番外編 そういうものなのでしょうか?
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
朝から監査局が妙に落ち着かない。
誰かが時計を見る。
誰かが窓を見る。
誰かが書類を落とす。
誰かがソワソワしている。
しかし。
当の本人。
アメリアだけが平常運転。
◇
「局長」
「はい」
「今日は何の日でしょう?」
「火曜日です」
全員脱力。
「合ってますが、違います」
「違うのですか?」
本気で分かっていない。
◇
そして仕事開始。
午前終了。
昼終了。
午後終了。
アメリアだけいつもと変わらない。
◇
夕方。
仕事終了。
監査局員達が妙にソワソワする。
アメリアは書類を片付ける。
そこへ。
扉が開く。
「皆様」
ミリアだった。
「行きましょう」
監査局員達が立ち上がる。
状況が飲み込めないアメリアだけだった。
「どこにでしょう?」
ミリアが微笑む。
「来ればわかります」
◇
移動。
監査局員達。
アメリア。
ミリア。
全員で歩く。
「どちらへ向かうのでしょう?」
質問する。
「秘密です」
「なるほど」
全然なるほどではない。
◇
ホールに到着。
舞踏会用ホール。
「ここは……」
扉が開く。
そこには。
公爵家の面々。
父。
母。
執事ハロルド。
庭師。
使用人達。
さらに。
「マリアさん?」
思わず驚く。
そして。
みんな笑っている。
アメリアだけ状況が分からない。
「これは何でしょう?」
全員。
「まだ分からないのか……」
公爵が前へ出る。
グラスを持ち上げる。
「それでは」
全員がグラスを取る。
アメリアも渡される。
「アメリアの誕生日を祝って」
一瞬の静寂。
「乾杯!」
「かんぱーい!」
ホール中に声が響く。
アメリア。
完全停止。
ぱちりと瞬きをする。
「誕生日……」
ようやく理解した。
母が笑う。
「そうですよ、アメリア」
ミリアも微笑む。
「おめでとうございます」
監査局員達も続く。
「おめでとうございます!」
「局長!」
「誕生日おめでとうございます!」
次々と祝福される。
アメリアはしばらく固まる。
戦争もあった。
監査局もあった。
政争もあった。
忙しかった。
だから。
本当に忘れていた。
「……」
少しだけ目を伏せる。
そして。
「ありがとうございます」
静かに頭を下げる。
◇
宴開始。
監査局員達が騒ぐ。
公爵が酒を飲む。
母が楽しそうに笑う。
ハロルドが料理を取り分ける。
庭師は隅で緊張している。
マリアは平然と食べている。
アメリアはその光景を見る。
昔なら考えられなかった。
こんな風に。
誰かに祝われる日が来るなんて。
不意に。
ルルリアが近寄ってくる。
アメリアの服をつまむ。
「?」
抱き上げる。
ルルリアが笑う。
また理由は分からない。
だが。
今回は答えを知っている人がいた。
ミリアが笑う。
「ルルリアもお祝いしたいのでしょう」
アメリアはルルリアを見る。
そして。
少しだけ微笑む。
「そういうものなのでしょうか」
「はい」
優しい返事。
賑やかな声。
笑い声。
乾杯の音。
その中心で。
アメリアは静かに思う。
悪くない誕生日だ、と。
お読み頂き、ありがとうございます。




