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興味、好奇心 ―Side アンドリュー―

エルナーニ王国、第一王子。生まれた時から僕はその立場で育ってきた。幼い頃から厳しく皇太子教育を受けさせられ、人より自由は少なかったが不満はなく、自分の与えられたものに満足していた。



そんな僕には婚約者がいた。

公爵家のご令嬢、セリーヌ・ランヴァート。酷く高飛車で、我儘で手のつけられない令嬢だと聞いている。僕に対してはしおらしくしているが、僕以外にはそのあたりや態度はかなり酷いものだと、友人のライアンにも聞く。


彼女はいつも僕に付き纏ってきた。わかりやすい明らかな好意は少々いきすぎていて、見た目こそ可愛らしいが、顔を合わす時はうんざりとする。第一婚約も、彼女が願ったことだという。まあ彼女が頼まなくとも、遅かれ早かれ身分的にも彼女が僕の婚約者に選ばれていたのだろうが。

そのセリーヌ嬢が怪我をして寝込んでいると聞いて、見舞いに行けと国王である父上に言われた時はとても憂鬱だった。しかし近々ある婚約者披露目の夜会についての話で顔を合わせなくてはならなかったので、僕は渋々、その言葉に従ってランヴァート家へ訪問した。



「アンドリュー殿下、私の不注意での事故でしたのに、わざわざお見舞いにご足労頂きありがとうございます」

「頭を上げて。そんなにかしこまらなくていいよ」


久しぶりに会った婚約者は、随分と仰々しく、他人行儀に頭を下げてきた。その姿に少し拍子抜けした。


「思ったよりも元気そうで安心したよ」

「ええ、ただ少し頭を打って眠っていただけで両親が大袈裟でして……」


いつも向けるようなあの熱っぽい視線もない。それどころかどこかそわそわと気まずそうで落ち着かないように視線を泳がすセリーヌ嬢。


それから何故か侍女を部屋から出し、先程は雰囲気を変え、真っ直ぐとお願いがあると言われて、僕も姿勢を正し直す。


「婚約を、取り消してほしいのです」


その言葉に驚き、一瞬表情を崩してしまう。同時に部屋の隅に控えている騎士からも彼女の発言に動揺を感じた。

何故、彼女はこんな事を切り出したのだろうか。それどころか彼女はこうも言い出した。


「私なんかでは、到底皇太子妃なんて務まりません。国の母になるなんて以ての外」

「そう思うきっかけは何だったのかな?」


彼女に問いかける。すると彼女は真っ直ぐ見つめて、はっきりと言う。


「改心したのです。今までのわがままで横暴な態度がどれだけ周りに迷惑をかけていたか。このままではいけないと。殿下との婚約も、私の我儘で取り決められたようなもの。あの頃の私は実に浅はかで、殿下にもこれまでご迷惑をおかけしました。ですから、」

「婚約は継続するよ」


そう言うと、彼女は……――え、と信じられないような顔をして固まった。完全に予期してなかった顔だ。こちらとしても彼女の願いは予想外の提案だったのだが。

それどころか彼女は「これから何が起こるかわからない」、「殿下に他に本当に愛する人ができた時は、私喜んで身を引くから、その時はどうか仰ってくれ」なんて言い出すものだから、僕はどれも真っ向から否定してやった。その上、「これからはお互いが知れるように、もっと僕からも歩み寄っていきたい。公爵邸にも月に一度は足を運べるようにするよ」と誰もが揃って頬を染めるような、これまでした中で一番にっこりと笑みを向けると、彼女は思いっきり顔を引きつらす。


面白い。思わず心から綻びそうになる。

彼女に興味が湧いた。あれ程好意を見せていたのに、突然婚約を取り消してほしいなんて言い出したのは何故なのか。理由が気になった。それを知るまでは、婚約を続けていてもいいだろう。それに今すぐ白紙に戻すとなると、すぐ直近にある我々の婚約披露目の夜会の事もあって少々面倒だ。


状況についていけてないような顔の彼女を見て、僕は少し楽しさを感じていた。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


それから僕は宣言通り、彼女の元へ通った。


接していくうちにすぐ気づいたが、彼女は僕が思っていた姿とは変わっていた。使用人に横暴な姿も見せないし、礼儀もきちんとしている。なんてことない、普通のご令嬢だった。

そして、僕への態度もまるっきりこれまでと違かった。隠すつもりもなかった好意は、今はその影も見せない。むしろどこか怯えるような、一歩引くような、いっそ関わりたくないといったような感じ。


この容姿のおかげでこれまで好意を寄せられた事しかなかった。そして王子として、皆に好かれるように、感情はできるだけ隠しているように躾けられたので、絶やさないこの笑みに、好印象しか受けられなかった。しかし彼女にこの笑みを向けても強張らせてしまうだけで、むしろ逆効果だった。


最初は月に一度くらいと言っていた訪問も、結局週一近くになった。出迎えてくれた彼女に案内され、いつものようにソファーへ座り込み、話し始める。この間話して決めたドレスに合わせる靴やアクセサリーについて話すと、彼女は慌てたように恐縮する。


「殿下、そんなに気を遣ってくださらなくて大丈夫ですよ」

「そんな事はいけない。夜会の日はセリーヌの誕生日だろう? せっかくの特別な10歳の記念に、僕がプレゼントしてあげたいんだ。当日はお披露目の方がメインで、きちんと祝ってあげられないだろうから……」

「いいんですよ。誕生日はまた後日に家で行う予定ですので」

「そしたらまたその時に一緒に祝わせてくれないか? 僕も君の誕生日を祝いたい」


そこでしっかりと次の約束を決める。こちらから取り付けないと、彼女は自分からは絶対に動かない。こうして通っているが、一向に互いの距離は埋まらないままだ。やはり彼女は何か一線を引いているようだった。何故だろうか。そう考え始めると、彼女に不思議な気持ちを抱く。

そしてこんなにも靡かない娘も初めてだった。自信過剰で傲慢にも思える事だが、僕は驚いていた。また元の彼女に戻っても嫌だが、これは予想外だ。


そんなことを思いながら、どこか心ここにあらずな彼女に柔らかく話しかける。


「セリーヌは妃教育もずっと頑張ってくれているようだね」

「ええ……まあ、はい……」

「嬉しいよ」


にこりと笑うと、彼女の顔はぎこちなく笑った。相変わらずの反応だ。


「――姉様、そろそろ先生が来る時間だよ」


扉から現れた義弟の姿を見て、彼女は少しほっとしたような顔をした。


出た。またか

最近、本題の話が終わって雑談に入ると彼女の義弟が現れる。それこそタイミングを図ったように遮ってくるのだ。おそらく向こうは確信犯。それをわかっていながら、僕は席を立つ。何故僕を避けたがるのか興味はあるが、彼女を困らせるつもりはない。意図通り去ってやる。

いずれにせよもうすぐ披露会なのだ。そうすれば公式に彼女は僕の婚約者として認められる。それからでも知る時間はたっぷりある。僕の出席するパーティーはパートナーとして出席する事となるし。これからゆっくり時間を重ねていけばいい。


僕は彼女に寄り添うように佇む義弟にチラリと視線を移してから、彼女に笑いかけまた会いに来るねと言ってランヴァート家を出たのだった。

次回もアンドリュー王子視点が続きます。

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