1-31 黒い竜の話
竜種なんて初めて見た……。
「行くぞ! 中庭だ」
「ええ、この高さですから全長は……大体、9メートルです」
だけど、体長はもっとかもしれない。あの竜種……多分、屈んでた。
わたしは分身に後方支援へ徹することを指示してルス団長を追いかけて走る。
本当なら窓から飛び出した方が早いけど、お城を攻撃されたら困るからね。
「先に行く。貴方は後方から頼む」
「分かりました」
身体強化で光のごとく消えていくルス団長は、長い廊下の先で見えなくなる。多分、長い廊下から外へ出たに違いない。
「予想どおりのサイズならルス団長1人で事足りる。だけど、あの竜種……黒竜にしては鱗が」
黒竜の特徴は鱗が大きいことだ。
わたしはルス団長を追いかけて外へ飛びだす。すぐに飛行魔法を使用して上空から全体を把握した。
「うはっ……思ったよりも大きい」
中庭を壊すほどの巨体が収まっている。どうやって現れたのか、今のところ情報はない。
木々が倒されていないし、地面はある。
「あっ……ルス団長」
ルス団長が氷をまとわせた剣で黒竜の瞳を切りつけた。竜の大きな呻き声が鼓膜を震わせる。
「うるさっ……だけど、どうしてお城に入れたの……わたしが防護壁で守ってたはずなのに」
お城はこの国の要だ。
魔物対策もしていたのに、おかしい。
「黒竜はルス団長たちに任せてわたしは――」
自分の掛けた魔法がどうなったのかを確認する。分析は少しだけ時間がかかる。
その間、騎士団員たちも加わって、魔導士団員が魔法でお城を守っていた。
「待って。わたしの魔法、解けてない。干渉された形跡もない……」
わたしの防護壁に反応しないのは野生動物や人間くらいだけど……。
あとは、なんだ?
――まさか、〝魔物認定〟されてない?
「つまり……人口魔物⁉」
「うわぁぁぁ‼」
「お前達、それに触るんじゃないぞ」
下を向くと、竜の体で見えなかった黒い泥みたいなものが見えた。
「あれは……あのときの穢れた黒い土! 泥みたい……」
しかも、なんか……少しずつシミみたいに広がってる。
魔導士団員も反応が鈍い!
『皆さん、黒竜が僅かに見えるほどまで距離を取ってください』
「ファクティス団長!」
アンクは声を張るタイプじゃないからね!
念話って便利魔法を使うに限る!
今日はラウム副団長がいない日だったからね……。
もしも、あの人口魔石による魔物なら……あの足跡は、やっぱりこの竜だったってこと?
『シャルール団長。私が黒い泥をどうにかしますので、竜の首を落として下さい』
『――分かった。この竜は、ユウェール団員の見つけた足跡だな』
『はい。穢れには充分お気をつけて下さい』
あの黒いのは明らかに穢れそのものだ。しかも、あの竜は何もしなくてもあと数時間で自滅する。
上空から魔導士団員に指示を出しながら、わたしもルス団長の援護に動いた。
「大丈夫だよね? それにしても、あんな大きい魔物まで生まれるなんて……」
それに……。
人工魔石を作ったオブセス最高責任者はどこ?
あっ……。ルス団長の剣が竜の首を綺麗に落とした。
「よしよし……。血も浴びてないね」
水ならぬ血も滴るいい男……なんて、邪心は振り払って。
思ったとおり、血も赤くなくて黒っぽい……。炭色だ。
「やったー!」
「さすが、シャルール団長!」
みんなも良くやったよ。それにしても、なんで急に……。
「待て。様子がおかしい」
「えっ?」
首をはねた竜の体が揺れてる?
心臓がドクドク打ち付けてるみたいな――。
「あっ……」
噴き出した黒い血が、固まって……首が2つになった⁉
「そんなの聞いてないよ……!」
思わず叫んだ声は竜の雄叫びでかき消される。
「ひっ……うわぁぁ!」
「あっ……待って」
今、動いたら魔物の本能を刺激して狙われる!
わたしが指示を出すより早く逃げ腰の魔導士団員数名が城内へ駆けていった。その直後、竜の尻尾が大きく振るわれる。
「――防護壁!」
間一髪、わたしより近くにいた分身へ指示を出した。だけど、双子魔法じゃあと1回しか防げない!
「おい、お前の相手は俺だ!」
ルス団長の刃が竜に触れる。だけど、鱗からありえない金属音をさせて跳ね返された⁉
「さっきより硬くなってる……?」
あっ……まずい。
2回目の防護壁が破壊された。
「クソっ!」
わたしが仕留めるしかない。
竜の咆哮が双子魔法で構成されたアンリへ向けられる。わたしが魔法を唱えると同時に、なぜか暖かい温もりを感じた……。
「へっ……?」
竜の腹部へ巨大な風穴を開け、中から出てきた赤い魔石が粉々に砕ける。
風穴を通して見えたのは分身のわたしを守るように強く抱きしめるルス団長の男らしい背中だった――。
やっぱり飛行魔法は便利で良いですよね。私も子供の頃は空を飛ぶ夢を数回見ましたが、なぜかリアルで飛ぶのは簡単じゃなかったです。夢なんだから、ふわっとで良いのに…。




