50:馬車の中
騎乗したロイド様や護衛たちに守られて、フィンドレイ公爵家の馬車が列をなして進んでいく。
窓から見える景色が移り変わる度に王都へ近づいている実感が増して、私はすでに緊張でいっぱいになっていた。
私の膝の上に座っているイセル坊ちゃまやピヨン様には、バクバクと音を立てる私の鼓動が聞こえているはずだ。
けれど、二人はそれに関して一切触れず、「またアリーヤさまにあえるの」「王城で暮すってどんな感じなのかしらね?」と楽しげにお喋りをしている。
もしかしたら私の『お人形さんごっこ』に配慮してくださっているのかもしれない。
だって――……。
「どうやら、予定よりも早く王都に着きそうだな」
「道中のトラブルも殆どなかったですもんね。何回か馬車の車輪が溝にはまって動かなくなりましたけれど、マグノリアちゃんがヒョイッて馬車を持ち上げてくれて……マジで腕の構造、どうなってんだ……」
「さすがはマグノリアだ」
「んんん……っ。そうですね、テオ様! それに本当に天候がよくて! 普通はこうはいきません。……あれ? でも、前回の王都行きもかなりスムーズでしたよね?」
「そういえばそうだな。もしかすると、イセルが妖精の恩恵を受けている影響か?」
「あー、それはありえそうですね。イセル坊ちゃまがツイているおかげかも」
馬車内にはフィンドレイ公爵様とオリバー様もいらっしゃるもの。
私の秘密を明かさないように、イセル坊ちゃまたちは黙ってくれているのでしょう。
「イセル。もうすぐ王都に入るが、王城へ到着する予定時刻よりもだいぶ早く着いてしまいそうだ。少し王都で寄り道をして行くか?」
「よりみち?」
「おもちゃ屋でも菓子屋でも、行きたいところへ連れて行ってやろう。今回マグノリアをきみから借りる埋め合わせだとでも思ってくれ」
「うめ? あわせ? ……むむむ。テオおじさまのおことばはむずかしいの」
「イセル坊ちゃま! マグノリアちゃんを当分お借りする代わりに、おもちゃでもお菓子でも絵本でも、なんでも買ってあげるよってことです!」
「そうなのね。ありがとー、オリバーさん」
「いえいえ、どういたしまして! あと、イセル坊ちゃまは公爵家の大事な跡継ぎなんで、俺のことは『さん』付けしなくていいですからね~」
「わかったの、オリバーくん!」
「わぁ~、『くん』付けされるのはガキの頃以来で、なんだか懐かしくて嬉しいです!」
イセル坊ちゃまはピヨン様と顔を寄せ合って話し始める。
「ピヨンちゃんはいきたいところある?」
「あたしは人間世界を見れれば、なんでも面白いわ。あっ、そうよ。イセル、アリーヤにお土産を買ったらどう?」
「おみやげ? ぼく、おみやげだいすきなのよ! まえにパパとママがおみやげをくれたの。でも、おみやげをあげるのははじめてなの。これはせきにんじゅーだいなの」
「アリーヤ王女殿下の喜びそうなものか。無難に菓子でいいんじゃないか?」
「王都で人気の高級菓子店なら、すでにリストアップしてますよ~。でも、こういうのは王城でも出ると思いますし、普段食べる機会のないもののほうが嬉しかったりしますかねぇ?」
和気あいあいとした雰囲気の四人をよそに、私は先ほどのフィンドレイ公爵様の『マグノリアをきみから借りる』という発言に固まっていた。
……やはり、パートナー回避は出来ないのね。
公爵家にいる間に、フィンドレイ公爵様と何度も問答した。
『フィンドレイ公爵様。私は子守り用魔導人形なので、同伴者には不向きかと存じます。お考え直しください』
『だが、マグノリアは公爵家跡取りの補佐が出来るように作られているはずだ。マナーやダンスはお手のものだろう?』
『魔導人形は飲食が出来ません。お茶会や食事会には不向きです』
『今回の催しは、音楽会や狩猟大会やダンスパーティーだ。飲食せずともそれほど目立たないから問題ない』
『そっ、そもそも私はイセル坊ちゃまのために作られましたっ。イセル坊ちゃまの許可なく、お傍を離れるわけには……っ』
『わかった。私があとでイセルに頼んでおく。それなら問題はない』
……全然、フィンドレイ公爵様を説得することが出来なかった。
フィンドレイ公爵様はその後しっかりとイセル坊ちゃまから許可を取り、私がオウカ神聖王国使節団の歓迎の催しに参加せずに済む道はすべて消えてしまった。
確かに、私は礼儀作法の授業も受けたし、難しいダンスも踊れる。音楽の教養も身に付けたし、狩猟大会でもフィンドレイ公爵様の護衛になれるでしょう。
多くのことが出来るようになれば、私なんかと友達になってくれる誰かが現れると信じて勉強したから。
脳裏によぎるのは、幼い頃の記憶だ。無表情の私を気味悪がる、令嬢や令息たちの姿。
自分たちと違う存在を畏怖してしまうのは、社会的な生き物としての本能だ。その本能を抑え込んで未知の存在と対話を試みようという柔軟性は生まれるのは、それまで積み重ねた経験によるもの。あの子たちはただ幼かっただけなのだ。
でも、私も同じだけ幼かった。
だから彼女たちの態度に傷付き、それは今でもトラウマとして残ってしまっている。
トラウマを塗り替えるだけの成功体験がまだないから、傷は癒えることもなく、ジクジクと痛んで、仕事として社交界へ出ることにさえ怯えているのでしょう。
……誰か一人でも、私と友達になってくれる人がいればいいのに。
ふと顔を上げると、ほかの四人はまだ楽しそうに話をしていた。
そういえば、イセル坊ちゃまとピヨン様、フィンドレイ公爵様とオリバー様はそれぞれ親友のような関係だ。
二組の親友たちを見ていると羨ましくてたまらなくなり、私は再び窓の外に視線を向けた。
ついに王都の城門が見えてくる。
フィンドレイ公爵様のパートナーとして社交界に参加したら、拒絶の眼差しをたくさん受けるのでしょうね……。
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