第024話 - どこかで。
大通り。
十字路の手前でバスを降りる。
ずっと玲子さん達と話をしているうちに、清水の麓にまでやって来た。
「えぇっ!清水って山登るの!?」
目の前の急坂を目前にして、思わず口に出てしまった。
「え!?…まあ、山登りゆーてもそこまで高くないで。」
やはり冷静な玲子さん。
“清水”とやらまでは数百メートルにのぼる緩い坂をひたすらに登る。
今更ながら
「陽三、何でここに来ようと思ったの?」
と、少年に問う。
「見せたいもんがあるからや!」
と、軽々しく坂を登りなからこちらを振り返りこう言う。
常に騒々しい京の町とは正反対に、清水への登坂は本当に人一人っ子居なくて静かだった。
足音と、背後の京の町から聞こえる喧騒だけが耳の中に入ってくる。
「なぁ、ちょっと来るの早すぎたんちゃう?」
「そっかな~」
何のことやら…言われるがまま付いてきているのでもうさっぱりだった。
しばし上る足を止めると、いつしか分かれ道のある大きな通りになって、人集りも増え始める。
「ちょい一息着こうや~」
『はーい』
のんびり歩き過ぎたのと、そこまでしても「目標時間帯」には早過ぎたから、この坂の中継点で休憩することとなった。
「それじゃさ、私はちょっと散歩してくるね。」
「ほいよ~、気ぃつけてな!」
日本人の精神的な故郷ー
この土地に、懐かしさも憧れも希望も抱けないのは何故だろう。
確かに、ここが遠い昔に「前の前の日本」の首都であったことは、これらの歴史的建造物が物語っている。
でも、今やその記憶を伝えることが出来たのは前述の通り、歴史的な建造物だけだ。
彼らが、まさかここが再び首都になるなど考えても居なかっただろう。
清水と京都駅は非常に近い。
この駅より南側と北側で、街並みは大きく違ってくる。
私達が今住んでいる「左京区」を含む北側は、過去に京都府が条例で定めた規定が今でもきっちり守られている。
しかし、南側に入ると風貌は一変。
京都が首都になったことから、東京からは様々な関係省庁が集結。
ガラス張りの超高層ビルが常に犇めきあっている。
首都になって、古都の哲所を守れない文化が流れ込んでから京都の風貌も一変した。
そうお話してくれたのは、団子屋の店主さん。
「確かに首都になったのは嬉しかったけど、こんなん誰も望んでないやろに…」
結局、何もしないまま時間だけが過ぎてゆき、玲子さん達の集合場所へと戻る。
「ほんじゃ、行こか!」
昼を過ぎ、間もなく夕刻を迎えるような時間までずっと喋っていた。
「てっぺん」まではそこまでの時間を要さなかった。
『こっちこっち!』
2人に招かれるがまま引っ張られる。
寺院の上、清水寺の「展望台」脇にある、またしても誰も居ない場所へやって来た。
石の柵に手を掛け、3人で木々の合間からそれを眺める。
「そろそろやね…」
夕刻になるにつれて、眼下の京の町が明るい点々へと変化してゆく。
そこは、どこかで私が確かに見た景色だった。
それとは少しかけはなれているような気もしたが、そこは確かに京都という都市の姿だった。
何人もの人々が、人間の生活を営んでいる。
まるで茜のペンキを空にぶちまけたかのような色の空が、次第に青黒く変わってゆく。
「ほれ、ハンカチや。」
気付かぬうちに、涙が零れていた。
「サヤ、記憶の無いずっと前にここに来たんやね。きっと。」
古くからある営みの灯火と、新しく創られた神々しい灯火。
いつしか後ろには、大勢の人がスマホやカメラにその光景を収めていた。




