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体温

簪の一件があってから蒼太を名前で呼び、敬語を使うのもほぼ強制的にやめさせられた。

蒼太の名前を呼ぶたびに嬉しそうに笑う蒼太が直視できなくなって、あれ以来まともに顔を合わせていない。

外出もあの日以来していない。

蒼太を見ると胸が苦しくなる。

自分がおかしくなる。

そうやって距離をとるうちについに汐里さんから苦情がきた。

「陽愛様、蒼太様をどうして避けられるのですか?

最近陽愛様が避けられるので蒼太様が目に見えて不機嫌なので、臣下達も仕事がしづらいのです」

そんなことを言われても私も困るのだけど。

「わかりました。何していいかはわかりませんけど」

汐里さんはにっこり笑って立ち去る。

私ができることなんて何もないのに。

その日の夜、部屋に蒼太が来たとき何か話をしようと心に決めて鏡台の引き出しからあの簪を手に取った。

そういえばまだ、一度もちゃんとつけていない。

下ろしたまんまの髪に簪をさしてぼーっとしているうちに自然と蒼太のあの笑顔を思い出す。

嬉しそうに恥ずかしそうに笑う蒼太。

思い出してから恥ずかしくなって早めに敷いた布団に倒れこむ。

なんだろう、本当におかしい。

「陽愛、入るぞ」

蒼太が部屋に入ってきた。

うわ、最悪のタイミング。

今絶対顔真っ赤だ、私。

無言のまま布団に横になる蒼太をちらっと見て、反対を向いたまま話しかける。

「蒼太、最近何か嫌なことあったの?」

後ろで蒼太が起き上がる音がする。

「別に、何もない」

蒼太を見ないまま話していたせいですぐ後ろに蒼太が来ていたことに気付かなかった。

「けど、陽愛があんまり俺のこと避けるからそれは苛ついたかな」

髪に手をかけられて驚いて振り向く。

「陽愛は俺のこと嫌いなのか?」

少し悲しそうな表情で顔を覗きこまれて一気に体温が上がる。

「そ、そんなこと、ない」

少しでも紅くなった顔を誤魔化そうと俯く。

「じゃあこっち向いて」

優しい声、優しい手、蒼太が笑っている気配だけで胸が苦しい。

蒼太に背を向けて座り直す。

「陽愛」

背中に暖かい体温。

しばらくたってから抱き締められているとわかった。

優しい腕が私を包む。

「これからそれ、昼間もつけといて」

簪を指先でつついて、背中から体温が離れる。

「おやすみ」

さっさと横になった蒼太の顔が真っ赤だったことも

陽愛が幸せそうに笑顔を浮かべていたことも、

照れ隠しをしてしまった二人は知らない。

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