ほんとのきもち
「すまないが、暫く家をあける」
珍しく昼間に蒼太が来たと思ったら開口一番にこれ。
「半月程で帰ってくるから汐里と待っていてくれ」
黙っていると蒼太が伺うように俯きかけた顔を覗きこんでくる。
「陽愛、どうした?」
はっとして顔をあげると少し近付いたら触れそうな距離に蒼太の顔。
ぱっと顔をそらしてなんとか「気を付けてね」と言う。
「出発は明日の朝になる。じゃあ、また夜」
立ち上がろうとした蒼太の袖を気付いたら掴んでいた。
「陽愛?」
「ごめんなさい、なんでもない」
ぱっと手を離すと蒼太が私の前に座り直した。
「なにか不安があるのか?」
心底心配そうな声に少し嬉しくなる。
「なんでもないよ」
そう笑うと困ったように蒼太も笑って私の頭をそっと撫でた。
「何かあったらすぐ駆けつけるから」
その瞳を見つめてやっと、何で不安になったのかがわかった。
帰ってこないのではないか、もう会えないんじゃないか、そんなことを考えていた。
「帰ってきてね」
頭を撫でるその手が優しくて胸が温かくなる。
この人がいなくなるのが怖い。
私のそばに、ずっと、一緒にいてほしい。
「蒼太がいないと寂しいよ」
蒼太が優しく微笑んでゆっくり手を離した。
「俺もだよ」
またあとでな、と蒼太は部屋を出ていった。
その日の夜、蒼太は早めに部屋に来て横になった。
明日から一人、と考えると何だか哀しい。
「陽愛、手を繋いでもいいか?」
暗闇に静かに響くその声に胸が高鳴る。
「うん」
あの日の外出以来の手の感触。
大きくて力強い、温かい手。
その手に安心して、眠りについた。




