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目が覚めるとランタナは違和感を感じた。部屋中を見まわして正体に気づく。
――ここは……家の部屋だわ。
18歳まで過ごしていた実家の自室だ。やって来たメイドに今日の年月日を尋ねると彼女は不思議そうな顔をしつつもランタナにとって8年前の日付を答えた。
1人になるとほうとため息がもれる。
「私の記憶が確かならベルガモット公爵家と婚約を結ぶ前に戻ったのね……。ベル様のおかげかしら」
皆に愛されていた少女の短すぎる生を惜しむように、色とりどりの花に囲まれていたお墓を思い出す。
ランタナは薬作りを生業にするティートゥリー伯爵家の娘だ。
10歳の時に、愛娘ブルーベルの難病の治療薬を欲したベルガモット公爵家からの打診で嫡男ダリアンと婚約した。そして、2つ年下のブルーベルの元気になって思うままに外を歩きたいとがんばる姿に心をうたれ、彼女を支え助けるために家業の薬師になるべく勉強に励んだ。
それから8年後。隣国の王宮薬師を務めるカモミール伯爵家が作った薬がこちらの国にも届くようになり、16歳のブルーベルは身体は弱いものの日常生活が送れるぐらいに元気になった。
18歳になっていたランタナは婚約を解消し、ブルーベルのために良い治療法を探していた時に知り合った隣国の友人ペンタス・カモミール伯爵令息に誘われて彼の家で働き始めた。
この国よりも医療が進んでいる隣国での生活は忙しくも充実していて、時々送られてくる愛する婚約者と過ごせて幸せいっぱいのブルーベルからの手紙を読むのも心が温かくなった。
しかし、その幸せはあっけなく終わった。
1年後、ブルーベルの婚約者から彼女が風邪をこじらせて亡くなったという知らせが届いた。
隣国で報せを受けたランタナは、つい先日元気だと手紙を送ってきた親友が突然亡くなったことを最初は信じられなかった。
心配したペンタスに付き添われて慌ただしく帰国し、知らせが本当だったとわかってからはショックのあまりしばらく記憶がない。
やっと現実の感覚が戻ると、頻繁に会いに行っていた親友としてもっと彼女のためにできることがあったはずだと激しい後悔に襲われ、ブルーベルを置いて遠く離れた隣国に行ってしまったことを嘆いた。
そんな自分を同じ薬師としてペンタスは根気強く励ましてくれ、ブルーベルのお墓の前で彼女と同じ病に苦しむ人たちを救うと誓った。
そして、彼のおかげでようやく前を向く気力が戻り隣国に戻ろうとした時。気づくとすべてが始まる前に戻っていた。
「覚えているうちにこれから起こることを書き留めて、ベル様のためにできることをしないと」
自分が隣国で薬師として働いていた時の知識と記憶を持ったままやり直したのは、皆に愛された少女の早すぎる死を憐れんだ神か、あるいはもっと長く生きて憧れの外の世界を見たかっただろうブルーベルの願いか。
思いがけない奇跡にランタナは深く感謝すると、未来を変えるために動き出した。




