すーぱぁお母さんとコンビニ強盗事件
(1)
僕は松戸庄之介。明後日から小学校六年生だ。
父さんは清次郎。電機会社のサラリーマンで婿養子だ。だから、いつもお母さんには頭があがらない。生まれた時から付き合ってる僕がそう言うんだから、間違いない。
毎朝一番に起きて家事をこなして、御殿場の会社へ出掛けるんだ。夕方は夕方で一目散に帰ってきては、また家事の続きをする。当然出世なんか出来る訳ないし、給料だって上がる筈ない。家で働いているのは父さんだけなのにどうして暮らして行けるのか不思議なくらいだ。
僕は、お祖父ちゃんにそう聞いた──そうなんだ、僕んちにはお祖父ちゃんも居るんだ。その上、父さんの親戚で浪人中の輝にいちゃんまで居る。これで、よく食べて行けるもんだ。
「いやいや、清次郎さんはようやっとるよ」
って、お祖父ちゃんは言う。それはそうだ。
僕んちの父さん以上によくやってる父さんなんかこの世にいやしない。でもお祖父ちゃんは半分ボケてるんだからしようがない。毎日、朝と晩に必ずお経をあげているけど、実は、お祖母ちゃんの命日さえ覚えてないんだ。さっきも輝にいちゃんに老眼鏡の場所を訊いてたっけ。それでも父さんに訊かないのは流石だ。
父さんは今も超スピードで朝食の支度をしてるとこだ。この分だと、今日は中華だな。鳳凰の飾り包丁が見事だ。
黙ってるけど父さんの料理は絶品だ。雑誌に載ってる某行列の出来る店よりよっぽど美味い。きっと、いつ失業してもこれで食べていけるに違いない。そもそもサラリーマンをやってること事態が間違ってるような気がするが。
もっとも、父さんは今の仕事に誇りを持ってるらしいからこんな事話したら怒るに違いないんだけど。最大の謎は、そんなプライドの高い父さんがどうして婿養子なんて立場にあまんじているかって事だ。
「おはよう~」
突然お母さんが出現した。眠そうな声なのはいつもの事だ。ほおっといたら、夕方まで寝ているときさえある。
「朝食が出来たぞ」
案の定、今朝は中華料理だ。
僕等が朝食をつついている間に、父さんは自分の弁当と僕等の昼食の準備をする。お母さんは鱶ヒレのスープをすすっているところだ。
うん、やっぱり父さんの鱶ヒレは美味い。八丈島まで採りに行ってきた甲斐があるってもんだ。ナイフ一本で泳いでいるフカから『鱶ヒレ』を無事に切り取って来れる男はきっと父さんくらいだろう。嘘かほんとか知らないが、フカのヒレはまた生えてくるって誰かが言ってたけれど。
もう一度スープを喉に流し込もうとした時、不意にお母さんの声がした。
「塩化マグネシウムが0.0025ppm足りないわね。食卓塩を使ったでしょう」
真っ青になった父さんの顔を冷や汗が伝っていった。
「す、すまん……」
ようやっとそれだけ答えた父さんは、また黙々と作業を続けた。そぉーかなぁ。十分美味しいと思うけどなぁ。僕にはお母さんがあてずっぽうに言ってるとしか思えないけど。
「いってまいります」
父さんの出勤する時間だ。お母さんはまだ朝食の蟹玉をつっついている。僕はまだ春休みだから、これから夕方までいつものように気だるい一日が続く、……筈だった。
(2)
「庄之介ぇ、買い物行くよぉ」
お母さんだ。
「わかったよ。ちょっと待って」
「俺も行きますよ。ちょっと参考書を見に」
輝にいちゃん、買い物なんかに付き合ってる暇あったら勉強すりゃいいのに。童顔でごまかしてるけど、浪人も5年目になると高校生じゃ通用しないよ。って言いたいのを押し留めて、僕はお母さんに訊いた。
「どこまで行くの?」
「もち、近所のスーパー」
やっぱり……。あんまり期待してなかったけどね。
「ねぇ、帰りに角のコンビニ寄っていい?」
「何で?」
「新作のゲームを予約してるんだ」
今度のゲームは擬似リアル体感機能つきなんだぞ。
父さんの会社で開発したチップの機能を初めて100%引き出したって有名なソフトだ。今もゲーセンで大ヒット中なのを家庭用のゲーム機に移植したんだ。機能はサブセットだけれど家庭でいつでも遊べるんだから、買わない手はない。
そもそも僕等はゲーセン行ったって、滅多に並ばせてももらえないもの。
「ふむ、まっいいか。じゃ、行くよ」
どうやら交渉成立のようだ。
僕等3人は、お母さんの運転でスーパーまで夕食の買い出しだ。食事を作らないお母さんが夕食の買い出しに出るのは変な話だが、たまにこんな時がある。もっとも、作るのは父さんだけれど。
15分くらいで近所のスーパーに到着した。
牛肉と野菜だから今夜は焼肉かな? 父さんの腕なら、たとえ雑草とパンの耳からでも宮廷料理が出来てしまうだろうけど、材料も良ければ更に美味しくなるのはその通りだ。各種香辛料なんかも揃えて締めて1万5千円也。ちゃんと天然荒塩も忘れず買っておいた。ホントはお菓子も少し欲しかったけど、これは却下。残念。
次は、裁縫屋さんで端布を少々。今度は六年生になるんだからゼッケンや名札を作っとかなきゃ。もっとも、これも父さんの仕事だ。名前付けなんか、ものの3秒で終わってしまう。今日お母さんの着てる服なんかも、テレビや雑誌で見たのを父さんが作ったものだ。買い物帰りの主婦や学生が、今も羨望の眼差しでお母さんをねめつけている。こいつら自分達が着ても釣り合わないのが全然わかんないみたいだね。お母さんだから超有名ブランドデザインが映えるってのに。これ以上ここにいるのはちょっと恐いな。
早々に端切れ屋を出た僕達は次の目標に向かった。
まだ買っていないドッグフードは最後にディスカウントストアで購うから、次に寄るのはコンビニだ。輝にいちゃんの本屋はその後だ。予約しといたゲームはもう入ってる筈だ。
ハッキングでだいたいの内容はもう知ってるけど、新作のパッケージを受け取るのはいつも楽しい。僕の改良したルーチンがどんな風になったか早く見てみなくっちゃ。少なくとも14.7%の速度改善になっている筈なんだ。そうでもしなきゃ今日の発売に間に合わないんだもんな。
まぁ、その気になればタダで手に入れる事も出来るけど、こういったものは正規ルートで手に入れなけりゃぁな。
おこずかいだってその為に取っておいたんだから。
僕はポケットから予約券を取り出すと、うきうきしながらレジに向かった。だから、あんな世にも恐ろしい出来事が起こるなんて考えもしなかった。レジに着くその瞬間まで。
(3)
レジには店員と向かい合ってお客さんが一人いただけだった。今思い返せば何だか様子がおかしかったのだけれど、その時の僕はゲームの事で頭がいっぱいだったんだ。だから、その変な男が店員へナイフを突きつけて、
「金をよこせっ!」
って叫んだ時も、しばらくは何の事なのかわからなかったくらいだ。それは店員の方も同じだったらしくって、『えっ?』と言ったきりしばらく途方にくれていた。
「さっさと金を出せ! これが見えないのかっ!」
男が、もう一度叫んだ。脂汗をしたたらせてカタカタと肩を鳴らすその姿は、むしろ哀れげに見えた。だから、店員が悲鳴をあげるまで僕はまだポカンとしてたんだ。
「うるせぇ。早くしろよ!」
男が催促した。僕がその場を離れようと身体を動かしたのは、コンビニ強盗なんだという事よりも、店員の悲鳴と男の叫び声に驚いたからだった。でも、強盗男はそう取らなかったみたいだ。
そいつはいきなり僕の襟首を引っ掴むと、ナイフを突きつけてきた。ナイフよりも首筋が苦しくってジタバタしてると、
「おとなしくしないか。殺すぞっ」
ここに来てやっと僕にも事の重大さがわかった。なんて事だ。僕はコンビニ強盗の人質になってしまったんだ。
「こらっ、妙なまねすんな。おまえ等も動くな。」
店の端っこに、お母さんと輝にいちゃんがいるのが見えた。
「このガキがどうなっても、いい……の……
男が声につまった。初めてお母さんを見た男は大概こうなる。訊いた話だが、その為に破滅したカップルも少なくないらしい。残念ながら、僕とコンビニ強盗のカップルに破局は訪れなかった。
「……そこを動くんじゃない。ガキをぶっ殺すぞ!」
気を取り直した男は、僕を捕らえている手に更に力を込めた。お母さんはいつもと変わらぬ風に腕を組んでこっちを見ていた。その隣で冷蔵の焼き鳥パックを握ったまま突っ立ている輝にいちゃんは、めちゃめちゃ間抜けに見えた。
ふたりとも、何ぼぉーっとしてんの。もしかして、まだ事態を把握してないのかなぁ。僕、ここで死んじゃうのかなぁ。
そんな時、お母さんは半分寝ぼけた調子で輝兄ちゃんに話しかけた。
「輝久君。こんな時にどうするか、学校で習わなかったぁ?」
ばかぁ。そんな事教えてくれるのは、おまわりさんの学校か軍隊くらいだよ。店員は硬直してるし、他にお客はいない。いたとしても、助けになんかならないと思うけれど。でも、どうして僕がこんな目に遭わないとならないんだ。力の限りもがいても、子供の僕にどうにか出来る訳でもない。
苦しい、犯人の腕に力が入る。もう、勘弁してよぉ。僕は観念して目をつぶった。
っと、その時『ぎゃっ』って声がして力が弛んだ。
目を開けると、目の前に焼き鳥が生えていた。表面が焦げて香ばしい匂いが漂っている。男の手からナイフがすべり落ちる。
何だかよくわからないけどチャンスだ。今しかない。僕は力を振り絞って男の手を振り放すと、兎に角前に走った。輝にいちゃんがこっちへダッシュしてくる。
あれっ!
急に輝にいちゃんがひっくり返った。なんて間抜けなんだって思った途端、星が降った。次の瞬間、目の前が真っ暗になった。
気がついたら、僕は床に押さえつけられていた。なんて事だ。逃げようとしたはずのに、僕は転んでしまったんだ。痛いよぉ。鼻がジンジンする。
「ちきしょう。ふざけた真似しやがって」
犯人の怒号が響く。
「もうゆるさね……」
最後まで言い終わる前にものすごい音がして、身体が軽くなった。
「大丈夫かい」
輝にいちゃんだ。そっとハンカチで鼻血を拭いてくれた。一体何が起こったんだ? 僕はあたりを見回した。コンビニ強盗がレジのカウンターにめり込んでいる。防弾耐熱の特殊軽合金と樹脂の複合体が砕けてねじくれた断面が痛痛しくもあるが、たしかこれは防犯用に最近開発され実用化されたばかりのもののはずだ。テレビのニュースでは暴走トラックの直撃にも平気だったのに……。
すごい。輝にいちゃんがやったんだろうか? さっきの焼き鳥も、輝にいちゃんが投げたのかも知れない。もしかしたら予備校で教わったのかな?
「うがぁ」
ほっとしたのも束の間、男が吠えた。カウンターからはじき出されるようにこっちに飛び込ん来る。何モンだこいつ。普通死んでるぞ。次の瞬間、男のパンチが輝にいちゃんを弾き飛ばした。店の反対側まで吹っ飛んでく。
だめだ! と思った瞬間、ビデオの逆回しのように輝にいちゃんが迫ってきた。背中越しにお母さんが見えた。さもつまらなさそうに右手を振ってバイバイをしている。
信じられないけど、お母さんは飛んできた輝にいちゃんを受け止めて、こっちへ投げ返したんだ。
よし反撃だ。輝にいちゃん、フライング・クロスチョップの構え。
バベキッ!!
小気味いい音がした。
グワガカシャン。
天井で大音響が響くと、蛍光燈の破片と一緒に輝にいちゃんが降ってきた。そんなっ。人間じゃないよぉ。
実際、男の顔は野獣のように歪んでいた。骨格や筋肉が変形をしていく音がめりめりと響き渡る。皮膚は剛毛でおおわれ始め、犬歯のはみ出した口の端からよだれが滴っている。
「薬か……」
お母さんの呟くのが聞こえた。
今度こそもうだめだ。刃物こそ手放したけど、こいつの爪はそれ以上に鋭く長く尖ってきていた。醜怪なその姿は狼男を思いださせたが、目の前の実物はそれ程高級ではなかったようだ。
「うぐるるるぁ……」
一声叫ぶと、片手の一降りで近くの陳列棚を豆腐のように切断した。もう終わりだ、僕はこいつに喰い殺されるんだ。これがゲームの世界だったらリセットキーでやり直せるのに。でも、残念だけどこれが現実なんだ。
「たすけてぇっ!」
無駄とはわかっていても叫んでしまう。犯人が人質の頼みをきく筈も無い。
第一、牙を鳴らして犬のような唸り声をあげてるこいつに、日本語が通じてるとは到底思えない。頼みの輝にいちゃんは床に伸びてる。こんな時に父さんがいてくれたら。
「痛っ」
鈎爪が僕の腕に食い込んで血が流れている。
「やったな」
お母さんが静かに言った。
はっとした時はもう目の前に立ってた。お母さんの眼が金色に輝いてるように見えたけど、きっと見間違いだろう。いつの間にか強盗男の唸り声も止んでいた。
「少しばかり調子に乗りすぎたようね」
しんと静まり返った店内に、お母さんの声だけが響き渡った。
時をきざむ時計の音さえない静寂の中に、お母さんの美貌だけが輝いてみえた。男──もはや獣だったけれど──が微動だに出来なかったのは、その所為だったのかも知れない。
「誰にもらったのかは知らないけど、その薬はあんたみたいな野蛮人の口にするもんじゃないのよ。それ以上に、家の坊やに手を出したのは度がすぎた行為ね」
何の感情も含まず淡々とした口調に反して、圧倒的な重ささえ感じさせる言葉に男は身じろぎすることも出来なかった。
いや、そうじゃない。
男が再び歯を鳴らし始めた。ガチガチと神経質な音が木霊する。獣の本能が男に絶対的な力の差を感じさせているんだ。僕でさえ、目の前のお母さんが奈良の大仏以上の質量をもって迫ってくるような感覚に囚われている。男の脅えが僕の背中を通してダイレクトに伝わってくるのが分かった。
「こんなバカな事さえしなければ、数日のうちに土に帰れたのに。おまえには別の道をたどってもらいます」
諭すような口調ではあるが、そこには慈悲のかけらなぞ微塵も感じられない。ゆっくりと左手を挙げると、掌をまっすぐこっちに向けた。そのまま、ゆっくりと時間をかけて手をこっちに近づけて来る。別に歩いてる風ではないのに、掌は徐々に徐々に迫ってきた。それを僕は凍り付いたように見ているしかなかった。
獣人と化した男も微動だにせずお母さんを見つめていた。到底理性のかけらもあるとは思えないその相貌を裏切って、両の瞳にはある感情が宿っているように見えた。まるで、母親にいたずらを見とがめられた子供のような……。
どのくらいの時間が過ぎたのだろう、お母さんの手が今や男の目と鼻の先まできた時、
「ぐがぁ」
遂に耐え切れなくなって男が吠えた。輝にいちゃんを吹き飛ばしたパンチがうなりをあげて飛んで行く。でも、男の腕が完全に伸び切ってもほんの目と鼻の先にいるはずのお母さんに全く届かなかった。それどころか近づいてくる掌にすら触れる事が出来ない。
不思議な光景だった。腕を伸ばしきった姿勢のまま獣人は凍りついたようだった。突き刺さったままの焼き鳥の串が立てる煙と香だけが奇妙にも鮮明に時を刻んでいく。
さらに永遠とも言える時間が過ぎて、やっとお母さんの左手がパンチにそっと触れた。ひょっとすると、お母さんの手があがってから1秒も経ってなかったのかも知れない。お母さんの手が男の拳を押し包んで、そのまま押し返していった。そして、何か柔らかいものと固いものが一所になって砕けるような音と、この世のものとは思えない悲鳴が重なった。
その後の事はよく覚えていない。
かすかに誰かが助けを求めるような声を聞いたような気がしたが、まるで夢の中のようではっきりとはしなかった……。
(4)
気がついたら、ひしゃげたコンビニのレジの前に立っていた。輝にいちゃんが、首の後ろをさすっている。あちこちに血の跡とかぎざきの出来たTシャツが悲惨だ。
「大丈夫ぅ?」
「ま、取り敢えずはね」
KO負けのボクサーみたいな顔は、とても大丈夫そうには見えないけど。『熊みたいなやつ』にぶっ飛ばされた事を考えると生きてるだけで充分かもしれない。
レジの方では派出署のおまわりさんが店員に何か尋いていた。その横にいるのは、店長かオーナーかだろう。苦虫を噛みつぶしたような顔をしてる。
「帰るわよぉ」
不意に、お母さんが肩を叩いた。ゲームの箱を持っている。
「うん」
何か釈然としない物を感じながらも、僕は従った。早く帰ってゲームをしなきゃな。
「大変だったなぁ、ぼうや。ま、どこにも怪我がなくて何よりです」
おまわりさんは僕の頭をポコポコたたきながら、
「店がこんなんなるような騒ぎでかすり傷一つないなんて運がいいなぁ。ま、そっちのあんちゃんは災難だったな。犯人の方は早速手配したから、すぐにでもとっ捕まえますよ。はっはっは」
自信マンマンのお巡りさんに、
「頼んますよぉ」
と輝にいちゃんが情けない声で応えた。
その時、僕はふと思った。本当に捕まえる事が出来るのだろうか?
(5)
こんな事があったので、僕等三人は速攻で家に帰った。輝にいちゃんにはかわいそうだけど、本屋はこの次だ。家へ帰ってすぐ階段を登ろうとした時、
「ハッキーに餌やっといてね」
とお母さん。
「ええ~。何でぇ」
「他に誰がやるのぉ?」
「わかったよ」
仕方が無い。お母さんがそんなことをするはず無い事は、何よりも僕が知っている。なんせ生まれた時からの付き合いだもの。
僕はスーパーの買い物袋から『プリティードッグミート粗挽きジャンボ缶お得用サイズ』を取り出すと、庭の犬小屋に向かった。『プリティードッグミート粗挽きジャンボ缶お得用サイズ』は値段の割に量がある。家の犬の好物の一つだ。スプーンの柄で『プリティードッグミート粗挽きジャンボ缶お得用サイズ』のフタをこじ開けると、洗面器ほどのそれをそのまま犬小屋の前に置いた。ぷ~んと肉の匂いが辺りに漂い始める。
あれ?
僕は、缶の中に竹串を認めて訝しんだ。最近の品質管理はなっちゃいないな。家の犬は竹串だろうと釣り針だろうと気にはしないだろうが、僕は気にするんだ。竹串をつまんで放り出すと踵を返した。
さ、ゲームをしなくっちゃな。
家に入ると台所で輝にいちゃんが怒られていた。
「葵! 何の為に貴様が一緒にいたと思ってる。たるんどるぞ!」
いつも腰の曲がってるお祖父ちゃんなのに直立不動の姿勢だ。
「申し訳有りませんっ。自分が未熟でしたっ」
輝にいちゃんも気を付けの姿勢で冷や汗を滴らしている。
「当たり前だぁ! もう一度一から訓練し直せいっ」
お祖父ちゃんの説教は相当続きそうだった。かわいそうに。輝にいちゃんにはちょっと酷だよな。お父さんとは出来が違うんだからさ。そう思いながらも、僕はさっさと階段を登った。
そんな事よりゲームだよな。階段の途中で庭の方から悲鳴のような声が聞こえたような気がしたけど、きっと思い違いだろう。
僕はゲーム機のスイッチを入れると、ゲームのパッケージをやぶいた。ほのかに漂う香りのために僕はお腹が空いているのに気がついた。
今日は焼き鳥だといいな。
(了)