短編9 『最強!Knights of Strongest』の活動録その2 前編
「…全く、イプロクス達は予定していた依頼をほっぽり出してどこ行ってるのよ…」
「アンダルハーグに緊急の依頼って言ってたっピよ?」
「それは知ってるでゴワス。行先じゃなくて動機の話でゴワス」
『最強!Knights of Strongest』に所属しているイプロクスやアルフィー含めた5人がアンダルハーグで依頼をしている同時刻、帝都を挟んだ反対方向の帝都領土内未開拓区域でとある依頼が行われていた。
そこには2mをゆうに超える高身長でガタイがよく、なによりも顔がやたらでかくて濃い顔をした男と、朱色の髪色でロングストレートな、立派で真っ赤な翼と鱗を持つ女性と、金髪ショートボブのような髪型に可愛らしい美少女のような顔立ちをした少年。イプロクス達と同じく『最強!Knights of Strongest』に所属するガーランド・プラノ・ヨハンの3人が、ほんのりと薄暗くなってくる夕暮れ時での捜索を行っていたのだ。ガーランドがその大きな巨体に似合う大刀を、プラノは農業用フォークに似た武器を、ヨハンは明らかに重たそうに中華鍋を3人とも構え森の中を歩いている。だが思うように対象を探し出せずついにさぼるような形で3人が木にもたれかかる。
「あーもー!なんで私達がこんな仕事しなくちゃいけないのよー!!私ライオネット様の護衛と、お仕事の手伝いをしなくちゃいけないってのにーっ!!」
「それは自分の仕事でゴワス…、さっきも話したでゴワスけど元々イプロクス達に行ってもらう予定の依頼だったでゴワス。だけど行けなくなったから仕方なく自分達が行くことになったでゴワスよ」
「ピーもライオネット様のための新しいメニュー作りたかったっピー…」
そんな風にぼやいていると突然プラノの腰からピーピーと機械音が響き、プラノは腰についているトランシーバーのような機器を手に取ると無線の通話が繋がる。
『おい、ポンコツ三人組、ちゃんと見張っていろよ』
「誰がポンコツよグラシアス!!あんた達の方こそさぼってるんじゃないわよ」
それだけ言い残すと力いっぱいに無線の通話を切るプラノ。そして引き続き捜索を再開する三人。
ちなみに今回の依頼は、近頃義勇兵爵達の依頼のために設営される軍の駐屯キャンプが海賊によって襲撃されることが相次ぐため、今回は囮としてのキャンプを設営しその襲撃犯を討伐…ないしは逮捕するのが目的だ。それに伴って現在三人は先んじてキャンプ周辺の身を隠しやすい範囲を索敵し先手を打つ作戦をとったのだ。
「とはいえ…ホントに海賊いるのかしら…」
「さっきの軍の人の説明だと5回に1度くらいの襲撃って言ってたでゴワスから…今回襲撃されない確率の方が高いでゴワス」
「無駄足っピかー!?」
「こういう時って報酬ってどうなるの?」
「検証データ料として報酬のうちの2割程度は貰えるでゴワス…」
「…貰えるだけマシって事ね」
「ピー…おやつ買えないっピ…」
ぶつくさと喋りながら捜索を続ける三人、ガサゴソと藪をつつくが人の気配どころか野生動物一匹も姿を見せない。それから10分程さらに探すものの何の成果もないため仕方なくキャンプに帰ろうとした。その時だった。
「…まって!」
プラノが2人に制止を呼び掛けたが、巨体のガーランドが2人の真後ろにいたのが災いしガーランドが止まれずに後ろから二人に衝突。そのまま三人で団子状態になったまま前方に倒れると、足元に張られていたロープが引っ張られ三人の真下の地面から網状のロープが飛び出してそのまま宙吊り状態で捕らわれてしまったのだ。
「ちょっ!ばかっ!なんで押すのよ!!」
「きゅ、急に言われても…ガス」
「重いっピー!」
三人が慌て悶えるが網は揺れるばかりで抜けれる隙間もなかった。
「と、とにかく…これは海賊の罠でゴワス!グラシアスに報告するでゴワス!」
「っそ、そうね…トランシーバー、ちょっとヨハンどいて!」
「どけるんだったらさっさとどいてるっピ!」
プラノが腰の無線に手を伸ばそうと動くが三人が絡まっている状態では思うように腰に手が届かなかった。そうこう動いているうちにガーランドやヨハンも手を伸ばして取ろうと試す…なんとかトランシーバーまで手が届いた。が
「「「あ」」」
なんとトランシーバーは三人の手をすり抜け、さらに網の目すらもすり抜けて地面に落っこちてしまったのだ。しかも網の目から三人の手を出して伸ばしても地面まで届かないほど吊り上げられている。つまりトランシーバーが取れない状態になってしまったのだ。
「っど、どーすんのよ!!」
「ど、どーするって言われても…」
「「「…助けてライオネット様ーっ!!!」」」
………——————…
一方その頃、囮として設営されたキャンプ地では数人の軍の人間と、騎士団から派遣されたメンバーとして2m近い身長に分厚い身体。茶色いぼさぼさのショートヘアの中から牛のような耳や角が生え、下から尻尾の生えたアーマー付きのメイド服のような恰好をしている女性…グラシアスと、対称的に背が低くまるで人形とも思えるような絹のように透き通る銀髪や色白肌をした耳の長い少女…セビアンが周囲を警戒しながら待機していた。それ以外の義勇兵爵からの参加者がいないのはそもそも義勇兵爵が出払っていて手薄になっているキャンプを装うためでもあったのだ。
「あんまり周囲を警戒したら囮だってバレちゃうよ?」
「…あぁ、あー分かってる。けどなんか落ち着かねぇんだよ…あの三馬鹿に任せて大丈夫かな…」
そう言いながら頭をポリポリと掻きながらギシリと音を立てながら近くの椅子に座るグラシアス。
「依頼を管轄するイプロクス達はどっか行くし、バカラやガイマン、カロア達は自分の仕事があるから参加は難しい…そのせいで本来セレイア様の護衛である私達やライオネット団長の直属部下であるポンコツ三人組で依頼に参加しなくちゃいけない…結局人数が足りねぇんだ」
「もっと団員を増やさないとだね~」
「あぁ、だがただ増やすだけじゃ駄目だ…全員がそれなりの実力を持たねぇと。…私もどんな相手でもセレイア様をお守り出来るだけの力をつけないと…」
落ち着きのないグラシアスをぼんやりと眺めるセビアン。だがそんな静かな時間は唐突に終わりを迎えた。突如どこからかボールのようなものが遠くから投げ込まれたかと思うと、直後そのボールから色の濃い煙のようなものが噴出されたのだ。
「っ!?来たか!!セビアン!!」
グラシアスはすぐに自身の得物であるメイスと盾を構え煙で視界が悪い中周囲を警戒する。セビアンは事前に打ち合わせをしていたであろう軍の人達の元に駆け寄り護衛する構えを取った。
「我々も戦えます!」
「駄目です!貴方がたはあくまでキャンプの設営だけをしに来た非戦闘職員という事になっています。下手に戦闘に加われば作戦そのものが見透かされ海賊共に逃げられてしまいます。どうかギリギリまで戦闘はお控えいただければ」
「来たぞっ!!」
グラシアスの視界の片隅、煙の隙間から複数人の海賊が接近していることを確認。その数は5人…1海賊としては送り込まれた人数が少ない事に危惧しつつも、もっと大勢に攻められたら少人数ではどうしようもなかっただろう、グラシアスは少しだけ安堵の息を漏らす。
「…さぁきやがれ海賊共!お嬢のおかげで護衛とて実戦経験は日頃からかかしてはいないぞ」
接近しきった海賊達は見事な連携ですぐにグラシアスを取り囲むと、ほぼ同時にラッパ形状の銃で発砲する。グラシアスはその体躯からとは思えない驚くほどの反応速度で全ての弾丸を回避し一人の海賊の元に接近するが…海賊はすぐに距離を取る。すると他の海賊がカトラスを手に背後からグラシアスに襲い掛かるが、グラシアスは即座に反応し防御する。…だが防がれたと分かると海賊はすぐにまた距離を取り、今度もまた別の海賊が背後から仕掛ける。それをまたなんとか防ぐ。
「くっそ…こいつら、めんどくせぇ!」
グラシアスが前に出れば海賊は距離を取り、後ろから仕掛けては距離を取る…と常に5人で一定の距離を保ちながら何度も仕掛けてくる。グラシアスはひたすら不意打ち狙いの海賊の相手ばかりに神経を使われ消耗が激しく既に肩で息をしている。
「援護するっ!!」
セビアンが軍の職員達を庇いながら鎖を投擲し、一人の海賊の後ろ首筋に突き刺さりそのまま雷の魔法を流し込み鎖を伝ってダメージを与えた。だがすぐその海賊の鎖は強引に引き抜かれ、そのまま鎖を掴まれたままラッパ銃を撃たれセビアンの足元で小さな爆炎が上がる。その衝撃を防ぐ術はなくセビアンが怯み悲鳴を上げる。
「くっ、だが隙は無駄にはしない!!」
セビアンを攻撃していたためにグラシアスへの警戒を緩めた海賊にメイスを振り下ろすが、即座に両隣にいた二人の海賊がカバーに入り二振りのカトラスが攻撃を防ぐ。そして鎖を握っていた海賊は力いっぱいに鎖を引っ張ると、その小さな体では抗えなかったセビアンが引っ張られ、グラシアスが即座にセビアンを体で受け止める。その瞬間完全に背後を隙だらけにしてしまったがため残りの2人の海賊からの攻撃を背中にもろに喰らってしまったのだ。
「ぐああぁっ!!」
「グラシアスっ!!」
心配するセビアンを庇いつつ、痛みに耐えながら戦闘姿勢を崩さないグラシアス。そんな状況でもお構いなしに二人を取り囲み隙を狙う海賊達…そしてさらに最悪の知らせが残されたぐんの職員のざわめきから聞こえてきた。
「おい…空だ!」「帆浮船だ…」「海賊船だっ!!」
空を見上げるとそこにはいつの間にか巨大な浮遊する船がキャンプの上空に滞空していたのだ。セビアンは震える手でグラシアスの腰にあるトランシーバーを取り起動させる。
「ねぇ!あんたたち!一体どこにいるのよ!!そこからでもこの状況見えてるでしょ!!今こっちはすっごい大変なことになってるのよ!!早く来なさい!!!」
だがトランシーバーからは何の反応もなかった…
「…、…うそ…そんな、まさか…」
「…そんなわけない。きっとどこかで落っことしただけだ…3人が来るまで持ちこたえるんだ…」
グラシアスは不安がるセビアンを慰めつつ、痛みに耐え危機的な状況のなかで必死に打開の策を思考するのだった…
次回投稿は4/22予定




