四話「不死なる心臓」.1
アンブロス・ジェネレーター。
それは古代のアルマートゥスにも搭載された、最初期型のジェネレーターだ。
地中から発掘された特殊な宝石を搭載したジェネレーターに、人間の発する精神波を照射することで発するエネルギーを、アルマートゥスの原動力へと変換する。
それを通称、電子適正と呼ぶ。
ルガリの生前では、街の機械を動かすために、適性のある奴隷が鎖につながれながらジェネレーターを稼働することさえあった。
「つまり、君たち原住民にはその精神波が、この原石と同調しないんだ」
「発掘作業を行う上で、坑道内の安全性を確保するには、『不死石』を刺激しない人員がいるとかで、そういう意味では私たちは重宝されていたんですね」
ルガリは、自分が覚えている限りの人間時代を思い出す。
アルマートゥス適性がない人間は、魂を抜かれた電子化兵になるか、強制労働が常だった。その中には、確かに鉱山労働のようなものも含まれていた。
電子化兵になってから植え付けられた情報教育の内容でも、アンブロス・ジェネレーターについて知る機会があった。
アルマートゥス適性のある人間ならば誰でも必要十分なエネルギーを作り出し、過剰生産状態での爆発ならば、敵戦艦一隻を鎮めるだけの火力がある。
「確かに、半分爆薬みたいなものを発掘するのに、火を持って近づくわけないな」
「私たちは、私たちを支配する者たちを養い、武器を作らされているんです」
自らの支配を強めるために働く。そんなやるせなさを、半世紀もこの地の人々は経験してきた。溜まりに溜まった憤り、察するに余りある。
一方で、鹵獲したアルマートゥスもこのままでは動かすことのできない無用の長物だった。
「人間のほとんどはアルマートゥス適性を持ち、原住民たちはそれを持たないから不利に立たされる。時代が変わっても、奴隷構造は変わらないんだな」
力ある者がない者を支配する。それ自体は弱肉強食、自然の摂理だ。だが、ヒトは自然そのままの生物ではない。ならば、自然の法則に逆らったっていいはずだ。
「最新鋭機の使っていたアクシャハラ・リアクター……いや、せめてアムリット・エンジンでもあれば、みんなが使えるかもしれないけれど……」
どちらも、かつての時代でルガリ本人に縁はなく、高級軍人やエリート部隊には縁のあった高品質動力機関だ。ないものねだりしても意味はない。
今、人間たちと戦えるのは、ルガリだけなのだ。
「あの人間たちは、報復に来るでしょうか?」
「準備が整えばすぐにでも来るだろう。アルマートゥスに木の柵も壁も意味はない。負傷者はもう、山奥に避難しているんだろう?」
「はい。せめて抵抗できるようにと穴を掘ったり、木と木の間に縄を張ったりと、罠を仕掛けてはみましたが……」
「あまり効果的ではないな。むしろ……」
ちらりと、ルガリは転がっているアルマートゥスを見る。どうせ動かせないなら、放置しておくのも邪魔だ。せめて、役に立ってもらおう。
そばに落ちている剣を拾い上げたルガリは、起き上がらせたアルマートゥスの胸に切っ先を突き立てた。
「自業自得ってやつだと思っておけ」
言い訳にもならない言葉を呟きながら、力を込めた。
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