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監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第十四章 諸国戦争編序章

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第七話 受けるべきです

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 王城。

 朝。


 廊下を歩く。


 一歩。

 また一歩。


 ミリアは大会議室へ向かっていた。


 手には資料。

 東方連盟から届いた返答。


 条件付き支援。

 同盟交渉。

 援軍派遣。


 王国にとって重要な会議だった。


 行かなければならない。


 自分が書いた親書だ。

 自分が始めた交渉だ。


 だから。

 行かなければ。


 そう思う。


 だが。


 足取りは重かった。


 気付けば。

 呼吸が浅くなっている。


 胸が苦しい。


 理由は分かっていた。


 あの日から。


 一度も入っていない。


 大会議室へ。


 アメリアがいた場所。


 隣で資料をめくり。

 容赦なく会議を壊し。

 誰よりも冷静に問題を指摘し。


 そして。


 誰よりも多くのものを守った場所。


 扉が見える。


 あと数歩。


 それだけだった。


 だが。


 足が止まる。


 動かない。


 前へ進めない。


 扉の向こうから声が聞こえる。


 軍務卿。

 外務卿。

 監査局。


 会議が始まる。


 手を伸ばす。


 触れる寸前で止まる。


 怖かった。


 扉を開けて。


 そこに。

 アメリアがいなかったら。


 改めて現実を突き付けられる気がした。


 指先が震える。


「ミリア」


 優しい声だった。


 振り返る。


 ルーカスだった。


 ミリアは何も言えない。


 ルーカスは静かに隣へ立つ。


 そして扉を見る。


 事情は分かっていた。


 言葉にしなくても。


「無理をするな」


 小さな声だった。


「ですが」


 言葉が詰まる。


「私が書いた親書です」


「私が行かなければ」


 それでも。

 足は動かない。


 ルーカスは少しだけ考えた。


 そして言う。


「十分だ」


 ミリアが顔を上げる。


「え?」


「十分やった」


 一拍。


「親書を書いた」


「東方を動かした」


「同盟交渉の扉を開いた」


 ルーカスは静かに続ける。


「それだけで十分だ」


 会議室の扉を見る。


「今回は俺達に任せろ」


 優しく。


 だが。

 逃げ道を与えるような言い方ではなかった。


「お前はもう頑張った」


 ミリアの目に涙が浮かぶ。


 まだ弱い。


 まだ立ち直れていない。


 自分でも分かっている。


 だから。


 小さく頷いた。


「はい」


 ルーカスは何も言わない。


 ただ隣にいた。


 しばらく。

 ほんの少しだけ。


 やがて。


「結果は後で持っていく」


「よろしくお願いします」


 ルーカスは会議室へ入っていった。


 扉が閉じる。


 ミリアは一人になる。


 それでも。

 以前ほど苦しくはなかった。


 ほんの少しだけ。

 本当に少しだけ。


 前へ進めた気がした。



 数時間後。


 執務室。


 ルーカスが資料を持ってくる。


 東方連盟からの条件。


 戦後交易優遇。

 港湾整備参加。

 商人保護。

 共同監査。


 重い条件だった。


 簡単ではない。


 だが。

 不可能でもない。


 ミリアは資料を読む。


 そしてある頁で手が止まった。


 欄外の注釈。


 見慣れた文字。


 アメリアだった。


『相手が利益を得られるなら交渉は成立します』


 思わず笑ってしまう。


 本当に。

 どこまで準備していたのか。


 涙が滲む。


 それでも。

 以前とは少し違った。


 悲しい。


 苦しい。


 会いたい。


 それは変わらない。


 だが。

 前を向かなければならない。


 あの人ならそうする。


 そう思えた。


「受けるべきです」


 ミリアは静かに言った。


 ルーカスが頷く。


「俺もそう思う」


 王国は決断する。

 東方連盟の条件を受諾することを。


 そして。


 第二の戦争へ向けて。


 王国は再び動き始めた。

お読み頂き、ありがとうございます。

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