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東西故郷物語 ~Memories of Hometown  作者: ミサゴ
第2章 東を背にして
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第009話 - 旧首都「東京」

○登場人物○


◇浦沢 ♂ - 国民センター 国民管理課7番の担当。震災発生までタクシーの運転手をしていた。



東と西が分裂し、壁が建設され始めた日本列島。

東側の首都は、戦火を恐れた旧政府の片割れが仙台への遷都を提案。

そして3年前。東側の首都機能の殆どが仙台へと完全に移行された。

東京・横浜一帯の遷都による人口流出による大規模過疎化も時間の問題であった。

―皮肉にも、新都市「仙台」へと移った人々は、後に命拾いをすることとなるのだが…


日本の行政機関の庁舎が建ち並んでいることで知られていた霞ヶ関―

庁舎は形のみ残っていたものの。中身こそもぬけの殻となっていた。




―午前5時、東京都中野区。

一人の男が,普段通りに目を覚まし、顔を洗い、歯を磨き、仕事着に着替えて家を出る。

最後に玄関まで忍び足で向かい。日本和風住宅の古臭い廊下に向かってこう言う。




「行ってきます。」





彼の名は浦沢錠。

東西が分断される前から、ずっとこの土地で生まれ育ってきた。

普段通り、いつもの通勤路を往く。

実家からの道。

近年首都が仙台になってから、空き家が目立つようになってきていた。


新首都「仙台」へと移住した者。

西日本に向かってから消息不明の者。

海外へ逃亡した者…

海外の中には、当然「西日本」も含まれていた。

…日本は分断されたのだ、とここで改めて実感する。


皆、様々な理由を持ち生まれ育った東京を去ってゆく。

空っぽになった家の中には、この不況で職を失いホームレスとなった者や、海外から東京へと足を運んで、紛争に巻き込まれたのち変える場所を失った者々が棲みついている

様々な理由で市民がこの地を離れ、様々な理由で市民が住んでいた。

皆、自分の事に精一杯だった。



定刻通りにやってきたオレンジ色の電車に乗り、歩きなれた乗り換え口を通り、山手線に乗り換え、下車する。

彼の職は「タクシードライバー」である。

過去、東西が対立し始めた時よりも前、東京の中心の一角にそびえ立つ高層ビルを本社とするほどの…

誰もが憧れるような大企業で、彼は外資系の仕事をしていた。

しかし、いつしか東西が対立をし始めると、日本の治安と信頼度は大きく落ち込み、東日本が非公認国家として独立する頃には外国との通商は一気に切断。

彼の雇手も、東西対立からわずか3ヶ月で多額の負債を抱えたまま倒産した。

追い打ちを掛けるかのように、東政府は東京から首都機能を仙台へと移行しはじめていた。

他外資系の仕事が見つからず、困り果てていた浦沢は苦渋の策でこの職を選んだ。



駅を降り、改札を抜け、大通りから分岐する小さな脇道へと入り、大きな駐車場と無数のタクシーが止まっている場所の中へと入る。

普段通りに事務所へと入った。


普293 普294 普295―


壁に掛けられた多数のキーから自分の乗務する車両のキーを抜き取る。

アルコール検査を受け、車庫へと向かいエンジンをかける。

係担当から、道路状況の確認が行われる。



何もない、冬晴れが空一面に広がっていた午前7時12分。

一台のタクシーが車庫を発った。

彼が運転するタクシーは、二度と営業所に姿を見せることは無かった。




―首都圏大震災からわずか数刻前の出来事である。

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