりあえず、家から出て行けば良いだけですから敷地内に家を作りましょうか。……魔法と剣の勉強がてらね」
『え?それで良いの?』という問いに『取引しましたので』というスーになんて言えばいいのだろうか。
というか部屋に戻っていいのだろうか?と、歩をとてつもなくゆっくりと進もうとした時
「早く部屋に戻り、イル様がお妃と一緒に帰ってくる前に準備をしましょう。」
「そうですね。私、カラン様が嫌いなので家は女子棟近くの庭にしたいです。」
"良いねぇ"と3人頷くのを見ながら、僕は未だに現状を把握・受け入れずにいた。
ランダムに書くのが好きなんです。定時に書くのが、僕にとって仕事しているみたいで……そう自由だ!書くのは自由なんです。
これは無視して下さい。独り言です。
また、会いましょう