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天候を操る氷の竜と静夜の賛歌3

 



 快晴の青空。ここ数日は曇り空が続いていたので、空に太陽が見え、ラビィは籠を手に持ち、裏の森になにかいいものが採取できないかと探索に来ていた。その、背の高い木の上を大きな翼を広げて地上に降りてくる氷竜の姿を見た。氷竜はシリウスのお屋敷の前にゆっくりと降り立つ。その背中に乗っていたのが、新しい騎士団服に身を包んだシリウスだ。




「ーーただいま、ラビィ」


 ーーおっ、おかえりなさいシリウスさん。


 ラビィは籠を抱きかかえて、シリウスを出迎える。

 新しい騎士団服。白を基調としてワンポイントに水色の氷の模様が入っている北の街の騎士団服だ。

 銀の鎧で胸元や部位を守り、手綱(たずな)をしっかりと握れるように手袋を付けている。胸元の自身の紋章と新たに増えた北の騎士団の団章がキラリと輝く。


 シリウスが長く留守の間、お屋敷にはたくさんの手紙や小堤が届いていた。

 その小堤を開けると、めずらしい花だったり、植物だったり、遺跡で見つけた本や魔法具なんかも届いた。それをラビィはブリザードフラワーにして部屋に飾っていたり、数が多くなると、街に出向き、雑貨屋に納品したりもした。お小遣い程度の報酬なのだが、自分のスキルが評価されるのには自信がつく。自分の稼いだお金で自分の部屋も少しずつカスタマイズして行って、それが楽しかった。




「ーーなんだこの大量の手紙は!?!?」


 お屋敷に入ったシリウスは両手に手紙を抱えていて怒っていた。その宛先が全部、ラビィへのものだったからだ。


「どうして、せっかく北の地に身を隠したのにこんなことになっているんだ!?!?」




 薬草の納品を10件お待ちしています。道具屋店主。

 お気に入りの本が入荷しました。図書館。

 中級ポーション30個の鑑定が完了しました。鑑定所。

 古の魔法具が手に入りましたのでご連絡します。骨董屋。

 新しいお洋服はいかがでしょうか? …………。


 冬の音楽祭の招待状です。教会。


「ーーーー冬の音楽祭!?!?!?」


 ーーあっ、しまった、シリウスさんにはまだ言っていなかったんだ。


「この俺がいない間に、まっくらな夜の中、夜八時まで!?!? 全然知らなかった……!?!?」


 そう、鞄につけた星と狼の紋章を隠したリボンを見つける。


「これを、どこで!?!? いつ? だれと!? まさか……プレゼント!?!?」


 そう、シリウスはラビィに問い埋める。彼女は首を左右に振るのだが、彼の妄想は止まらない。



「ーー君がさびしくならないように定期的にプレゼントを渡していたのに。ああ、やっぱり、竜騎士になんかなるんじゃなかった」


 彼はいま職務を放棄して、だいぶこじらせている。


 彼が不安がるのもしょうがない、久しぶりに再会したラビィはとても綺麗になっていたからだ。



 うしろから、シリウスのお姉様の視線を感じる。


「ーーあなたがいない間に魔法研究所もだいぶ華やかになったのよ?」



 魔法研究所の温室にはラビィが育てて増やした花がいっぱい咲いていた。よく手入れをされている畑には青々とした野菜、果物の木の苗もいくつか並んでいる。これはもう少し育ててから、温室から出して植える予定だ。それから、研究所に入る。研究所には倉庫に保管してあった巨釜が現役で使われていて、そこで、薬品を作っているようだった。道具屋で出に入れた虫メガネや双眼鏡。虫鳥かご。網。捕獲用の檻。たくさんの本の中。それから、骨董屋で手に入れた古の魔法具。


「ーー恋人なんて作る暇もないくらい充実した毎日だったようだわ」


 そう、シリウスのお姉さまが言うと、お姉さまはクローゼットからかわいらしいワンピースを出す。


「冬の音楽祭は街のみんなが楽しみな行事だもの、私もご一緒するわ」


 そして……。お揃いの色のカジュアルスーツも取り出した。




「もちろん、あなたの分も用意してあるわ」



 ☆


 


 冬の音楽祭当日。

 教会の観覧席に街の人がたくさん集まっていた。教会の扉が開くとグランドピアノの演奏とともに子供の聖歌隊が楽器を持って歩いてくる。ピアノの前に子供たちが並んだ。そして、あとに指揮者が歩いてくると、子供たちの前に立ち、指揮棒をあげると、楽器の演奏とともに聖歌隊が歌を歌った。


 子供たちの聖歌隊の合唱。大人の部の本格的な演奏。

 曲の終盤。いつものかわいらしい服装とは違って、少し大人っぽい衣装に身を包んだ、ルナがみんなの前に立つ。そう、ルナのソロ曲だった。



 先ほどまでのあたたかみのある家庭的な音楽とは雰囲気が全く違った。


 彼女の話声は子供っぽく可愛らしいのに、歌を歌うと、一気に大人の女性に聞こえる。観客席に座っていたみんなが彼女の声の虜になっていた。声が途切れる。


 ーールナ? ルナの様子がおかしい。顔色が真っ白だった。



 異様な雰囲気に観客が騒めく。


 ルナはそれでも、声を絞り出す。


 ーールナ。どうしたの!?


 ラビィは思わずルナのそばに駆け寄った。


 ーールナ!? ルナ!? 顔色が悪いけれど大丈夫!?


 両手を胸元でぎゅっと握りしめしゃがみこむルナ。その頬には鱗が見える。


 ーーいったいどういうこと!?!?



 ルナは歌を歌うことをやめなかった。


 あんなに晴れた青空だったのに、いつの間にか教会には薄暗い雲が集まってくる。ルナが苦しそうに歌うと、その声に反応して、教会がガタガタと揺れる。観客席から悲鳴が聞こえた。



 

 突然、教壇向こうのステンドガラスに氷の紋章が浮かび上がる。


「ーー氷竜だ。氷竜がここに来る。みんなを安全なところへ非難させろ!」



 シリウスは教会の外へと観客を誘導する。魔法具のピアスですぐに仲間に連絡をとる。


 「竜騎士さま!?」


 観客の一人が、そのシリウスの声に反応する。

 

 

 シリウスのお姉さまは教壇の前でしゃがむルナのそばにいるラビィに声をかけた。


「はやくここから逃げましょう」


 ーーでも、ルナが。ルナが動けなくて。



 シリウスのお姉さまが二人を非難させようと、ルナの体を抱きかかえようとする。すると、彼女の持っていたポシェットが開いていて、中から割れた鉱石が見えた。


 「氷卵!? 氷竜!? なんでこんなところに氷竜の卵があるの!?」


 ーーえっ、氷竜の卵!?




 ルナと二人を取り囲むように冷気が渦を巻いた。教会の空気が一瞬で凍てつく。室内の温度が一気にマイナスへと下がった。ルナの足元から凍てつき、それがだんだんと広がり、無数の氷の刃が突き刺さった。




 真っ白い霧の中で少女の影が、子供の竜の姿へと変化する。


 ーーそ、そんな。まさか。ルナ。あなた氷竜だったの!?






 『ルナはあなたのお友達を希望します』


 ーー楽しかった。


 興味本位で習い事をはじめて、その中でルナに声をかけられて、先生と出会って、いろいろなことを教えてもらって、そして、純粋にお友達になりたいとその言葉がラビィの頭の中で繰り返される。



 氷の竜の姿になったルナはとても苦しそう荒い呼吸をしていた。


 そのうちに北の騎士団が到着して、氷竜の姿になったルナを一時的に捕獲しようと、拳銃(ピストル)を構える。中にはラビィが作った新弾が入っている。


 



 ーールナ、ルナ、どうしてはやく自分が竜だったってこと言ってくれなかったの!?

 

 ラビィの鞄にはルナが結んでくれたリボンがまだ結んであった。



 「……ラビィ……? いや……聖女……さま……? 私が……守るべき……お(ひと)




 


 ーーもしかして私が聖女だってことわかっていたの? それでも、仲良くして、私がずっと……ずっと一人でいたから、輪の中に入れてくれようとしてたの? 


 氷竜は何千年も生きる。北の氷竜の役目は遺跡を守ることだ。この街には数多くの聖女が残したものがある。それらを守り、街の人間や、自然も守る。氷竜は群れて暮らす生き物だ。長寿であり、孤独でもある。感受性が強く、絆や仲間意識がとても強い生き物なので、子供の竜はたまに人間の姿に化けて、街に降りてくることもある。



「ーーラビィ、ここは、竜騎士団に任せて。あなたは安全な場所に避難して欲しい」


 ーーいやだ。


「ーーラビィ! ここは危ないから! 氷竜から離れなさい!」


 ーー絶対、いやだ。



 竜騎士団は拳銃の引き金を引こうとした。


 そのとき、ラビィの鞄からオルゴールが流れる。





 ーーこの歌は、みんなの。みんなでたくさん練習したときの歌。あんなに頑張ったのに。最後まで歌わせてあげれなかった。最後の最後でこんなことになってしまって。お願い。ルナを助けてあげて。



 ーーお友達だから。



 オルゴールのみんなの声でルナの荒い呼吸は少しずつ安定してきた。

 そして、やわらかな光とともに元の可愛らしい人間のルナの姿へと戻って行く。


「ーーああ。ラビィ、ありがとう。とても楽しかったわ……」



 ルナは自分の耳に手を当てる。


「ーーほら、おかあさまとおとうさまが迎えにきてくれたみたい。教会の外で竜の声が聞こえるわ。……私が勝手に遊びに来ちゃったから、自分で戻らないと」



 教会の外には竜の群れが集まっていた。その中心にいたのがルナの両親だ。


 「ーーおかあさま、ルナが人間と遊びたくてここにきたの」



 竜騎士団はルナをあたたかな毛布で包む。ルナはゆっくりと自分の足で外へと歩き出す。


 


 外には拳銃を構えた竜騎士団と、それとは反対に怒っている氷竜がいて、その中にルナは歩いていく。そこで、ルナに付き添っていたラビィは再びオルゴールの蓋を開ける。



 「ーーー讃美歌?」


 ーーラビィは声が出なくて歌うことができない。ただ、この古のオルゴールは魔法石の力で記録と再生を繰り返すことができる。この古のオルゴールは元々この地の聖女が使っていたもので、そこには北の聖女様の歌声が記録されていた。今は亡き懐かしい歌声に、その友の声に。氷竜は大人しくなる。



ーーここからは竜騎士であるあなたに、ルナと、ご両親のことをお願いします。


 ラビィはオルゴールをシリウスに渡した。

 

「ーー了解した」



 ルナは元の氷竜の姿に戻る。氷竜は次々と氷の洞窟に引き返す。



 ーールナ、ありがとう。またね。元気になったらいつでもまた街に下りて来てね。自分一人の力では勇気がでなくて、できなかったことも、友達となら、力をあわせて、乗り越えることができた。あなたに困難なことが起きたら、私は共に戦い共に乗り越えましょう。私たちは、離れていてもーーお友達だ。




 氷竜たちが洞窟に戻ったあと、シリウスは再び氷の洞窟に訪れた。そして、竜の姿のルナを見つけると、オルゴールを渡した。





 氷の洞窟では、たまにあの懐かしい歌がオルゴールのメロディが聞こえるらしいーー……。




 







 

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