第五話 少し問題があるかもしれませんね
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
翌朝。
アメリアは王城の廊下を歩いていた。
隣にはミリア。
少し後ろには護衛達。
窓から差し込む朝日が床を照らしている。
懐かしい。
そう思う。
だが。
まだ少しだけ現実味がない。
◇
「本当に行かれるのですか?」
ミリアが聞いた。
「行きます」
「まだ休まれても」
「その場合」
アメリアは少し考える。
「仕事が増える可能性があります」
ミリアが額を押さえた。
「戻ってきましたね」
「?」
意味が分からなかった。
◇
やがて。
監査局の執務区画へ到着する。
見覚えのある扉。
見覚えのある廊下。
記憶が少しずつ重なっていく。
アメリアは静かに扉を開いた。
◇
最初に気付いたのは若い職員だった。
書類を運んでいた。
そして。
固まった。
「……え?」
アメリアは軽く会釈する。
「おはようございます」
沈黙。
数秒。
さらに数秒。
職員は書類を落とした。
「きょ、局長ォォォォォ!!」
王城中へ響きそうな絶叫だった。
監査局が止まる。
完全に。
見事なほどに。
◇
「は?」
「今なんて?」
「局長?」
「局長って言ったか?」
あちこちから声が聞こえる。
次の瞬間。
椅子が倒れた。
書類が飛んだ。
人が走った。
扉が開いた。
「局長!」
「局長だ!!」
「生きてた!!」
「本物だ!!」
雪崩だった。
本当に雪崩だった。
アメリアは少し後ろへ下がる。
「何でしょう」
「何でしょうじゃありませんよ」
ミリアが即答した。
◇
「局長!」
「おかえりなさい!」
「良かった!」
「本当に!」
泣いている職員もいた。
半年前。
アメリアが消えた日を思い出す。
誰も笑わなかった。
誰も諦めなかった。
それでも見つからなかった。
だから。
目の前にいることが信じられない。
さらに奥から幹部達が出てくる。
見覚えのある顔ばかりだった。
そして。
副局長が立ち止まる。
「局長」
「はい」
「……本当に局長ですか」
アメリアは少し考える。
本当に少しだけ。
「たぶん」
副局長が天を仰いだ。
「たぶん!?」
監査局がざわついた。
「記憶が一部曖昧ですので」
静かな説明。
「ですがアメリア・フォン・アルフォードである可能性は高いかと」
「高いかとじゃないんですよ局長!」
副局長が叫んだ。
周囲が泣きながら頷く。
しばらくして。
ようやく少し静かになった。
たぶん。
少しだけ。
アメリアは周囲を見回す。
そして言う。
「では」
全員が注目する。
半年ぶりの局長の指示だった。
「業務を再開してください」
沈黙。
「無理です!」
即答だった。
「局長!」
「半年ぶりなんですよ!?」
「まず歓迎会です!」
「そうです!」
「今日は仕事になりません!」
大合唱だった。
アメリアは困惑する。
「ですが」
「駄目です!」
さらに即答。
その時だった。
監査局入口付近がざわつく。
振り返る。
王城勤務の官僚達だった。
さらに衛兵。
侍女。
近くの部署の職員。
噂を聞いて集まってきたらしい。
「本当に戻ってきたのか……」
「局長だ……」
「生きてたんだ……」
完全に見世物になっていた。
アメリアは沈黙した。
周囲を見る。
職員達を見る。
副局長を見る。
ミリアを見る。
そして。
ぽつりと呟く。
「監査局とは」
一拍。
「このような組織だったでしょうか」
副局長が涙目で答えた。
「局長が育てた組織ですよ」
監査局中に笑いが広がる。
アメリアは少しだけ考えた。
数秒後。
「そうでしたか」
静かに頷く。
そして。
「少し問題があるかもしれませんね」
監査局はさらに笑いに包まれた。
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