第036話 - 天邪鬼、上陸。
―年を越す少し前、福島県いわき市。
市街地のはずれの小さな港に、一隻の大型客船が到着した。
「はぁ…まさかこんな南側まで飛ばされてしまうとは思わなかったな。」
「あぁ…」
「それが、すいません…仙台港に多数の停泊があったらしいもんで。」
「あ、いや。操縦士さんにキレてる訳じゃないさ。流してください。」
当初仙台港か或いはその周囲の港を使用する予定だった。
しかし、不運にも各都道県の庁長が集まる庁長会議なるものが仙台新国民会議場で開かれていたため、仙台周辺の港は一時封鎖。
政治家…ましてや「不良議員」という異名を付けられた彼らを受け入れる港は、もはやここにしかなかった。
スマホ片手に天邪鬼こと結城はこう言う。
「大津港から南は…」
「[東海村]の件で今は立入禁止区域に設定されているよ、まぁ、政府でも多数の残留者が確認されてるがなぁ。」
丁度その件について資料を纏めていた齋藤が、ここぞとばかりに書類の束を渡す。
「はぁ、仕方ない。市街地まで行くか。」
「東日本国会議員の結城と齋藤です。いわき駅まで連れてってほしい。」
駅までは仕方なくヒッチハイクで適当に車を拾った。
ここでは東日本でも数の少ない、「壁の建設時」からほとんど変化の見られない街だった。
「…随分と高価なお車が走ってるもんなんだなぁ」
齋藤はただそう思っていた。
「―あんたら、かの不良議員たちだろう?東西統一を裏で企んでるっていう。」
「…えぇ。」
「あぁ…。」
二人の男は後部座席で気の抜けた返事を返した。
「そうか…」
「それが何か?」
「―この分のガソリン代は求めんよ。ただ、その代わり…」
『その代わり…?』
「…頼むから、あの壁をあんたらにはぶち破って欲しいんだ…」
「―俺の息子が…まだ静岡に居るんだ。」
男は震えた声でこう述べた後、路肩に車を止めた。
「頼む、せめて死ぬ前にまた息子に会いたいんだ…」
「…」
「分かりました、貴方ののその注文、確かに承りました。」
(おい…結城、あんま変なこと言わないでっ…)
齋藤が耳打ちをする。
「しかしながら、今のままじゃ政治でも企業でも民間でも協力する人手が圧倒的に足りない。まぁ、政府の圧倒的権力行使がその背景にはあるんですけどねぇ。」
「―どうです、本当にその思いが強いならば…我々と組みませんか。勿論必要最低限の生活の保証はする。国を圧する人員が揃えば、アンタが死ぬ前に壁をぶっ壊すことは可能性を帯びてくる。」
齋藤が耳打ちする頃には既に手遅れであった。
「すっ、すんません、本当にこの馬鹿が…」
「―あぁ、是非ともご協力なれるものは何でもしようと思う…」
「…その為に君たちの船をここ迄持ってこさせたんたがら。」
齋藤の言葉を打ち破った一瞬の静寂の後、彼は齋藤の考えと正反対の言葉を発した。
「情け涙を失礼した。私は…」
今までずっと前を向いていた男は、涙を拭い後部座席へ顔を向けた…
「あ…貴方は…」
驚愕する齋藤とは正反対に、結城は微妙な笑みで彼の顔を見つめた。
「…私は陸神ホールディングス代表取締統括役、陸神直樹だ。」




