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『螺旋の刻印と、魔導学院の秘密』  作者: 新米オッさん兵士


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第6章 影の地下室と、鎖と螺旋の共鳴

黒い手紙を受け取ってから一晩、俺はほとんど眠れなかった。

朝食の席で瑠璃が心配そうに眼鏡を押し上げながら言った。

「本当に……行くの? 禁忌研究部なんて、表向きは古書整理サークルだけど、実際は危険な刻印を弄ぶ場所よ。

私の解析データだけでも十分進められるのに」

茶髪のスポーツ少年もフォークを止めて心配げだ。

「お前、なんか危なっかしいぜ。俺もついていこうか?」

俺は二人に微笑みながら首を振った。

「大丈夫。一人で様子を見てくる。

澪の鎖が疼いてるみたいだったし……少し、気になってるんだ」

本当は自分でもよくわからなかった。

ただ、手の甲の黒い渦が、まるで「行け」と囁いている気がした。

抑制具は新しいものに替えていたが、すでに微かなひびが入り始めている。

放課後、俺は影属性の寮に向かった。

白い風属性の建物とは違い、影属性の寮は黒と紫を基調とした重厚な造りで、廊下の照明が常に薄暗い。

手紙に書かれていた「地下古書室」の階段を下りると、空気が重く淀み、微かな魔力の残滓が肌を刺した。

古書室の扉は重く、ノックするとすぐに開いた。

「待ってたわ」

白峰澪が立っていた。

今日は制服の上に黒いローブを羽織り、首筋の赤黒い鎖模様がはっきり浮かんでいる。

彼女の後ろには、数人の上級生が魔導書を広げて作業をしていた。

クールな美青年の部長らしき人物が、こちらを見て静かに頷いた。

「ようこそ、螺旋の持ち主。

私は霧島零。この研究部の部長よ。

君の刻印は……興味深いデータになるはずだ」

部屋の中央には、複雑な魔法陣が描かれた実験台があった。

周囲にいくつもの抑制装置と解析水晶が並んでいる。

澪が俺の手を引いて台の上に座らせた。

「怖がらないで。

今日は軽い共鳴実験だけ。

あなたの螺旋と私の鎖を、少しだけ同期させてみるの。

……きっと、互いの痛みが和らぐわ」

瑠璃から聞いた警告が頭をよぎったが、俺は頷いた。

澪が自分の左手首を俺の左手に重ねる。

赤黒い鎖がゆっくり伸び、俺の黒い渦に絡みついた。

瞬間——

熱い奔流が全身を駆け巡った。

視界が暗くなり、澪の記憶が再び流れ込んでくる。

暗い実験室、強制的に刻印を改造される痛み、失われた家族の叫び……。

同時に、俺の刻印が反応した。

黒い渦が回転を速め、第二螺旋の輪郭がぼんやりと浮かび上がる。

「っ……あぁ……!」

澪の体が震え、彼女の瞳から涙が一筋こぼれた。

「熱い……でも、痛くない。

あなたの螺旋が、私の鎖を……優しく解いていく。

こんなに……穏やかな魔力、初めて……」

俺も息が荒くなった。

鎖を通じて澪の魔力が流れ込み、俺の風属性に影の力が混ざる。

普段の魔導書では到底出せない出力。

周囲の空気が歪み、古書室の埃が螺旋を描いて舞い上がった。

部長の霧島が目を細めて解析水晶を覗き込んだ。

「これは……予想以上だ。

螺旋刻印の干渉力、Ⅳ級に匹敵する。

しかも、血の連鎖刻の暴走兆候を中和している……。

君は、まさに禁忌の鍵かもしれない」

実験台の魔法陣が輝きを増し、俺の抑制具が再びひび割れた。

黒い粒子が溢れ出し、手の甲に二つ目の小さな渦が一瞬だけ現れる。

第二螺旋——まだ完全ではないが、確かに目覚め始めていた。

「やめ……!」

突然、扉が勢いよく開いた。

瑠璃が息を切らして飛び込んできた。

彼女の後ろには、茶髪の少年もいる。

「やっぱり来てたのね! 危ないって言ったのに!」

瑠璃が水の障壁を展開し、俺と澪の間に割り込んだ。

水属性の冷たい魔力が鎖と螺旋を引き離そうとする。

しかし、すでに共鳴は深く、簡単には離れなかった。

澪が苦しげに笑いながら言った。

「眼鏡ちゃん……邪魔しないで。

今、この子は私を救おうとしてくれてるの。

あなたの綺麗な理論だけじゃ、刻印の痛みはわからないわ」

瑠璃の瞳が燃えるように光った。

「理論じゃなく、彼の安全を考えてるの!

あの鎖が暴走したら、彼の螺旋まで汚染される可能性が82%以上よ!」

二人の魔力がぶつかり合い、古書室の空気が激しく揺れた。

俺は二人の間に挟まれ、刻印の熱に耐えながら叫んだ。

「二人とも、落ち着け!

俺は……自分の力で決めたい。

澪の鎖を、少しでも楽にしたい。

でも、瑠璃の言う危険も、無視できない」

その言葉で、二人の魔力が少し弱まった。

澪がゆっくりと鎖を収め、俺の手に優しく触れた。

「……ありがとう。

今日の共鳴で、私の疼きが半分くらい消えた気がする。

また、来てくれる?」

瑠璃が俺の腕を強く掴んだ。

「今日はもう帰りましょう。

私の部屋で、ちゃんと解析してあげる。

……一人で抱え込まないで」

部長の霧島が静かに言った。

「君の選択だ。

だが、螺旋刻印はいつまでも隠しきれない。

禁忌の影は、すでに君に近づいている」

俺は古書室を後にした。

廊下を歩きながら、手の甲を見下ろす。

黒い渦は確かに大きくなり、二つ目の渦が薄く浮かんでいた。

第二螺旋への道が、確実に開かれ始めている。

夜、寮の屋上で瑠璃と並んで座った。

彼女は眼鏡を外し、珍しく柔らかい声で言った。

「私は……あなたが傷つくのが嫌なの。

澪さんの鎖も、救いたいと思う気持ちはわかる。

でも、もっと安全な方法を探しましょう。一緒に」

風が吹き、遠くの影属性寮から微かな鎖の音が聞こえた気がした。

俺は左手を開き、静かに呟いた。

「俺の刻印……本当は何なんだ?」

黒い螺旋は、夜空の下でゆっくり回転を続け、

次の覚醒を、静かに待ち続けていた。

そして、学院のどこかで、

より大きな影が動き始めていることを、

俺はまだ知らなかった。

(第6章 終わり)

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