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第6話 - ブリーフィング

ラスター・ホーク一行への事情聴取が終わった。太陽は既にクラックドヤードの奥の山の方へと沈みつつあり、空はオレンジと紫のグラデーションに彩られている。


宿の3階、レオンハートが殺された部屋の隣の応接室でクロウは自分の手帳の内容をまとめ直していた。そこは数少ない窓付きの部屋ということで一行がクロウとリィエンのために開けてもらった部屋である。


窓際から外を見てつぶやく。


「「ああ、こういう時に師匠がいてくれたらなぁ……」」



しかしその声に重なるもう一つの声があった。



「えっ!?」


「可愛い弟子のためにもっと可愛い師匠が帰って来たぞ☆」



グレーのくせっ毛に錬金術師らしくない赤色のアオザイ風の衣装、そしてそのスリットからチラリと見えるポーションベルト。クロウの師匠のリィエン・スタッシュホールドが応接室の入り口に立っていた。



「師匠!」


「どーう?事情聴取はできたかい?」



コツコツと床板を踏み、リィエンがクロウの方に歩み寄る。冒険者らしからぬヒールつきのレザーソールも彼女独自のスタイルだった。いわく後方支援が主体の錬金術師にとって、急いで走らなければいけない状況になること自体がそもそもの失敗だということらしい。


クロウの両肩に彼女の手が置かれる。それぞれの指が交互に上下して順繰りにクロウの肩をトントンと叩いた。



「とりあえず出来ましたけど、決定打になるものはまだですね」


「ふんふん、じゃあとりあえず一緒に見てみようか」


「はい!」



------------------------------------------------

●クロウの手帳


被害者:キルヴィス・レオンハート

職業 :アークパラディンLv.78



状況

【被害者は出血していなかった】

【現場に魔法が使われた痕跡はなかった】

【死因候補:絞殺・扼殺・刺殺】 ※魔殺は上の理由により除外



補足情報

【遺体は移動できない】

【扉は強引に開けられていない】

【扉には鍵がかけられていた】



犯人について

【犯人は錬金術師ではない】

【侵入経路はドアか天窓】

【天窓は外壁を伝う必要あり】





当日の行動(ラスター・ホーク一行)


■ 朝

次の作戦に向けての準備と会議:レオ・ツバキ・マオ

自主トレ(寝てた?):ロー


■ 昼

次の作戦に向けての準備と会議:レオ・ツバキ・マオ

レンジャーギルドに顔を出す:ロー


■ 夕方

【壮行会】:レオ・ツバキ・マオ

 → 途中で抜ける:レオ

 → 飲み比べをする:ツバキ・マオ


クラックドヤードの周囲の警戒:ロー

ラスティアイルの観察:ロー


■ 夜(不明)

殺害される(?):レオ

酔いつぶれて酒場で寝る:ツバキ

近くの小川にいって嘔吐:マオ


■ 夜(10時)

レオの死体発見:ロー

マオを探しに行く:ロー


■ 夜(12時)

宿に戻って寝る:マオ



------------------------------------------------



リィエンは彼の背後から覗き込む。クロウのことを幼い時分から知っているだけに――それこそ血の繋がった弟と接するような距離感で――少し動いただけで接触してしまいそうなくらいに近づいた。クロウは心臓が跳ねると同時に少しだけ落胆する。まだ男とは思われていないらしい。



「ふんふん、レオンハート殿は壮行会を抜け出した後からロー殿に発見されるまでの間に殺されたわけだね」


「はい。レオンハートさんが蘇って話を聞ければもっとわかることも増えると思います」


「そうだね。それと、アリバイが実質ないのはロー殿とマオ殿かな」


「はい。厳密にはツバキさんも裏が取れているわけではないのですが、酒場の人に話を聞けばすぐにわかると思います」


「うむ。流石に酔いつぶれた人のことを放置はしないだろうし、それでいいと思うよ」



リィエンの「いいと思う」の一言にクロウはほっと胸を撫で下ろした。彼女はクロウの推理に対しては厳しくハッキリと物を言う分、彼女がOKを出すものは掛け値なく問題がないことを意味している。一先ずこの段階までは間違っていないとわかるだけでも、クロウにとっては有難い事だった。


リィエンが身を乗り出して各メンバーの所に指をさす。彼女の体温を首筋で感じ、クロウの胸はとくとくと高鳴った。リィエンはそんなことなど露知らずといった様子で言葉をつづけた。



「クロウ君の所管も聞いてみたいな。誰が怪しいと思う?」


「……現時点では何とも。密室を何とか出来るという点でローさんが一番怪しくはありますが、問題はどうやって殺害したかです。明確にレオンハートさんに有効打を与えられるのはツバキさんしかいないだけに、ローさんが凄く怪しいかと言われても微妙なところです」


「ふんふむ。魔殺の可能性についてはどう思う?」


「手帳にも記載しましたが、魔法の痕跡はないそうです。仮に魔法を使うんだったら瘴気のマナが揺らぐ?らしくて」


「うんうん、よく調べられているね。魔法を使うとその属性のマナが周囲に残るものなんだ。それにあの換気性の悪い部屋なら、今日まで痕跡が残っていても全然不思議なことじゃない」


「魔殺が考えられないとなると、マオさんも容疑者からは外れるということです」


「つまり消去法的にロー殿が怪しいと判断したわけだネ。偉い偉い」



リィエンがクロウの頭を撫でる。彼女のいい意味で冒険者らしくない、柔らかい指がクロウの髪の毛の隙間に分け入る。クロウは自分の顔が熱くなっているのを感じていた。たったそれだけの事なのに、クロウは今日一日頑張ってよかったと心の底から思う。


――いや、彼にとっては()()()()()()ではないというだけのことだ。



「師匠はどうお考えなんですか?」


「んーなんとも。単独犯かどうかすらまだ分からないし、それこそ全員が協力してレオンハート殿を殺したとしたらお手上げだからね。――まぁその時は何で依頼しに来たのって感じだけど」



確かに単独犯でない可能性を考えていなかった、とクロウはハッと息をのんだ。パーティ内に協力者がいるならまだしも、外部に協力者がいる場合可能性はずっと広がる。


たとえば腕の立つシーフを連れてこれれば宿屋の鍵ぐらい痕跡も残さず開錠できるだろう。あり得るか分からないが、何かしらレオンハートを殺すことのできる力を持つものと協力すれば、誰だって犯行が可能になる。


クロウはそのことを理解するとうあーっとうめき声を出した。



「すみません、そこまで思い至ってませんでした……!」


「いーのいーの、そこまで考えだしたらキリないんだから」


「というか、だから一番最初に【犯人は錬金術師ではない】というのを宣言したんですね、今更わかりました」


「そうそう。協力者の可能性を考えると、【私たちは絶対に犯罪者ではない】ということを確定させる必要があったんだ。私がクロウ君の、クロウ君が私の監視役となってお互いにシロを証明し続ける」


「すみません、そこまで考えが至らずに」


「謝んないのー。自力で気づけただけ偉い偉い」



リィエンがクロウをぎゅーっと抱きしめる。座高と慎重的にちょうど胸のあたりに顔が埋まる形になり、クロウは思わず声を出した。しかしリィエンの抱きしめる力が強く、じたばたしても引きはがせない。


よしよしと頭を撫でた後リィエンはクロウを開放する。真っ赤になった彼の顔をみてリィエンはニヤリと笑った。



「あれれ~?お姉さんに発情でもしたのかなぁ?」


「息が苦しかっただけです!!!」


「はいはい、分かった分かった。……くふふ」


「もう!」



うひひひとリィエンが笑い出し、クロウは顔が更に赤くなるのを感じていた。ふーっ、ふーっ、と息を吐く。大丈夫、ただイジられているだけ、ただイジられているだけ……クロウは頭の中でその言葉を繰り返してなんとか冷静を保った。



「それで、明日も別の依頼に行っちゃうんですか?」


「あら~~もっとお姉ちゃんと一緒にいたいのぉ?今夜は一緒に寝てあげよっか?」


「そうじゃなくて!!明日の予定です!!」


「うひひ、ごめんごめん。明日も……というかもうヴィーノの方に戻らなきゃいけないから、一人でお願いね?」


「……ハーイ」


「とりあえず明日は周辺の調査とアリバイのウラを取るのからヨロシクね。それができたら自由時間にしていいから」


「了解です」



リィエンがパチンと指を鳴らす。転移魔法陣が現れて彼女は光の中に消えていった。


クロウがそれを物惜し気に見送ると、時を同じくしてローが部屋へと入ってきた。



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