第二話・異空間
「新人くん、ガンコンかしてくれる?一応、御手本見せるからさ」
「あ、はい」
僕はその時。
深く考えることなど全くなく、腰のホルスターからガンコンを引き抜いて、源本さんに手渡していた。
★
《芸夢之塔》はビル丸ごとの多層構造を活かして、各階ごとにジャンル分けする構成で運営しているのだとか。
僕は今、源本さんに説明を受けながら、フロアを順繰りに案内して頂いている。
で。
異変が起きたのは、対戦ビデオゲームがメインの階を回り始めて、少ししてのこと。
それまでにこやかに話しかけてくれていた源本さんが、突然口をつぐみ、動きを止めてしまったのだ。
ここで、冒頭に戻る。
僕からガンコンを受け取りつつ、源本さんは、フロアの一角から目を逸らさない。
そこには、通路を塞ぐようにして筐体用の椅子に座り、菓子とジュースを飲み食いしながら駄弁っている数人の男性客の姿が。
食べこぼしや包装紙のゴミがそこかしこに散らばっていて、コンパネに足を乗せている不届き者までいる。
むう。
「新人くんは、ガンシューやったことあるよね?」
「ええ、もちろん」
「なら大丈夫。基本的には一緒だから」
はあ。
なにが大丈夫で、なにが一緒なのかよくわかりませんけども。
「ウチの店はね?ああいう連中には問答無用で対処することにしてるのだよ」
「………」
「だから、見かけたら、こうするのさ」
「!?」
なんだ?源本さんがガンコンを構えた瞬間、何も無い空間にいきなりポインタが現れた!
ポインタはやんちゃなお客さんをがっちり捉え…
ドパン!
「が!?」
ドパン!
「んば!?」
ドパン!
「れっ!?」
ドパン!
「とお!?」
はああああああ!?
ぎゅるぎゅる回転しながら吹っ飛び、筐体や壁にぶち当たってばたばたと倒れ伏すお客さん達。
そこらじゅう血まみれ、大惨事。
「あ、ああああんた、なにななにしてん、人、撃って、う撃って、死ぬ、死、殺」
「まあまあ新人くん、落ち着きたまえよ。ほら、深呼吸、深呼吸」
ひ、ひ、ふー。
ひ、ひ、ふー。
「なんでラマーズ法なのか知らないけんども、ほれ、見てみ?」
あ、あれ?
あんだけ血が飛び散ってたのに、どこにもない!?
「ダメージエフェクトごときにビビってちゃあ、ここでは勤まらんですよ?」
だ、ダメージエフェクト?
どゆこと?
「あ、ドムさん?うん、そそ。今四階。片付けよろー」
脳内でクエスチョンマークが盛大にラインダンスを踊っている僕の視界に、源本さんがインカムで呼び出したらしい、ボウズ頭のゴツイ男性店員さんが映る。
「ドムさんこっちこっちー!あそこね!」
ドムさんと呼ばれたその人は、倒れたまま動かないさっきのお客さん達を、ひとりずつずだ袋に詰め込み、ずるずる引きずってダストシュートっぽいところに次々と放り込んでいく。
あ。
あーあーあー。
今日ここに来た時に出入口で見たアレ。
アレはこういうことだったのか。
いやいやいや。
待て待て待てちょっと待て。
こういもそういうもないよ!
突っ込みどころが多すぎて、どこから始めたらいいのかわからないって!
「おんや?、対戦格闘の辺りが騒がしいね」
んえ?
「ウチのお!」
バキャ!
「!?」
僕らがいるのとはフロアの反対側、筐体の島の奥。
ド派手な炸裂音と女性の叫び声が聞こえたかと思ったら、なんか男性客が宙に浮かんでいるのが見えた。
「お店はあ!」
ド!
「禁!」
ゴ!
「煙!」
ズン!
「なんでーす!」
ガガガガガガ!
「………」
源本さん程ではないにしろ、割りと小柄な女性店員さんが、踏み込みも出来ない空中を上昇しつつ、拳や蹴りで大の男をぶっとばしながらかちあげていく。
しかも最後は、華麗な連続サマーソルトキックでフィニッシュだ。
ねえ?万有引力さん。あなた、どっかに出張でもしてるんですか?
男性客の人は、エコーのかかった断末魔の叫びと共に床に叩きつけられ、ぴくりとも動かなくなってしまった。
ドムさんが、「今日は多いな」とか呟きながら、その人をずだ袋に詰めてずるずる運んでいく。が、頑張って下さい。
「ふいー。あ!こころ先輩!」
「やあやあみことちゃん。ナイスエリアル!成長したねえ」
「やははー。お恥ずかしい。ところで、そちらの方は?」
「あ、彼はね、今日からの新人くん。今、店を案内してたところ」
「あ!そうなんですか!はじめまして!天方みことです!わたしもここで働きだして三ヶ月くらいなんですよ?」
「あ、ども。はじめまして」
おたおたと自己紹介する僕。
にこにこ笑っている天方さん。………可愛いな。
ってそうでなくて!もっとほら、大事なことが、ね?
「あの、源本さん?」
「なにかね?新人くん」
「一体、この店はどうなってんですか?」
「ん?どうって、何が」
「や、何がって」
「?」
「なんでこのガンコンで人を撃てるんですか!まき散らされた血はどこに消えたんです?お客さんをずだ袋に詰めるとか!その上ダストシュートにぽい!天方さんのさっきのアレも!空飛んでましたよね?男の人も!物理法則!法律!その他もろもろ!何が?何がと仰いましたか!何もかもですよ!」
はあ、はあ、はあ。
「………」
「………」
あ、あれ?
ねえ。
ちょっと待ってよ、なんで僕、この二人に可哀想な子を見るような目を向けられてるの?
「まあまあ新人くん、落ち着きたまえよ。ほら、深呼吸、深呼吸」
あ、え、い、う、え、お、あ、お。
か、け、き、く、け、こ、か、こ。
「なんで発声練習なのか知らないけんども、どう?落ち着いた?」
「はあ、まあ、多少は」
「いいかい?ここはゲームセンターなんだよ、新人くん」
「知ってます」
「ゲームセンターなんですよ?新人さん」
「だから、知ってます」
「………」
「………」
「………」
で?
「………」
「………」
「………」
え?
「あの、説明、それだけですか?」
「他にどうしろと?」
「これ以上ない説明じゃないですか?」
「………」
「………」
「………」
父さん。
僕、知らなかったよ。
父さんとよく遊んだ地元のゲーセンしか行ってなかったし。
都会のゲーセンは、いつの間にか人外魔境になってたんだね。
はは。
ゲーセンだから、か。
そりゃ、ゲーム的な思考でいけば、全部説明つくよね。
って。
んなわけあるかあああああああああ!
操作ミスで毎日更新が途切れるとか、無念。
目次の掲載順を調整しようとして、コピーを取り忘れて更新回のデータを全消ししてしまいました。
他の作者の方のやっちゃった話にもありましたが、これは堪えますねえ。
後程コラムも更新する予定です。かなり後程に。




