第一話
板を二枚重ねた戸の隙間から、外の声が入ってきた。
床には薄い布が敷いてあった。壁は板と煉瓦でできていた。屋根の端に穴があり、そこへ木箱の板が打ちつけてあった。壁際には空の瓶と欠けた皿が置いてあった。隅に、水の入った桶が一つあった。
毛布は三枚あった。
六人が寝ていた。
端の毛布が動いた。中から小さな頭が出た。
「チビ。起きろ」
チビは目を開けた。
隣の年長児が毛布を畳んでいた。向こうでは二人が靴を履いていた。もう一人は戸のそばで立ったままパンの端をかじっていた。壁際では、もう一人が上着の破れたところへ糸を通していた。
チビは起き上がった。上着を拾って腕を通した。片方の袖口がほつれていた。
桶のところへ行き、両手ですくった水を顔につけた。床へ垂れた水を足で避けた。
年長児の膝のあたりまでしかない。
「行くぞ」
チビは戸の外へついていった。
路地には木箱が積まれていた。店の裏口から桶を持った男が出てきた。水が石の間を流れた。軒の下では女が布を絞っていた。向かいの戸口に座った老人が靴底へ釘を打っていた。
年長児は市場のほうへ歩いた。チビはその横を歩いた。
路地の先には大きな通りがあり、その向こうに川が見えた。川には橋がかかっていた。橋の上を人と荷車が行き来していた。橋の向こうには屋根の高い建物がいくつか並んでいた。荷を積んだ荷車が橋からこちらへ進み、大きな通りへ入った。車輪が石を踏んで鳴った。別の荷車は空の箱を積み、橋のほうへ向かった。人が二人、その後ろを歩いていた。
大きな通りへ出る手前に、白い壁の建物があった。戸が開き、子どもを抱いた女が出てきた。中へ入る男とすれ違った。壁際には長椅子があり、一人が腰を下ろしていた。
年長児はその前を通り過ぎた。
市場では布の屋根が並んでいた。魚を切る音がした。籠が地面を擦った。肉を吊るした店の前を犬が歩いた。野菜の葉が箱の外へ落ちていた。
人が通るたび、チビは年長児の後ろへ寄った。荷車が来ると、年長児がチビの肩をつかんで脇へ引いた。車輪が二人の前を通った。
一軒の店の前で年長児が止まった。
店主が箱の中を見ていた。年長児を見ると、棚の下から紙袋を出した。
「遅えぞ」
「まだ残ってる?」
店主は紙袋を投げた。年長児が受け取った。
「昨日のだ。固いぞ」
「食える?」
「食えなくなったら捨てる」
チビが袋を覗いた。
店主はチビの額を指で押した。
「邪魔だ」
チビは一歩下がった。
店主は箱の底から小さな果物を一つ拾った。表面に傷があった。それも袋へ入れた。
「持ってけ」
年長児は袋の口を閉じた。
「じゃあな」
店主はもう箱を見ていた。潰れた葉を一枚つまみ、足元の籠へ入れた。空いた場所へ別の品を並べた。
隣の店から声が飛んだ。店主はそちらへ返事をした。
隣の店の男が台の向こうから顔を出した。手に籠を持っていた。
「橋向こう、朝から人が多いぞ」
「なんかあんのか」
「知らねえ。荷もまだ来ねえ」
店主は箱の中の葉を一枚どけた。
「昼には来るだろ」
「さあな。向こうじゃ荷車が詰まってた」
「なら、来たら呼べ」
男は籠を台の下へ置いた。隣の店から客に呼ばれ、そちらへ戻った。橋のほうから来た荷車が市場の入口で止まった。男が二人、荷台の縄をほどいた。店主は箱の底に残った葉を集め、空いたところへ別の品を並べた。
チビは台の下に転がっていた紐を靴先で動かした。
年長児が歩き出した。
帰り道で、チビは袋の中へ手を入れようとした。
年長児が手首をつかんだ。
「戻ってから」
「あい」
寝床へ戻ると、袋の中身を床に並べた。
固いパンが二つ。傷のある果物が一つ。端の乾いた焼き菓子が何枚か入っていた。
年長児がパンを割った。
大きい欠片を三つにした。残りをさらに割った。チビの前にも一つ置いた。
チビは両手で持って食べた。噛んでから水を一口飲んだ。また噛んだ。
果物は欠けた皿の上で薄く切られた。チビの分は一切れだった。皮まで食べた。
焼き菓子もなくなった。
チビは紙袋の中を見た。袋を逆さにした。細かい屑が床に落ちた。
「もうない?」
「ない」
「そっか」
チビは屑を指で集めた。口に入れた。紙袋を丸め、壁際の箱へ放った。
年長児の一人が外へ出た。チビも立った。
路地の先に子どもがいた。丸めた布を蹴っていた。
チビはそちらへ走った。
布が壁に当たって跳ねた。別の子が蹴り返した。チビも足を出した。空振りした。
「へた」
向こうの子が言った。
チビは返事をしなかった。転がってきた布を追った。両足で止めようとして、踏んだ。布が後ろへ抜けた。
子どもたちが走った。チビも走った。
次に来た布を追って、路地の角まで行った。
石に足が引っかかった。
両手を地面についた。膝も当たった。
「うわああ」
チビはその場に座った。
涙が頬を流れた。両手のひらを見た。砂がついていた。手のひら同士を擦った。
膝を見る。
皮が少し剥けていた。赤い血が一本、脛へ下りた。
少し離れたところから年長児が声を出した。
「血出てるか」
チビは鼻をすすった。
「でてる」
「舐めとけ」
チビは膝に顔を近づけた。舌を出した。届かなかった。
もう一度やった。
向こうで布が蹴られた。
チビは袖で鼻を拭いた。立ち上がった。
二、三歩、膝を曲げたまま歩いた。そこで止まった。もう一度歩いた。
布が足元へ来た。
チビは蹴った。
日が落ちる前に、年長児がチビを呼んだ。
寝床へ戻った。
戸が閉められた。床に布が敷かれた。三枚の毛布が広げられた。桶の水は朝より減っていた。欠けた皿は壁際へ戻されていた。
二人が一枚を使った。もう一枚に二人が入った。三枚目には年長児が一人で入った。
チビは壁際に横になった。腕を胸の前へ寄せた。
しばらくして、肩を丸めた。
「さむい」
「毛布もうねえよ。こっち来い」
「あい」
チビは体を起こした。
年長児の横へ移った。
毛布の端を持ち上げてもらい、その中へ入った。
膝を曲げた。
年長児も横になった。
チビはその脇へ寄った。
誰かが寝返りを打った。板の床が鳴った。チビは毛布の中で足を縮めた。




