えろげ狂想曲 後編
夢の中で、私はゲームの主人公になっていた。
何処の街ともわからない場所で、同級生の誰かとデートしている。
「そういえば、あなたの誕生日っていつだっけ?」
「6月10日だよ」
彼が答えた瞬間、何処からか士郎叔父さんが現れた。
「俺の誕生日は、6月10日だぜ」
さらに、健太くんも出てくる。
「雲子さん、俺も6月10日です」
「いっしょだねぇ」「いっしょですね」
「同じ日だ わしょ~い」
彼ら3人がいきなり腕組みをして走り回る。
「え、ちょっと、ちょっと待って、デートは?」
少しあっけにとられた私は、我に返ると慌てて彼らを追いかけていく。
■
やけにハッキリとした夢を見た。
「変な夢……。
あんたら、歳の差があるでしょうに……」
思い返せば、ヒロインたちにも年齢差がある。
慌てて、生年月日も含めて整理してみる。
1991年
5/31 『利原 あやめ』
1997年
8/31 『角南 香蓮』
1998年
12/31 『土江 にこ』
1999年
3/31 『クラス=ウェッジウッド』
2000年
10/31 『杖村 ほむら』
こうやってみると、年も日付も全く被っていない。
新キャラも「同級生」と明言されている以上、主人公と歳が違う事は無いのが自然なので、
1998年度の出生だろう。
だが誕生日を限定する方法が無くなってしまった。
今までは、「使われているから」という理由で探してきたが、実際は
1998年度で使用されているのは、12/31と3/31だけ。
他の5つはフリーで残されている。
「はふ~、最初から考え直しだ」
目覚まし時計が鳴り始めた。
もう、朝食を作らなければならない時間だ。
台所に降りてみると、この時間に珍しく人影があった。
ケトルでお湯を沸かしているらしい。
SEをやっている片岡さんだ。
仕事が仕事だけあって、パソコン等の電子機器には詳しい。
「片岡さん、おはようございます、今日は早いですね」
「いや、ちょっと徹夜しちゃって……」
驚いて振り返った彼の眼は真っ赤だった。
「あらら、お仕事ですか?」
「いやぁ、ちょっとゲームにはまっちゃって。
ほら、今日は土曜で休みだし」
彼は頭をかきながら笑う。
そういえば、今日は普通に勤めている人はお休みだった。
『探偵事務所』といった普通じゃない職業は不定休。
「曜日、ですか……」
朝食の用意と片づけを済ませた後、急いで部屋に戻り、纏めた一覧に曜日を追加してみる。
1991年
5/31 (金)『利原 あやめ』
1997年
8/31 (日)『角南 香蓮』
1998年
12/31 (木)『土江 にこ』
1999年
3/31 (水)『クラス=ウェッジウッド』
2000年
10/31 (火)『杖村 ほむら』
見事に曜日がダブっていない。
「月曜日と土曜日を探すぞ」
1998年度かつ31日の曜日を確認していく。
1998年
5/31 日
7/31 金
8/31 月
10/31 土
12/31 木
1999年
1/31 日
3/31 水
1998年にあった月曜日は8/31だけ。
一方、土曜日も10/31に限定される。
1年間に発生する「31日」は7回で、曜日と同じ数だ。
うるう年を考えない場合、5/31と同じ曜日が2回、2日後相当の曜日は絶対に無く、
それ以外の曜日が1回ずつ発生する。
「これだ。キャラクタ7人全員に曜日が割り振られている」
1991年
5/31 (金)『利原 あやめ』
1997年
8/31 (日)『角南 香蓮』
1998年
8/31 (月)『???』
10/31 (土)『???』
12/31 (木)『土江 にこ』
1999年
3/31 (水)『クラス=ウェッジウッド』
2000年
10/31 (火)『杖村 ほむら』
毎月の歌から見ていくと、8月は「かれん」が既に使われているので、
残りは「満月」、同様に10月は「秋」
「満月は『みつき』かな、秋は人名だと『みのり』だね」
女の子命名サイトで確認してみると、どマイナーな名前では無い。
「みつきちゃんと、みのりちゃん まぁセーフかな」
ここまで来ると、苗字も導き出せそうな気がする。
「りはら」のキャラクターソングは"Here A Reflesh Area"
「HARA?RIが何処からか来るな。
あるとすれば、金曜のFRIか」
FRI "Here A Reflesh Area" りはら
SUN "A Missing In girl" すなみ
TUE "Music Under Rainy Afternoon" つえむら
Wed "Golden WOOD" ウェッジウッド
THU "Take It Easy" つちえ
追加されたキャラクターソングは2曲。
MON "Oh my BabE!!" ものべ
SAT "O(織姫) U(歌う)" さとう
の組み合わせかその逆(ものう&さとべ)
「さすがに、ものう という苗字は無いよね?」
一応調べてみたところ、何と「最能」「桃生」があり、推定で100人程度いるらしい。
一方、さとべの方は、最初に見つけた苗字サイトでは存在しなかった。
「まぁ、天邪鬼な事しない限り、ほぼ物部&佐藤で確定だよね」
1991年
5/31 (金)『利原 あやめ』
1997年
8/31 (日)『角南 香蓮』
1998年
8/31 (月)『物部 満月』
10/31 (土)『佐藤 秋』
12/31 (木)『土江 にこ』
1999年
3/31 (水)『クラス=ウェッジウッド』
2000年
10/31 (火)『杖村 ほむら』
「ふぅ、こんなところかな。あと解る事は無いか」
曜日で調べて行くと、金曜日は「金星の日」という意味を持つことが解った。
金星というのは、美と愛の女神ヴィーナス。
ヒロインの中で、最もセクシーな利原あやめが対応する。
次に来る角南香蓮の日曜は、太陽の日。
こっちも神様で考えると、芸術の神アポロン。
「あ~、これ神様繋がりしてるかな」
火曜はマルス。戦争の神。
水曜はマーキュリー、商業と好奇心を司る。
木曜は主神のジュピター。
メインヒロインにはぴったりと言おうか。
で、問題の月曜はルーナ、魔術の神。
きっと、満月ちゃんは、占いや魔法といった、
超常現象に傾倒した不思議ちゃんとして描かれるのだろう。
土曜はサートゥルヌス。農耕神。厳格な時の神でもある。
農耕神だけに、「秋」そのもの。
彼女は、厳格な生徒会長タイプにでもなるのかしら。
「超常現象の満月ちゃんと、農耕神の秋ちゃんね……。
こりゃ、もう確定だわ」
登録サイトに『物部 満月』『佐藤 秋』の名前を登録。
ふと、時計を見ると、最早11時半になっていた。
「おっとと、お昼ごはん~」
あわてて階下に降りる。
すると、さやかが首を長くして待っていた。
「雲子~、お昼ごはん~」
「はいはい、今日は暑いから素麺にします」
「やた~」
薬味にはミョウガときゅうりにネギと大葉。
梅干しを細かく潰したものも添える。
「俺も俺も~」「追加良いですか?」
どんどん人数が寄ってくる。
どうせ、素麺はゆで時間1分の便利食材。
買い置きはたくさんあるし、多少人数が増えたところで問題ない。
慌ただしい昼食が終わり、部屋に戻ってサイトを立ち上げる。
正解者のカウントが1増えて、4人になっていた。
■
ある有名ホテルのバーで、私はさやかとお酒を楽しんでいた。
「あ~極楽極楽」
「さやか、おっさんぽいよ」
「ただ酒ほど美味いもんはないよ~。
雲子になら、抱かれてもいい……」
そういいつつ、さやかが抱きついてくる。
「その気はナイ~~」
絡みつくさやかを押しのける。
正解後、私は叔父さんの所に走った。
彼のもとからシリアルコードを奪取し、追加投入するためだ。
自腹で1万800円も出して、えろげの、それも特別同梱版なんてものを買う気にはなれない。
事務所についてドアを開けると、叔父さんが待ち構えていた。
「おぉ、雲子!お前が持ってったシリアルコード、返してくれないか?」
「へ?」
「ふふふ、例のサイト、正解者がふえてただろ。
あれは、オレだ!」
叔父さんは、自信ありげに、親指をビシッと立て、自分を指し示す。
「え~と、叔父さん何て回答したの?」
「ちょっと待ってろよ」
そう言って、散らかっている中から、メモを取り出してくる。
「謎は、新キャラの事なんだよ。
だから、誕生日で使われていない、7/31と1/31を入れてみた。
それだけじゃ弱いと思ってな、皐月織姫という名前を入れたぞ。
何故皐月かって?それは7月7日は旧暦で皐月だからな。
あとは、それらの組み合わせで……」
(あ、これダメだ)
私は、茫然と叔父さんの推理を聞いていた。
「ね、ねぇ、叔父さん?これ、もしも当選しなかったらどうなるの?」
「まぁ、特に問題は無いな。
例の特別同梱版、真田のぼっちゃんは限定フィギュア目当てで買ったらしいから、
半額で買い取ってくれればいい って言ってたし」
「いや、叔父さん、半額って、5万4千円だよ!?」
「だってもう当たってるから平気さ、雲子。
これでボーナスくらいだしてやれるさ~」
(いや、ダメだろ……)
叔父の目は真っ赤にはれあがり、眼の下には隈が出来ている。
やってる事がえろげではあるが、さすがに叔父さんは叔父さんなりに頑張ったんだろう。
(ふぅ、ボーナスくらい、出してあげますか)
時は流れて、正解発表の日。
結果として、4人の後に正解者は現れず。
規定数に満たなかったチケットは、厳正な抽選の元、幸運な回答者の元へと発送されたそうだ。
もちろん、私の元へは「正解者様」としてチケットが配布された。
「ふふふ、雲子。試合には負けたが、勝負には勝ったぞ」
叔父の手には「幸運な回答者様」と書かれた封筒が握られていた。
こういう時に悪運の強い叔父は、見事抽選に当たったのであった。
「雲子~。ボーナスだ」
そう言って、叔父さんは五万円が入った封筒を私にくれた。
「さ~て、叔父さんはスーパー銭湯でフルコース満喫してくるかな~」
「ごゆっくり~」
■
一方、私は獲得したチケットをヤフオクに投入。
最終落札価格は35万円となった。
私は「有名ホテルに泊まる、1泊2日プラチナエステ体験 10万円」
に、さやかと一緒に参加。
一日目が終わり、磨き上げられたすべすべボディが輝いている。
「で、教えて教えて。どうやって、ひと山当てたの~??」
「あのね~実はね~~」
カクテルを傾けながら、長い夜が更けてゆく。
次回 壊れた鍵