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20 諸刃の想い

 他の将校に女王を任せ、ローランド卿はシアーズを追った。どうやらもうファントム・レディ号に乗り、港を離れようとしているらしい。ローランド卿は迷わずエンプレス号に乗り込み、ファントム=レディ号を追った。

 並行して砲撃準備をさせる。ファントム=レディ号では、クルー達が甲板で必死に動いているのが分かった。レディはエンプレスの砲撃の射程圏内には入っていた。

「発射用意」

 ローランド卿は低く恐ろしい声で部下に告げた。あと少しでファントム=レディ号と並ぶ。向こうでも砲撃準備をしているらしく、クルーが火薬を運んでいるのが分かった。何で叙位式に立派に火薬まで準備してやるんだ、とローランド卿は呆れた。形だけのくせに。船に対する礼儀といえばそうだが、シアーズほどの者を嘗めすぎだ、と腹立たしくなる。皆、シアーズを嘗めている。あいつは私が育て上げた最高の駒のはずだった。簡単に捕らえられるわけがないだろう。

 船が並んだ。シアーズがロープに掴まり手すりに立ち、エンプレス号を見つめた。ローランド卿もシアーズに倣った。暫く睨みあい、空間が裂けたように同時に叫んだ。


「撃て!」


 船体が大きく揺れるのを感じ、バランスを崩して、二人とも手すりから降りた。ローランド卿は目の端に、いつの間に乗ったのか、セイレーンが人間の姿になってファントム=レディ号にいるのを見てとった。

 だんだんと辺りが火薬臭くなり、白くなってきた。ローランド卿は部下にファントム=レディ号へ乗り込むよう指示した。そして、自身もファントム=レディ号の甲板に降り立った。迷わず、シアーズを見つけた。向こうも気付いたようで、二人同時に剣を抜いた。回りが雄叫びをあげながら戦っている中、二人は歩いて距離を詰めた。

 シアーズは静かに言った。

「お前とはいつか決着をつける日が来るとは思っていたが……まさかこんな展開になるとはな」

「俺もだな……。安心しろ、苦しまないようにあの世へ送ってやる」

 言いながら、ローランド卿は自分で問いかけた。本当に俺はできるのか?

 シアーズが彼の言葉を鼻で笑う。

「どうかな……?俺を誰だと思ってる?天下のシアーズ船長だぜ?」

 ローランド卿はシアーズを睨んだ。そして体勢を少し低く構えて、走り出すと同時に叫んだ。

「黙れ!」

 金属音が連続して響く。剣の腕は互角だった。だがどちらも精一杯だ、という表情をしていた。周りにいた者が手助けしようとすると、二人は戦いながらもそれを制した。

 久しぶりに交える感覚。憎悪の波間に快感がある。

「俺を公賊にして、何がしたかったんだ!」

 剣を交えながら、シアーズが尋ねた。ローランド卿がにやりと笑った。

「知りたいか。教えてやろう。お前を、公賊にして、再び私の配下に置く!この世の魔物を、一掃するつもりだった!汚い海賊共も!我が国、国民を守るために!」

 シアーズは顔色を変えた。

「最初っからシルヴィアを生かしておくつもりは無かったってことか!」

「当たり前だ!災いの元凶など、死に絶えれば良い!」

 ローランド卿は『災いの元凶』という言葉を言うと同時に顔をしかめた。シアーズは一瞬、ローランド卿の過去を思ったが、すぐに戦いの方へ気を向けた。気を逸していて勝てる相手ではない。

 それ以降、二人は口を開かなかった。ただ、剣をぶつけ合う音が響いた。諸刃の剣は、幾度も重なった。


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