第010話 - 前兆
○登場人物○
◇浦沢 ♂ - 国民センター 国民管理課7番の担当。震災発生までタクシーの運転手をしていた。
◇カントウチホウ - ワタシタチハ、 ヒガシニホン トイウコッカニ...ミステラレタ...
普段通りの朝を迎え、ある者は普段通り学校へ、ある者は職場へ、ある者は散歩へ、ある者は買い出しへ…
以前の東京と変わらず、多数の長編成の列車が都会の喧騒を過ぎ去る。
過去、オリンピックの開催時から急ピッチで建設された高速道路には、多数の自動車が職場へと向かって疾走する。
網の目状に張り巡らされた地下鉄―
下り上り関係なく、多数の列車が、大勢の旅客を乗せ1分単位の間隔で暗闇を切り裂くように疾走する。
羽田空港では、旅行制限の中、仕事関係での利用が認められた者々が地を離れてゆく。
浦沢は、まだ客を拾えぬまま赤羽周辺の町をぐるぐると巡回していた。
信号待ちで止まる。
「今日も数人載せて業務終了だろうなぁ…」
今となっては平凡に聞き取れる独り言を、廃れゆく東京の下町へと吐き捨てた。
企業に勤めてた頃が懐かしいなぁ…
なにせ、一時は何億もの大金を操っていたんだから…
自慢気な思い出を頭の中の「棚」から取り出す。
今日も、こんな調子で1日が終わるのだろう。と、考えていた。
しかし地下では…
…………………
―「終わり」はここから全てが「始まった」。
―午前8時5分、東中央気象局(旧:日本気象庁)。
<ピピピピピピピピピピピ…>
閑散とした情報センターのうちの数台のモニターに映し出された警告は、誰の目にもはいることは無かった。
【地中加速度変化 東京湾3916.89…】
【地殻異常予報 - 第一報】
【地中加速度異常 東京湾3974.32…】
【地中加速度異常 東京湾3976.05…】
誰もが知らぬ中、「はじまり」の準備は着々と進んでいた。
東京湾を東西に横断する「東京湾連絡高速道路」では、既に異変が観測されていた。
ギギギギギギキ ギギギギギキキキキキキィィィィィ…
トンネル内では、金属と金属が擦れあうような不協和音の旋律が…
天井から吊り下げられている電光掲示板からは、開通当初からの埃が路面か自動車に落ちてゆく。
社会の情報化が進んだ現代。
これらの映像は、規制対象外の携帯電話を持つ者が''SNS,,と呼ばれる二次情報社会の間で広まった。
―午前8時12分。
異変は次々と各地で報告され始める様になった。
江戸川区・江東区・港区・品川区・大田区…神奈川県沿岸一帯・千葉県内房各地からは、東警察局に対しての問い合わせが殺到した。
警察局は、この通報をすぐさま仙台の政府へと報告した。
「どうせ何も起こりませんから―」
東政府の対応はあまりにも酷かったと、後に警察局職員だった男性が語った。
―午前8時24分。
警察局からの要請でテレビ各局に一斉にテロップが表示された。
【東京湾で不審な音波を観測。冷静な行動を。】
そして―
20XX年2月14日、木曜日。
午前8時27分57秒。
木更津市から16.9km北側の東京湾北部一帯。
海底より地下125km。
マグニチュード8.1。
首都圏大震災の幕開けである。




