七話「魔犬たちの山」.2
近づいてくるアルマートゥスの存在は、木々の数が少なくなる山岳部付近ならばよく見える。岩盤に似たモズ色をした『グラディウス』の機体表面でも、動いてればわかりやすいものだ。
鳥の民ほど目がよいわけではない犬の民でも、十分見つけられるだろう。
「この先が、彼らの集落なのか」
ルガリが立ったのは、山間部に続く谷間の道から外れた、尾根の上だった。森を抜け、谷を越え、山間部に続く街道を横目にさらに森を駆けた。なるべく来訪者たちの通り道は避けてきた。
犬の民の集落は、人間に支配されているとフェイジアが言っていたように、集落へ続くであろう道には、堅牢な門が築かれていた。
「あれは、原住民が造ったものじゃないな。アルマートゥス用だ」
「このお山でも、原石が採れると聞いています。昔は、犬の民の育てた果実と、私たちが川でとった魚を交換したそうですけど」
あまり舗装されていない道を、四輪駆動車が走っていく。坑道から採掘できたものを、自分たちの領地へと運んでいるのだろう。
「ルガリ様、あそこに突撃するのですか?」
「本来なら、そんな無茶はしたくない。――けど、犬の民と同盟を結びたいのなら、恩を売るべきだ。少なくとも、一緒に戦ってもいいと思わせるくらいの力を示さないといけない」
森に住む鳥の民と山に住む犬の民。違う場所で生まれ、違う文化で生きてきた者たちを協力させるために必要なのは言葉ではない。
機体をすっぽりと覆う布を頭からかぶり、外見を偽装する。この地を支配する来訪者たちは複数の派閥に分かれている。
ならば、少しでも情報を混乱させ、敵側に協力させないことも必要だ。
「フェイジアはここで待っていてくれ。すぐに片づけてくる」
「はい。どうかご武運を、ルガリ様」
ルガリは『グラディウス』が担いできた剣を二本、それぞれの手に握る。
犬の民の集落は山間部の小さな盆地に存在し、四方を壁に囲まれている。天然の要塞に思える構造だが、古代のアルマートゥスが持つ踏破能力ならば、現行機に比べても突破は容易い。
入り口は集落の前後に一つずつ。そこさえ守っておけば集落は安泰だが、逆に言えば逃げ場もない。
「中央から、速攻で崩す!」
本来なら夜間に、出入り口双方を攻撃し、じっくりと責めるほうが確実だ。
けれど、その場合ある程度の人員が必要になる。加えて残っている犬の民たちを危険に晒す。まして、今は一刻も早く交渉を始めたい。
ならば、速攻で拠点を落とし、奴隷たちを解放し、安全を確保する。
目的を胸に、尾根の上から飛び出した。
『なんだこの音……誰だあいつ!?』
『て、敵しゅ――!』
尾根から滑り降りた先、そこに留まっていた二体へ向けて振るった剣が、ガギャンッ! と、金属同士のぶつかり合い、ひしゃげる音が響かせた。
潰れたアルマートゥスごと剣を振って投げ捨てると、双眸を次の標的へと向ける。異常事態に気づいた兵士が数名、自分の機体へ乗り込もうとしているのだ。
ルガリのように常にアルマートゥスに乗っているわけでもない。彼らは人間で、肉体があって、起動までには若干の隙がある。
『門の警備隊を呼んで来い! どっかの馬鹿が突っ込んできやがった!』
『尾根から滑り降りてくるのが見えたぞ。他の増援に警戒しろ!』
まさか、敵が単独で突撃してくるとは思っていない。マントで隠された機体は所属の判別を付けなくさせ、機体のシルエットもわかりづらいため、射撃もしにくい。
配備されている『ブレット』の一体が動き出し、傍らのクロスボウを持つ。
狙いを定め、引き金を引くより早く、投げつけたナイフが胸部を貫いた。
「これで五機、そろそろ門の端まで連絡が届いたか」
騒ぎが起きれば、駆け付けてくる機体もいるだろう。数で押しつぶされる前に、各個撃破するしかない。
事前に確認した範囲では、起動済みの機体が二。待機中が三。前後の門にはそれぞれに四。合計で十三のアルマートゥスがここには駐在している。
元犬の民の集落跡は、立派な採掘場になっていた。
「増援が来る前に、解放できるか?」
次の動きをどうするか。素早い判断が必要だった。
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