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替え玉お嬢様は魔法がつかえない  作者: 永杜光理
三章 替え玉と偽物
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第18話 仲良くなるのは難しい

 バルタザールから事前に説明を受けていた摩李沙は、実習は雪合戦に似ていると感じていた。


 生徒はまず、赤と青の陣地に分かれる。陣地の最奥にそれぞれ、女王とその側近が配置される。


 魔法学校の校舎の隣には、サッカーコートの三倍以上はありそうな演習場が設けられている。以前は王族領だったが、学校のために民間へと下賜かしされたそうだ。


 演習場には、身を隠せる一メートル程の高さの壁がいくつも作られていた。それに身を隠しながら敵地へせまり、女王のティアラを奪うかもしくは相手の数を半減させれば勝利、というのがルールだ。


 ただし、守らなければならない制約がいくつかある。

 実習のたびに制約は変更されるそうだが、今回の場合、一人の生徒が同一人物を魔法で攻撃できるのは二度まで。及び、空を飛ぶ魔法は使用禁止。


 こういったルールを破ったり、もしくは攻撃を合計で五度受けた場合、生徒の頭に乗っているボールが割れて色水があふれ、その時点で生徒は実習を離脱する、という仕組みだ。


「ちなみにこのボールを直接攻撃すれば、一発で割れて退場になるんだ」


 革ひもでボールを固定し、顎の下で結びながらバルタザールが言う。すでに演習場に到着した二人の周囲には数名の生徒がいるため、小声でのやりとりだ。

 なお、本人の不注意でボールが地面に落ちて割れるようなことがあっても、そこで脱落なのだという。


「ということは、私が間違ってボールを落としちゃったら」

「実習はそこで終わりだよ。さすがに女王の不注意で負けるのは聞いたことがないから、気をつけたほうがいい」


 エミリアが憤怒する光景を思い描き、頭の上のボールが固定されているか、念入りにさわって確認する。


「そろそろだぞ、バルタザール」


 近づいてきたのは側近役の一人であるリックだ。彼はバルタザールとは気安い仲だ。だが摩李沙は、彼とは今日までついぞ会話をしたことがない。


 リックは平民出身のうえに、魔法使いの家系ではないと聞いた。そのため貴族のエミリアには一歩引いた態度で接しているのだな、と摩李沙は考えていた。

 しかしバルタザールから、リックがよくつるんでいるクラウスも貴族階級なのだと聞いた時には、単にエミリアを避けているだけなのだという結論に至った。


「よろしくね、リック」


 極力やわらかく声をかけてみるが、相手は鞭で打たれたかのように背をぴんと伸ばす。


「はぁい! 全力を尽くします!」


 裏返った大声に、摩李沙の方が驚いた。身分の違いをそこまで意識しないといけないものなのか、と不思議に思う。


「お前は大げさなんだよ。エミリアはそんなこと気にする奴じゃないのに」

「いや、そう言うけどさ」


 摩李沙の視線を感じたのか、再びリックは背を伸ばし、直立不動の門番のようになってしまった。


(どうしよう。多少は貴族令嬢っぽいこと言った方がいいのかな)


 だが今の摩李沙が思いつく言葉は、これくらいだ。


「まだ体調がすぐれないから迷惑をかけるかもしれないけど、今日は一緒に頑張ろうね」


 そして相手の緊張をとかすために笑みをつけ加えてみたのだが、リックはなぜか顔を青くし、バルタザールの後ろに隠れた。


「どうした?」

「……お前の仕えるお嬢様、こんな優しい子だったのか? いっつも切れ味抜群の怖いこと言ってる印象しかないんだけど」


(聞こえてるよ、リック)


 バルタザールは真顔になってしまう。摩李沙の方を見ようともしない。

 重ねて何か言おうかと悩んでいると、演習場に声が響き渡った。


「みなさーん! あと少しで開始します。準備はいいですかー?」


 拡声の魔法というものがあるのか、キールの声が良く通った。レグルスは小犬の姿のまま、彼の足元をうろついている。


 キールの他にも、トアンや数名の教師が演習場のあちこちに散らばっていた。判定をするためだろう。またそれぞれの女王の近くの観覧席には、魔法省の職員数名が腰かけている。青の女王である摩李沙の近くには、当然のようにアレンダの姿があった。


 目が合ったアレンダは、笑顔のままヒラヒラと手を振ってくる。


(私は魔法使いじゃないのに。どこか呑気だよね、アレンダさんって)


 まだエミリアに繋がる手掛かりが見つかっていないだろうに、のんびりと仕事をしていてもいいのだろうか。


 あるいは摩李沙やバルタザールに知らせてないだけで、何かをつかんでいるのだろうか。


 物思いにふけりそうになった時、どこからともなく開始の鐘が鳴り響いた。

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