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起-0 抗争大爆発

 「オマエ、どこの組のモンだ」

 

 薄暗く、お世辞にも広いとは言えない応接室と思しき一室で、年老いた男のしわがれた声。

 

 彼の視線の先には、まだ若いであろう男が遠目でもわかるくらい、異様な汗をかいて立っていた。

 夏場であれば珍しくもない光景だろうが、この日は11月の半ば、おまけに北海道で最高気温がわずか6度、決して汗をかくような状況でもない。

 指定暴力団、笹川組事務所に予告もなく現れた若い男は、無言で入口ドアの前で立ち尽くしている。

 

 室内にはこの若い男の他、やたらと筋肉質な巨漢と、まだ年若いやたら小柄な女性が1人。

 この地域で、笹川組は暴力団として非常に小規模で、構成員はわずか3名。組長の笹川浩二と組長補佐兼若頭の大河内佐武郎、そして小柄な女が1人だけだった。巨漢は佐武郎で、小柄な女性は組長笹川浩二の孫娘、笹川綾子だ。

 組織としては弱小極まる規模ではあったが、『日本最後の武闘派任侠集団』という評判は、日本のいわゆる裏社会ではまぁまぁ広がっているものである。

 

「サブ、話ィ聞いて差し上げな」

「うす……お嬢はいったん奥へ……」

「動くなぁ!」


 大柄な男が立ち上がると、若い男が突然絶叫とともに上着を脱ぎ捨てる。

 カラダにはレンガブロックのような塊がいくつも巻き付けられている。C4プラスチック爆弾だ。

 若い男はガチガチと歯を鳴らしながら、ポケットからスイッチのようなものを取り出した。

 

「……手前ぇ、大船組の鉄砲玉か」

 

 ここ数ヶ月、笹川組は近隣地域を活動拠点とする大船組と、互いの利権を巡っていざこざが続いていた。

 急速に勢力を伸ばしていた大船組からすれば、構成員わずか3名の笹川組など、あってないようなものである。が、スジを通さなければならないのがヤクザの世界だ。組長同士が何度も会談をかさねたが、お互いの利害が一致することはなかった。

 

「やめとけ、自爆なんぞつまらんぞ」

「う……うるせぇ! こうするしか! こうするしかないんだよ!」

 

 若い男の手は、少し離れた場所に立っている綾子が見てもはっきりわかるくらいブルブルと震えている。

 

「……こ、こうするしか、こうするしか無いんだ、そうだ、コレしか方法が……」

 

 一瞬の隙だった。小さく身をかがめた綾子が、伸び上がる勢いを利用して若い男の右手を思い切り蹴り上げ、さらにコンビネーションで左ハイキックと右肘を男の顎に叩き込む。

 崩れ落ちる男の股間を思い切り蹴り上げてから、うずくまろうとする男の首筋に再度肘を入れるあたり、一切の情け容赦というものが存在しない攻撃だ。

 流れるような動きは、どう考えても素人のそれではなかった。

 

「やめときなさい、自分が死んでどうなるのよ。……サブ、はいコレ」

 

 床に落ちた起爆スイッチと思しきリモコンを拾い上げ、巨漢サブの大きな手にぽんと渡す。

 サブは少し困ったような顔でリモコンを受け取る。

 

「……お嬢、荒事は自分が……」

「どう考えたって爆弾テロなのよ? そんな悠長な事言ってる場合じゃないって。おじいちゃん、やっぱこれって」

 

 突如、床に伸びている男の体から、ピッピッピ、という電子音。

 赤いライトが点滅している。

 

「……サブ、押した?」

「いえ」

「ふん、なるほどな。タイマーだったってわけか……クソが」

「組長! お嬢も逃げ――」

 

 サブが巨体をなげうつように若い男に覆いかぶさる。が、カラダに巻かれたプラスチック爆弾は、半径10メートルの範囲を木っ端微塵にするのに十分すぎる威力だった。

 

 この日、指定暴力団笹川組は消滅した。

 死者8名、重軽傷を負ったものは80名と、近年稀に見るレベルの暴力団同士の抗争による事件だった。

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