第一話・ようこそ!新人くん!
父親が、そのての趣味の人で。
僕も幼い頃から、手を引かれてよく連れていってもらった。
そこは、僕にとっての夢の国。
たくさんの想い出がつまった宝箱。
友達みんなに笑われたけど、僕は大きくなったら、そこで働きたいとずっと思っていた。
いつか。
きっと。
★
この春。
どうにかこうにかすべりこんだ大学に通うため、大学に近いとこに住んでいる、僕にとっては姉がわり、従姉妹のすみれさんの部屋にご厄介になることに。
「ふふん♪これで家事をしなくてすむわね」
なんて、不吉なことを言ってたけど、まあ、お世話になる身だしね。
すみれさんの部屋に、全く使用していない三畳の広さのロフトがあって、そこが僕の部屋になるのだ。
え?
すみれさん?
うーん。客観的に見れば、美人なんじゃないでしょうかね。スタイルもいいし。
男まさりな性格や、家事が苦手で、少々がさつなところが難点なのかなあ?
ほんとの姉みたいに接してきたので、そんな対象として見たことないからなー。
や。
まあ、そんな話は置いといて。
すみれさんは気にするな、なんて言うけど、やっぱり生活費の足しになるよう幾らかはお金を入れたいし、小遣いくらいは自分で稼がなきゃならない。
てことで。
★
「あ、ここだ。《芸夢之塔》」
昨日、面接申込みの電話を入れて、今日、約束の時間にゆとりを持って到着。
「うわー。ビルが丸ごとで、しかも全部ゲームセンターなんだ」
そう。
今から僕がバイトの面接を受けるのは、小さな頃からずっと憧れていたゲームセンターのお仕事。
採用してもらえるかな?
とりあえず、お店の人と話して取りついでもらおう。
そう思って、店に入ろうとした矢先。
「ん?」
が、ご、ごろごろごろ。
どがっしゃあ!
出入口の脇に、何故かダストシュートの排出口のようなものがあり。
そこから、なにやら大きなずだ袋が転がり出てきた。
「ぬお!?な、何!?」
突然のことに固まって呆けている僕の横を、
「一見さんかな?」
「だろうね。ちょっとやんちゃしちゃったんじゃない?」
「この店でか。はは、南無南無」
などと会話しながら、常連さんぽい人達が苦笑いで通りすぎていく。
「………」
ずだ袋がもぞもぞ動き、中から人が出てきた。
なるほど。確かにちょっとやんちゃそうなお兄さんだ。
「ひいい!な、なんなんだよこの店!いかれてやがる!」
わたわたと這いだしたお兄さんは、真っ青な顔で怯えながら、そのまま走り去ってしまった。
「………」
うん。
この店、なんかおかしいみたい。
面接、どうしようかな。
★
「なるほど、基本的に平日は月水金の18時から閉店まで勤務可能。日曜日は、朝から勤務可能なんだね?で、他の曜日は勤務不可、と」
「はい」
「うん。健康そうだし、受け答えも気持ちいいね。よし、採用だ」
「へ?」
店長さん即答!?
なんと、僕の採用が決まってしまったらしい。
「君、これから時間ある?」
「は?あ、はい。このあとは特に予定はありませんが」
「なら、軽く店の中を案内がてら、早速勤務に入ってもらおうかな。ちょっと制服用意するから、待ってて」
「………」
うえ!?
もう!?今から!?
「あ、こころちゃん?ちょっと事務所いい?新人くん紹介したいから。あ、そうなの?なら、それ済んでからでいいから。うん、よろしく」
混乱の只中にある僕を放置して、話はどんどん進んでいってしまう。
店長さんは、インカムで《こころ》という名前の人を呼び出しつつ、事務所から出ていってしまった。
「………」
急展開についていけない!
★
「サイズどう?動きにくいとかないかな?」
「えと、はい、大丈夫みたいです」
制服に着替えて。
店長さんと待遇面の追加説明を受けていると、事務所の扉が開く。
「てんちょー来たよー。その子が新人くんかね」
振り返った僕の視界の下の方に女の………子供?
「紹介するよ。古参のバイトでね、源本こころちゃんだ」
ちっさ!うわちっさ!
ええ?古参?バイト?えええ?
「やあやあ。よろしく」
っと。
「よ!よろしくお願いします!本日只今よりお世話になります!」
び!と手を上げて挨拶してくれる源本さんに、僕も慌てて挨拶を返す。
続けて自己紹介をしながら、まじまじと目の前のその人を凝視。
身長が140センチくらいしかない。
顔立ちとかも可愛くて幼い感じで、ぱっと見どこの小学生かと思ってしまった。
「………」
「………」
「ふむ。新人くんがなにやらしつれーなことを考えているようだから、一応、教えておこー。ちと耳をかしたまえ」
「へあ?は、はい」
かがみこんだ僕の耳元で、源本さんがごにょごにょと自分の年齢を教えてくれた。証拠の免許証を添えて。
「………」
「………」
「マジですか」
「うむ。こんななりですが」
むふう。
初めてお目にかかる。
これぞ合法ロ…
「はいはい○リとかペ○とか考えなーい。邪念を捨てるのだ。じゃないとパンチすっぞー」
ばれてーら。
あなたはエスパーかなにかですか?
「君のようなキャラの子の考えなどお見通しなのですよ?」
「………」
僕って端からどんなキャラに見えてんですか。すげー気になる。
「んじゃてんちょー、連れてっちゃうけど構わない?」
「うん。よろしく頼むよ」
「ほいほい。では新人くん、ついてくるのだ」
「あ、はい」
★
「………」
えと。
フロアに出る前に、勤務に使う道具類を渡されたのですが。
インカム。
今や通信機器は必須だよね。こういうのも憧れてた。
鍵束。
ゲームの筐体の様々な箇所を開け閉めするためのアイテム。
おおう。なんかこれ持ってると、ゲーセン店員って実感できるよね!
工具。
ベルトに通して使うケースに、簡易メンテをこなすのに最低限必要な種類を収めてある。
まあ、ここまではいい。
「新人くんは技つかえないだろーから、しばらくそれ使いなよ。仕事慣れてきたら、いらなくなるからさ」
わ、技?
それはその、接客とかメンテとかの技術でない、何か不安な要素に思えるのは気のせいだろうか。
僕は手渡されたそれをじっと見つめる。
これで僕に何をしろというのだ。
この。
古びた《ガンコン》で。
そんなに長くは続けないと思います。
多分。