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監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第二十一章 帰還編

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第四話 何のお話だったのですか?

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 その日の夜だった。


 夕食を終えた後。

 アメリアとミリアは公爵邸に宿泊することとなった。


 当然のように。

 セレナも一緒だった。


「久しぶりですもの」


 セレナは楽しそうに笑う。


「今日は一緒に入りましょう」


 というわけで。

 浴室である。



 広い。

 公爵家の浴室だから当然だが広い。


 湯気が立ち込める中。

 三人は湯船に浸かっていた。


 アメリアは静かだった。

 どこか落ち着いた様子で湯を楽しんでいる。


 その隣。


 ぴたり。


 ミリアがいた。


 ぴたり。


 本当にぴたり。


 肩が触れる距離。


 いや。

 ほぼ触れている。


 セレナは微笑ましそうに眺めていた。


 アメリアは気付いていない。


 いや。

 気付いているが気にしていない。


 ミリアも気付いていない。

 完全に無意識だった。


 湯船から上がる。


 ミリアも上がる。


 アメリアが椅子へ座る。


 ミリアも座る。


 髪を拭く。


 ミリアが横にいる。


 セレナは内心だけで笑った。


(本当に離れませんのね)


 そして少しだけ安心した。


 半年。

 アメリアは失われたと思われていた。


 その半年。

 ミリアがどれほど苦しんできたか。


 想像するのは難しくなかった。


 やがて。

 全員が入浴を終える。



 部屋へ戻る途中。

 セレナが口を開いた。


「王太子妃殿下」


 ミリアが振り返る。


「はい?」


「……いえ」


 セレナは微笑んだ。


「ミリア様」


 少しだけ困惑した表情。


「なんでしょうか?」


「後ほど二人だけでお話よろしいでしょうか」


 ミリアが固まった。


「え?」


 思わずアメリアを見る。


 アメリアも少し首を傾げる。


「何か問題がありましたか?」


「いえ」


 セレナは笑う。


「少しだけですわ」


 その笑顔が逆に怖かった。


 ミリアは不安になる。


 今日一日。

 思い当たることが多すぎる。


 アメリアに抱きついた。


 服を掴んだ。


 ずっと離れなかった。


 思い返すと結構酷い。


 それに。


 夫人にとって。

 自分は娘の婚約者を奪った人間だ。


「ミリア」


 アメリアが声をかける。


「大丈夫です」


 いつもの落ち着いた声だった。


「お母様は怖くありません」


「そういう問題でしょうか……」


 不安は消えなかった。


「分かりました」


 それでも頷く。


 セレナは満足そうだった。



 夜。

 廊下を歩く。


 ミリアの隣にはアメリアがいた。


「本当に大丈夫でしょうか」


「大丈夫です」


「その根拠は」


「お母様だからです」


 よく分からなかった。


 やがて。

 セレナの私室へ到着する。


「それでは」


 アメリアが言う。


「行ってらっしゃいませ」


「行ってまいります……?」


 何かがおかしい気がする。


 だが。

 結局そのまま扉を叩いた。


「どうぞ」


 中から声が返る。


 ミリアは意を決して中へ入った。



 室内には紅茶の香りが漂っていた。


 向かい合うソファ。


 小さなテーブル。


 そこには既に紅茶が準備されている。


「どうぞ」


 セレナが座る。


 ミリアも少し緊張しながら席に着いた。


 沈黙。


 先に口を開いたのはセレナだった。


「娘と仲良くしていただきありがとうございます」


「え?」


 思考が止まる。


 予想していた言葉と違った。


 まったく違った。


「アメリアは」


 セレナが紅茶へ視線を落とす。


「ずっと一人でしたから」


 穏やかな声だった。


「親として少し心配でした」


 一拍。


「ですが」


 優しく微笑む。


「ミリア様がいてくださるなら安心ですわ」


 ミリアは呆然とする。


 そんな風に考えたことがなかった。


 自分は助けられた側だ。


 教えられた側だ。


 導かれた側だ。


 そして。


 奪った側だ。


 だから。

 安心しているのは自分だけだと思っていた。


 しばらく沈黙する。


 やがて。

 ゆっくりと口を開いた。


「……アメリアは」


 一度言葉を切る。


「私にとって良き」


 一瞬迷い。


「師匠であり」


 浮かぶ。


 厳しい指導。


 笑顔。

 仕事。

 冒険。

 成長。


「恩人であり」


 さらに浮かぶ。


 人生を救われた日。

 手を差し伸べてくれた日。


 そして。


 一番大切な言葉が残った。


「……親友ですから」


 自然と口から零れた。


 セレナが柔らかく微笑む。


「そう」


 それだけ。


 けれど。

 とても嬉しそうだった。


「でしたら安心ですわ」


 一拍。


「アメリアは人に頼るのが下手ですから」


 ミリアは思わず笑った。


「ええ」

「知っています」


 むしろ。

 誰よりも知っている。


 全部一人で抱える。

 全部一人で解決しようとする。


 困った人だ。


「ですから」


 セレナが言う。


「これからもよろしくお願いしますね」


 ミリアはゆっくり頷いた。


「はい」


 王太子妃としてではない。


 ミリア個人として。


 心から答えた。



 部屋を出る。


 廊下には。

 アメリアがいた。


「終わりましたか?」


「終わりました」


「何のお話だったのですか?」


 ミリアは少し考える。


 そして。

 小さく笑った。


「秘密です」


「そうですか」


 アメリアが首を傾げる。


 本当に不思議そうだった。


 ミリアはそんな姿を見て。

 少しだけ笑う。


 親友。


 口に出して初めて分かった。


 確かにそうだった。


 だから。

 今だけは。

 何も言わない。


「戻りましょうか」


「はい」


 二人は並んで歩き出す。


 公爵邸の夜は。

 穏やかに更けていった。

お読み頂き、ありがとうございます。

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