エピソード1
なんだか少しボンヤリしている。
白いモヤが視界を奪う。寝ぼけているのかな、夢かな。
紫や緑の木々が揺れている。風が吹いたのか、、でも風を感じない。どうやら夢のようだ。
風は好きだ、でも今は風を感じない。本来なら不快感を感じても良さそうなものだが、不思議とそんなこともなかった。
大きくて見たこともない葉っぱを触ろうと手を伸ばす。
ガチャ
聞き慣れない音がして、伸ばした手は手袋と甲冑?らしきものを着ていた。
え?
初めてこんなものを着ている夢を見た。
しかしやけにリアルな鎧だな。鎧って鉄なのかな、鉄くさいのかな、
そこで匂いの感覚がないことに僕は気づいたのだった。
やっぱり匂いは感じないのか、
ふと癖のようなものなのか、鼻を擦る仕草をした。
手は、、、空を掴んだ。
えっ!?
さっきよりも大きな声が出そうになった。思えば声も出ない。心臓が破裂しそうなくらいドクンドクンと脈をうつような感覚に襲われた。
――ドクン、ドクン。
確かに、そう感じる。
けれど。
胸の奥から聞こえてくるはずの音は、どこにもなかった。
静かだった。
紫色の葉が揺れている。
緑の枝が、その隣でゆっくりとしなる。
けれど、その風はやはり感じない。
ガチャ……。
わずかに身体が動いただけで、鎧同士が擦れる音がした。
その音だけは、妙にはっきりと聞こえる。
鼻があるはずの場所へ伸ばした手は、何もない空間を行き過ぎ――やがて、首元に触れた。
硬い。
金属の感触。
その上には……何もない。
頭がない。
そう理解した瞬間だった。
――カサッ。
少し離れた茂みから、何かが動く音がした。
もう一度。
カサ、カサッ。
紫色の大きな葉の隙間。
そこから、小さな何かがこちらを覗いている。
二つの丸い瞳だけが見えた。
目が合った。
……頭なんてないのに、なぜ「目が合った」と思ったのかは分からない。
「…………」
向こうも動かない。
こちらも動かない。
やがて葉っぱの向こうから、恐る恐る、小さな顔が出てきた。
薄茶色の毛に覆われた、兎のような生き物だった。
ただし――額から、青白く透き通った小さな角が一本生えている。
そいつはしばらくこちらを見上げていたが、
「……ぷぅ」
小さく鳴いた。
そして何を思ったのか。
ぴょこ。
こちらへ一歩、跳ねてきた。
か、かわいい、、、
様子を見ることに徹していて、咄嗟に動かれて動けない、
かと思ったがうさぎの動きがとてもゆっくりに見える。ひこひこするお鼻、つぶらな瞳、少なくとも敵意はなさそうだ。心なしか好意を抱いているようにも、
気のせいか、
ぴょんと可愛い動作にしては結構なジャンプ力で真っ直ぐにこちらに飛んできた。
僕は飛んでいるうさぎをできるだけ優しく受け止められるよう、皮なのかゴムなのかわからないし手のひらで胴体、前脚にかけて手を広げた。
ゆっくりと受け止める。
なんだろう、うさぎが飛ぶ時に飛んだ綿毛もかなりスローモーションだ。
モフッ、
あんまり感触は分からなかった。けれどきっと柔らかいのだろう。
手がフカフカの肉体に包まれたまま、うさぎの身体がぶらーんと下に垂れる。
腰に悪いかなと、すぐさま片方で背中と腰を抱き抱えた。
角の根本から耳に沿って撫でるときゅーとこれまた可愛い声でこちらを見つめた。




