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第1話 - 現場調査①

登場人物紹介(読み飛ばしていただいても大丈夫です)


■ 錬金術師探偵の2人


クロウ・ロックフォール:主人公。錬金術師見習いでリィエンの助手役を務める


リィエン・スタッシュホールド:クロウの師匠であり、錬金術師ギルドの一室に事務所を構えるご意見番




■ラスター・ホーク一行のメンバー


キルヴィス・レオンハート:アークパラディンLv.78。パーティのリーダーにして今回の被害者


アルクレイ・ロー:レンジャー Lv.72。パーティの中で最も手際が良く、暗器にも長けた斥候


マオ・アフィーリア:ウィザードLv.53。レベルは低いものの成長限界が人間の理論限界を突破している異才の魔法使い


ツバキ・ヤエ:ソードマスターLv.81。人類唯一のLv.80到達者。一人で四天王の一人を倒したパーティの最高戦力




「それで、ここがレオンハート氏が殺された現場かい?」



リィエン・スタッシュホールドは部屋をぐるっと一周しながら言った。彼女の黒ぶちの丸眼鏡越しに見える景色は冒険者向けの良くある宿でしかなく、そこには血痕どころか争った形跡の一つも見当たらなかった。



「そうだよ」



ぶっきらぼうにアルクレイ・ローが答える。



「血痕の一つも見当たらないけど、片付けられちゃったんですかね?」



クロウ・ロックフォールはあえてローとは目を合わせずにリィエンに聞いた。ローの粗野な風貌が少し怖かったのもあるが、なによりリィエンの反応を見たかった。



「片付けられたにしてはシーツが乱れているし、ちゃんと現場は触ってないんだよね?」


「たりめーだろ、昨日の今日だぞ。朝からずっと俺が部屋にいたし、俺がお前らを呼びに行ってからはツバキが見張ってたって」


「ではどうして血痕が無いんだろうね?」



リィエンがわざとらしく大袈裟に両手を開く。



「それがわからねぇからアンタらに頼んでんだろ!」



ローが吠えた。クロウは内心身のすくむ思いだったが、彼の脅しを全く意に介さない師匠の姿だけが頼りだった。



「ふぅん、なるほどねぇ……」



リィエンが少し考えたのち、アオザイ風の彼女の服のスリットに手を突っ込む。タイツで隠れてはいるが彼女の太腿が顕になりクロウはサッと目を逸らした。


彼女はスリットから水色の液体の入った小さなフラスコを取り出す。目を逸らす自分の弟子を見て小さくため息をついた。



「全く、錬金術師見習いならちゃんと師匠の所作を見て学ぶべきだと思うんだがね」



彼女の言葉にクロウは少しだけ理不尽に――だったらもう少し錬金術師らしい服を着てくれと――思ったが、口を真一文字にして彼女の動作を見ることにした。どうせ反論しても「それは私に欲情してるということかい?」など揶揄からかわれて恥をかかされるのが簡単に予想がついたからだ。


リィエンは慣れた手つきでフラスコの蓋を外し霧吹きのついた別の蓋に取り替える。ぶつぶつと小声を言いながら彼女はそれを枕に向かって霧吹きで液体を吹きかけた。枕がうっすらと水色に染まる。



「あ、おい!それ明日も使うんだぞ!」



ローが再び声を荒げる。リィエンはもううんざりだという表情で彼の方を見て、普段より低い声色で返事をした。



「揮発性だし血がついてなかったらすぐに酸化反応が始まって無色透明になるから大丈夫だって」


「きはつ……?」


「問題なかったらすぐに消えてなくなるから気にしないでいいってことだよ」



狼狽えるローを無視してリィエンが各所に水色の液体を吹きかけていく。部屋にアルコールとも芳香ともつかない匂いが漂ったが、結局何も変化は起きなかった。



「うーん、とりあえず犯人は錬金術師わたしたちではないようだね」


「さっさとどういうことか説明しろよ……」



ローが諦めたように力なく彼女に問いかける。してやったりといった表情でリィエンがばっと振り返った。


クロウは内心ため息をつく。――またこれだ。師匠は他人に説明することにとにかく喜びを覚えるが故にやたら過程をすっ飛ばして結論だけ言いたがる。そして理由を聞けずドギマギする相手の反応を楽しむのだ。



「ならばお望み通り説明しよう!これは血に含まれる鉄分と反応する薬なのさ!もしそこに血の痕跡がわずかでもあったらこれを吹きかけた箇所が真っ黒に変わるわけだね」


「だからそれが何だって言ってんだよ!」


「そこまで説明しないとダメかい?要するにこれだけ振りかけても血痕が現れないということは、【被害者は出血していなかった】ということさ。加えてそういった隠ぺい工作をしていないということは【犯人は錬金術師ではない】とも言えるってわけ」



リィエンが話した内容をクロウは慌てて手帳に記載した。『被害者は記載していなかった → 犯人は錬金術師ではない』。手帳に一文が書き加えられる。


しかし記載した後クロウはいくつか不信な点があることに気がつく。早速リィエンに声をかけると、丸眼鏡の奥の彼女の瞳が細くなった。クロウは自分の黒髪をくしゃくしゃと掻きながら質問をつづけた。



「いくつか気になる点があるんですけど、そもそも隠ぺい工作をしていないってのが錬金術師じゃないことに繋がらなくないですか?別に錬金術師が隠ぺい工作をしないとも限らないですよね?」


「まーそうだね。ただ今この町、クラックドヤードに居る錬金術師は私とクロウ君だけさ。……というか錬金術師はLv.50に届いている人は一人もいないからそもそもこんな危ない所に居ること自体がおかしいんだけどね」


「それじゃ答えになってないですよ」



食らいつくクロウにリィエンはまぁまぁと両手を前に上げる。



「次に血痕がない場合のことを考えると、どのような殺害方法があると思う?」


「えーと、首を絞めたり、殴ったり、毒を使ったり……?」


「うんうん、いいねぇ。その中で錬金術師に可能なものは?」


「毒……ぐらいです」



リィエンがパチンと指を鳴らす。いい加減にしろ、と言いたげなようすのローを見て彼女はにっこりと笑った。



「ところでロー殿、アークパラディンLv.60の加護はどんなだったかな?」


「……すべての状態異常無効だ」


「正解。その加護はまさに圧倒的でね。クロウ君も『聖騎士不眠症』ってのは聞いたことあるだろう?睡眠薬すら効かなくなって我々錬金術師にはお手上げなほどさ。そんな加護持ちの相手に毒殺ができると思うかい?」


「無理ですね」


「そう。なれば錬金術師に出来ることはせいぜい隠ぺい工作ぐらい。そしてそれもないということは、この一件に関して錬金術師わたしたちは完全にシロだって言うことさ」



リィエンがどや顔で胸を張る。ローは講釈を垂れる彼女にうんざりしたようで、「付き合ってられるか」と吐き捨てて部屋を出て行ってしまった。


木のドアが勢いよく開く音が部屋に鳴り響く。クロウは大きくため息をつくと己の師匠に恨めしい視線を送った。


こうなることは分かっていたじゃないか。どうしてわざわざ依頼人の神経を逆なでするような対応をするのだろう。


一方のリィエンはローになど興味なしの様子で、部屋の様子を次々と確認している。



「というか師匠、そんな当たり前の事を話してどうするんですか。容疑者のパーティメンバーに錬金術師がいないんだから【犯人は錬金術師ではない】は当然じゃないですか」


「まぁね。私達が確実なシロだって表明したかっただけだから、儀式みたいなもんだよ。それよか重要なのは【被害者は出血していなかった】ということ。裏を返せばどのような死因が考えられるかい?」



そんなの教会で蘇るレオンハートに直接聞けばいいのに、とクロウは思った。しかし同時にこれが彼女なりの弟子への教育の仕方なのだろうということも理解していたので、一応考えることにした。



「出血と状態異常がないと考えると、絞殺や扼殺……あとは撲殺あたりですか?」


「あとは魔殺※もだね。加えて熟練の剣士ならば出血が極力少ないように心臓を一突き、ってのも考えられるかな」

 ※魔法による殺人の事


「でも、殺した後にここに運んでこればそんなこと関係ないのでは?」



リィエンが驚いた様子で両手をパンと叩く。クロウは彼女の一枚上手に立てたのでは、と少し心が躍った。



「そうか!クロウ君は知らないんだね。勇者の遺体ってのは動かせないんだよ。死ぬとソウルっていう半透明の物体が残ってね、教会で復活するまで魂がそこに残るんだ。だから殺してから移動させるというのは物理的に不可能。これもメモっといてね」


「はーい……」



心の中でため息をつきながら、【死因候補:絞殺・扼殺・魔殺・刺殺】【遺体は移動できない】と手帳に書き記す。



「にしても変な部屋だねぇ」



リィエンが壁に手を置きながら話した。


部屋は四方が約4mの正方形で、入り口からみて左奥には二段ベッドが設置されている。右奥にはテーブルが置かれておりその上には色々な種類の暗器が並んでいる――おそらくはローのものだろう。ベッドの向かい、左手前にはレオンハートの巨大な盾と槍が置かれている。しかし奇妙なのはそこではなかった。



「窓が……ないですね」



ベッドと作業台の間、本来ガラスが張ってあるべき窓枠には木の板が打ち付けられており、隙間から一応換気はできるもののお世辞にも快適とは言えそうではなかった。



「クラックヤードでガラスは貴重ですから、こういった部分には回せないんですよ」



2人が振り返ると入口に黒髪の女剣士が立っていた。


この世界で知らぬ者はいない。人類唯一のLv.80到達者ナンバーエイトのソードマスター、ツバキ・ヤエだ。



「おぉ!君があの《《四天王殺し》》の!」


「あまりその二つ名は好きではないのですが……あなたはリィエン・スタッシュホールドさんですね。私も《《ご意見番》》のお噂はかねがね伺っております」


「ツバキ殿に認知されるとは、リィエンちゃんも捨てたものじゃないなぁ♪」



2人は意気投合したようでガシッと握手をする。


また面倒くさいことになりそうだとクロウは心の中でため息をついた。



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●クロウの手帳


被害者:キルヴィス・レオンハート

職業 :アークパラディンLv.78


状況

【被害者は出血していなかった】

【死因候補:絞殺・扼殺・魔殺・刺殺】


補足情報

【犯人は錬金術師ではない】

【遺体は移動できない】


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