鍛造師の女と協力関係を結ぶ
長いこと大当たりを引き当てる探索者が出なかった究極のぼったくりマシン、第一弾プレミアムガチャ。実装当初は探索者が多く集い大盛況だったが、あまりのギャンブル性の高さによって、数多くの依存症患者を作り出してしまった。第二弾を迎えることはない……そうダンジョンシーカー達は皆、口を揃えて言う。
結果的に長い期間放置され続け、埃を被っているだけの聖光神剣エクスカリバーは、ただの伝説となって人々の記憶から忘れ去られていった。
がしかし、その牙城がついに崩されてしまった。純粋に0.002%を引いたのではなく、物理的に機械を叩き壊して中身を取り出したのだ。ガチャのハズレ枠とされていたブラストナックルによって無様にも破砕されてしまうとは、何とも皮肉なもんだ。
謎のアイアンヘルムを被った男の情報は、瞬く間に日本各地を駆け巡っていた。華々しくも、ヤプーニュースの見出しのトップを飾っている。
そんな速報をスマホで確認した俺は、とある人物の家に逃げ込んでいた。
「で、犯罪者。なんだってウチの工房に来たんだよ。その神剣だかエクスカリバーだかって胡散臭い装備品でも握ってさぁ、近くのダンジョンの一つや二つ攻略しに行けばいいんじゃない?!」
「まぁまぁそう堅いこと言わず。俺たち、抽選狂いの仲間として長い付き合いだろ?」
「一緒にすんなし。てか長くないし、たった一年ちょっとの話しだし! ウチはアンタと違ってギャンブルから足を洗ったんだ。何でわざわざガチャ結果にムカついてガチャマシーンぶち壊した奴とつるまなきゃならない。さぁ帰った帰った」
「いいから、とりあえずこれ見てみろ。あのヤプーニュースがついに俺を取り上げたんだぜ! コメント欄だって俺のことで持ち切り、今や有名人なんだぞ!」
「アンタの調子に乗る性格、以前とちっとも変わってないわね。てかこの撮られた動画、顔面隠して暴れ回るただの変態にしか見えないんですが?!」
「仕方ないだろ。ガチャの中身に碌な装備がなかったんだからよ!」
このキャンキャンうるさくて口の悪い女は、鶴城麻衣子。俺と同い年の二十三歳独身で、かつてパチンコ店に朝から並んで夜まで打ち散らかす日々をしばらくの間一緒に送っていたニート仲間だ。年齢にしては子供っぽくて貧相な身体つきをしてはいるが、俺と違って脳みそのレベルは高め。服装と金髪で何とか幼児体型を誤魔化そうとしている……そんな女だ。
「いいか麻衣子。こっから始まるんだよ、俺の人生の逆転劇がな! だけど一人じゃダンジョン探索者の頂は目指せない――――そこでだ。久しぶりに俺と手を組まないか?」
「だーかーらー、何でウチが犯罪者と手を組まないといけないんですかぁ。ウチにメリットはあるんですかぁ??」
「んじゃ、見せてやるよ。その胡散臭いってお前が言う本物のエクスカリバーをよ!」
「相変わらず都市伝説好きよね。単発で千円もかかるガチャに最強武器なんて入ってるわけないじゃない。どうせレプリカ、パチ物よ!」
「俺だってぶっちゃけ半信半疑なんだよ。だからこそ、都内でも一二を争う鍛造師のお前に、本物かどうか鑑定してもらうためにここまで来たんだ」
見た目は光り輝く神剣でしかないが、まだ性能を試してはいない。万が一にもただのガラクタだった場合、ダンジョン内でモンスターにボコられて終わる可能性が高いからな。
「ウチはこう見えても熟練の鍛造師だ。その神剣が本物かどうかは一目で判断がつく。アンタみたいな運の悪い奴が、最高ランクの武器を手に入れられるはずがないわけよ」
麻衣子の家系は先祖代々装備の鍛造を得意とする一族だ。ダンジョンがこの世に出現してから現在に至るまで、卓越した技術を受け継いできた。多少寄り道をしてしまったが、麻衣子も決して例外ではない。
「強がっていられるのも今の内だ。見たら腰抜かすかもしれないぞ?!」
「まぁ期待はしてないけど、さっさと品を見せなさいよ」
麻衣子はレア度の高い装備品に目がない女だ。部屋のあちこちにSSR装備を観賞用に展示しているのが何よりの証拠だ。
俺はアイテムポーチの中から神剣を取り出した。
「わ、わ……嘘……でしょ?!」
「な、本物だろ?」
麻衣子が神剣を凝視、この武器が紛れもない本物だと悟った目をしている。
「ちょっと触らせてよ」
おもむろに手を伸ばしにかかる。
「ダメだな。お前が最強のダンジョンシーカーとなる俺に協力することが絶対条件。この剣を本当の意味で使いこなすには、麻衣子の力が必要なんだ!」
「ウ、ウチに共犯になれと?」
「それは少し違うな。迷宮協会が建造したプレミアムガチャは超いわく付きのガチャだ。あのぼったくりマシーンを壊した俺を、世論は絶対に責めない。奴は金を吸い取る悪魔だ。奴の被害に遭った人間は数知れず……ダンジョン内に潜むモンスターより、よっぽどモンスターらしいと思わないか?」
「言われてみれば、コメント欄の大半が"ざまぁ"みたいな書き込みで溢れてるし、さすがの迷宮協会も大きくは出れないかもしれないわね」
「俺と協力関係を結ぶことは、メリットしかないと思うが?」
「はぁ。もう……分かったわよ! たっ君に協力すればいいんでしょ?!」
「分かればよろしい。これからは、ダンジョンで得た戦利品の半分を麻衣子にやろう!」
「で、ウチは何をすればいいの?」
「まずは聖光神剣エクスカリバーの状態をみてもらいたい。ガチャマシーンの中で何十年も眠りに着いていたわけだし、埃も被ってたからな」
「分かったわ。じゃあ早速だけど、詳しく調べさせてもらうわね」
とても嬉しそうだ。神剣をガン見しながら独り言を呟いている。男<<<<<武器で、重度の武器オタだから仕方ないか。
「うーん、刀身部分がウチですら見たこともない未知の金属物質で構成されてるのよね。しかも、多量の魔力が込められていて、常に光属性の魔力を発散し続けているから、素手で直接持ち続けるのはおすすめできないわ」
「どうりでブラストナックルが焼け焦げたわけだ」
「この武器を振り回すには専用の手袋が必要よ。でなければ、たちまち手が灰になってしまうわね」
「困ったな……これじゃ神剣を握れないじゃんか。せっかく手に入ったのに宝の持ち腐れじゃ意味ないだろ」
悩みあぐねていたその時、迷宮協会から一通のメールが届いた。
【期間限定プレミアムガチャ第二弾!】
『今回のピックアップは――――耐熱性能に優れた超希少な装備品、炎龍拳フレアグローブだ! ガチャを回して究極の拳武器をゲットしよう!』
まるで見ていたと言わんばかりのタイミングで、運営からの挑戦状が届いた。さて、次はどんなぼったくりガチャが待ち構えているのか、気が気じゃない。




