幽霊狩りの前奏
蛇だったかネズミだったか、それとも全く別の生物だったか。テレビで特集を一度見たっきりで曖昧にしか覚えていないが、昔はその生物の増加に頭を悩ませた役所が民間全体に向けて駆除を頼んだそうな。要するに、一匹幾らの金になるようにした。
すると揃って全員が精を出し、大成功どころか個体数が減ってしまって……みたいな話。
”幽霊を一体討伐する度に新聞部から十万円が支払われます!”
「まあ」
俺は現代で、それを目撃している。流石のカゴメもこれには目を丸くして驚いていた。それは彼女がお化けだからというよりも───あまりに発想が突飛すぎて、だ。校内掲示板にて突如張り出された駆除による報酬提示。それを発言しているのが国でもなければ市でもなく一部活というありえなさ。何より、現物がなければ信用されないだろうという一点で本当に一千万円程用意してきた部長の謎の行動力。
全部、おかしい。
「友人様の所属なさっている部活は資金が潤沢でございますのね」
「部活にこんな資金あるかぁ! あの人のポケットマネーだよ! え、こんな金持ちだっけ!?」
「まさか、怖がっていらっしゃいますの?」
「別の意味で怖いよ! うちの部活にこんな資金が用意されてる訳がないだろ! え、え、え……これ、どういう……何処からこんな金を!」
「こういう怖がらせ方もありますのね。勉強になりましたわ」
「勉強しなくていい! ……因みにな、因みにこういう宣戦布告みたいなのって、お化け的にはどうなんだ?」」
「と言われましても、ハシキが特殊なだけで私は友人の多い方ではございませんからねぇ。それに何より、これは所謂害虫駆除と同類でございましょう? 友人様は家屋の害虫を殺すのに心情を慮るタイプでして?」
そういう感情をお化け側から伝えるのはありなのか、と疑問に思う。自分が最強で全く殺される心配がないという自信の表れなのか、仮にも同類に対してあまりにも他人事すぎる態度だ。
「だけどカゴメ。お前、自分は幽霊だと常日頃言って来ただろ。金に目が眩んだ同級生がお前を殺しに来たり」
「この国はそこまで治安が悪いのですか? 仮にも私はクラスメイトですわよ、友人様は生活圏の近しい人間様が、これっぽっちの報酬でクラスメイトを殺すと仰りますの?」
「…………」
俺はその善良なクラスメイトに殺されたらしい、という反論はナシだろうか。祓女に何かあっても困るし、沈黙した方が良いだろう。彼女に協力すること自体が裏切りだというなら、たとえカゴメが気にしていないとしてもわざわざ目の前で表明する度胸はない。怒りのままに殺されるならまだマシであり、悲しまれる方が俺にとっては辛い。
記憶の中の本物はカゴメしか居ないのだ。俺にとって信じられるものなんてもう俺にも良く分からない。ただ、”本物”を蔑ろにするのは良くないと思っているだけ。それなら最初から祓女の味方なんてしなければいいのだが……まあ、この話はもういい筈だ。キリがない。
「うおおおおおおお! 高額バイトだああああああああ!!!」
カゴメに造られたらしいクラスメイト達も間もなくこの条件を知り、乗り気になっていた。カノウケイタなんてその最たる者で、元々軽くおだてるだけでもその気になって派手に失敗するところまでワンセットな男なのに、報奨金が出ているならそのやる気はもはや上限知らず。机の上に立って大騒ぎして丁度授業の為にやってきた教科担任に怒られた。
だが授業中でもクラスメイトは興奮冷めやらぬ様子で新聞部の提示した報酬と実行の是非について話し合っている。
「お前等! その話は授業が終わってからにしろ!」
「でも先生! 十万っすよ十万! お化け一体倒すだけで十万! やるしかないっしょ!」
「知ってんだよんな事はぁ! はぁ、どのクラスも同じ話題でもちきりなんだからさ、てめえら全員赤点にしてやるぞ?」
先生の脅しは流石に通じたのだろう、声は小さくなった。なっただけでやめたとは一言も言っていない。アナログだがメモ帳の紙を伝言板代わりにクラスの皆で話している。個人的には乗り気になっている皆より、カゴメがどうしてそう落ち着いていられるのかが分からなくて不気味だったり。
「……えっ」
メモ帳をみて、思わず声を上げてしまう。
『カゴメちゃんも俺達と一緒にお化け倒さね?』
『まあ、楽しそうですわね! 友人様もご一緒ならばよろしくてよっ!』
『っしゃあ! 決まり!』
『私も行く!』
勝手に参加を決められたのだ、驚くだろう。
まあでも、好都合ではある。カゴメの作り直したクラスメイトが本当に心霊被害を受けないのかどうかを間近で確かめられるのだから。
「あれは勿論、私のお金です」
放課後、作戦会議という名の集まりにカゴメが連れ攫われたのを確認してから俺は直ぐに新聞部へと向かった。仮にも新聞部なら中身を聞く権利くらいあるだろう。断ってくるようなら幽霊部員だからこそ幽霊に関する話なら聞かせろという屁理屈をこねくり回すつもりだった。
結果的にその備えは杞憂に終わったのだが、返ってきた答えは予想外の角度から入ってきた。
「まさかうちの新入部員が国家元首の娘だとはな!」
「いや、総理大臣だから国一番の金持ちなんて事はないでしょ」
「部長さん、まず私は総理大臣の娘ではありません。これらは全て我が師が遺してくれたこれまでの報酬……現人神介以外の霊能力者は霊障の事案に対応出来ませんから、依頼が集中したのです」
「……一応聞くけど、セーフなのか? お金は払えるかもしれないが、法的に」
「そちらは既に確認済みです。政府および警察からは心霊現象の解決に関する事ならば一切を黙認するとのお返事をいただきました。ですから問題ありません。税金の問題だけはまた別ですが───」
「ほう
「報酬に一々税金の話をするなんて野暮だろう? 検証したいのは我々への危害はキミの生活を脅かす行為に該当するのかどうかで、それ次第でカゴメちゃんへの対応も変わるのだから、税金の話なんてのは大して重要じゃない、そうだろ? それよりも幽霊部員、気にするべきは作戦会議の行方ではないか? こちらからも部員を一人紛れ込ませているが、情報源は複数ある方がいいからな! 警察に事件を通報する際、誰か一人がその役割に徹するよりも複数人からの通報の方がいいというだろう? 同じだ」
「放課後すぐに向かえる心霊現象想定地に心当たりがあります。今すぐ向かっても会議は終わっているでしょうから、この時点で向かった方が」
「いや、その点は心配ないよ。カゴメは俺が同行する前提でついていくと言ったんだ、多分その内迎えに来る。それより祓女には出来る限りの心霊メモを書いてもらいたいな」
「はい?」
「対処法とか、特性とかそういうのだ。お化けの討伐は……出来るに越した事はないだろ。人手が足りないんだから」




