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底無し魔力の召喚士~各地に封印された神獣と契約して最強へと至る者~  作者: 半分のリング
番外編

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二人の旅路

 遥か昔、長大な山脈に囲まれたこの地には幾つもの国家が存在した。各国は争いよりも共栄を望み、比較的平和な日々を享受していた。




 そんな大陸を自由気ままに旅する二人の少女。


「ようやく先へ進めるの。三日も足止めを食らうとはいい迷惑じゃ」

「全くじゃ! おかげで何も食べておらんぞ」


 リザベートが不満を口にすれば、メアは激しく同意した。


「ふむ。毎日、薙刀を磨いては楽しそうにしていたではないか」

「なっ!? それはそれ、これはこれじゃ! そもそも雨が怖くて動けぬとか、お主はまるで子供じゃな!」

「誰も怖いなどとは言うておらぬ。濡れたまま長時間過ごしては風邪を引いてしまうじゃろう?」


 メアと違って、と付け加えるリザベート。

 再召喚を行えば衣服含めて元通りになる召喚獣は、病気とは無縁。便利なものだと常日頃から考えていた。



 ――ネメアの獅子。自らを神獣と呼ぶ彼女と盟約を交わし、メアと名付けた。それが三か月前の出来事だ。


 人の姿に化け、人語を介する不思議な存在。試しにと自身の真似事をさせてみると、みるみるうちに上達した。姿形だけでなく、仕草や口調までもが似通った。最近では声質に変化がみられ、いずれは見分けがつかなくなるのではないかと恐怖する反面、楽しみでもあった。


 つくづく興味深い――。


 リザベートの好物である和菓子にも興味を抱いたが、召喚術には一切の関心を示さなかったのが少し残念なところ。しかしそれは、言い換えれば彼女にも心があるということ。そう思えば、自身の抱える不安はどんどん薄れていった。



「とにかく、次に目指すは大きな街じゃ」

「ようやく和菓子が食べられる、というわけじゃな」


 突然の長雨により、彼女たちは小さな集落で三日間過ごすことになった。当然、お菓子など食べられるわけもなく、メアは買ったばかりの薙刀を磨くことで不満を紛らわせていた。


 天気が回復して集落を出た今、お揃いの薙刀片手に軽快な足取りで進んでいる。




「むっ。これは……」


 街道を行く彼女たちの前に、またしても立ちはだかる障害。


「橋が壊れているではないか!」

「流木にでもぶつかってしもうたのじゃろう」


 増水した川は流れが速く、とても向こうへ渡れそうにない。


「どうするのじゃ?」


 上流へ行けば川幅も狭く、架けられた橋の数は多いだろう。流木に壊されていなければ、という話ではあるが、それは下流も同じこと。しかし流れが比較的緩やかであることを考慮すると、こちらの可能性に賭けるべきか。


「南へ行ってみるとするかの」



 こうして川沿いを南下することにした二人。半刻ほど進んで見えたものは壊れた橋が一つと、眼前に広がる大きな森。増水した川に侵食されているようだ。


「うーむ、森を抜けるにしても時間がかかりそうじゃな」


 川辺から下流を覗いた限りでは果てが見えない。川幅も広く、この先を進んだとしても橋など見つからないだろう。


「どうするのじゃ?」


 口元に手をやり考える仕草をしたリザベートは森に沿ってゆっくり歩く。二十歩ほど森の中を観察し、そしてメアに視線を向けるとニヤリと笑った。


「メア、これくらいの木を幾つか用意してくれんかの。小舟を造ろうかと思うのじゃが――」


 身振り手振りで小舟の全体像と、必要になる材木を伝えていくリザベート。


「わらわは蔦を探してくる。その間に頼めるか?」

「ふむ。その程度、難なく熟してやろうぞ」



 頼もしい返事をしたメアと別れ、リザベートは森の中を散策する。樹々がなぎ倒される音を聞きながら丈夫な蔦を集めていく。


「メアの奴、仕事が早いではないか」


 必要分の木材を確保し、すでに加工の段階まで進んでいるようだ。


「こっちも負けてはおれんの」


 急ぎ足で蔦を集めたリザベートが森の外へ出ると、待ちくたびれたと不満を漏らすメアが駆け寄ってきた。


「遅いではないか!」

「すまんの。まさかこんなに早く終わるとは思わなんだ」


 積み上げられた板は要望通りの大きさに切り揃えられている。ここから手を加える必要はないだろう。


「早速、組み上げるとしようかの。ほれ、そっちを持ってはくれぬか」


 持てる知識を総動員して一隻の小舟を造る。綺麗な材木だけを選別し、しっかりと蔦で固定していく。


「あとは船底じゃな。この丸太を半分にして、大きさを揃えてくり抜いてはくれんか」

「そのために残しておいたのじゃな」

「そういうことじゃ。わらわは樹脂を取り出しておくからの」


 廃材を燃やして樹皮を炙り、抽出したものを防水として利用する。最も原始的な方法だ。




 そうやってリザベートは聞きかじった知識だけで小舟を完成させると、自信満々に告げた。


「これで向こう岸までひとっ飛びじゃ!」

「お主、肝心なところが抜けておるな。舟だけ造ってどうやって漕ぐのじゃ」


 あって当然の物がないと指摘するメア。しかし、リザベートは悪戯な笑みを浮かべてメアの右手に持つ長柄の物体を見つめる。


「お主……まさか……」

「そのまさかじゃ! 手ごろな形をしておるではないか!」


 わざわざ作らなくとも似た形状の物が二本もある。積載量の問題も緩和されるため一石二鳥だとリザベートは笑った。




「買ったばかりで……こんな使い方……」


 小舟を浮かべて漕ぐ間、メアは独り言のようにぼやいていた。


「まぁそう言うでない。ほれ、使い慣れた薙刀じゃからこそ進む速度も速いではないか」


 あっという間に中間地点。上の空だったメアはそれに気づいたと同時、足元の違和感にもようやく気づく。


「――なっ!? 浸水しているではないか!」


 僅かに傾き船尾に集まる水は、すでにメアの足裏を濡らしていた。


「な、なんじゃと!? は、早くかき出すのじゃ!」


 小舟の上で慌てふためく二人。メアは両手を使って掬い上げるが、何度やっても水嵩は増えるばかりで終わりが見えない。


「は、早く原因を突き止めるのじゃ!」

「わかっておる!」


 リザベートは浸水の原因を探る。僅かな隙間から入り込んでくる水は少量ではあるものの、そこら中から滴り船尾へと流れ続けていた。

 原因は恐らく、不完全な防水によるもの。しかし、今さら手の施しようがなかった。



「し、仕方がない!」


 リザベートは荷物を薙刀にきつく結び、メアに差し出し対岸を指す。


「メア! 向こう岸まで投げてはくれぬか!」


 墨で書いた紙を水に浸すわけにはいかない。暗記している自信はあるが、それでも守らなければとメアに託す。


「任せておれ!」


 薙刀を受け取り構えるメア。彼女の力なら軽く届く距離で、対岸の巨木目掛けて狙いを定める。


「ほっ!」


 軽快な掛け声と共に――小舟は転覆した。







「――ぷはぁ」


 対岸に辿り着いたリザベートは息を整える。着衣水泳など初めての経験だった。


「さ、さすがに、これは……堪えるの」


 目を開けることができないほど濁った川は、方向感覚を狂わせる。メアの加護がなければ途中で力尽きていたかもしれない。そう思うと、リザベートはゾッと恐怖すると同時に安心感を覚えた。



「……メア?」


 乱れた呼吸を落ち着かせて辺りを見回してみるも、すでに岸に上がっているだろうメアの姿が見えない。


「メア!」


 川を見渡しても気配され感じられない。

 彼女の身に何かあったのか。泳ぎが得意かどうかも知らないリザベートは不安に駆られ――。


「召喚――【メア】」

「あああぁぁぁ」


 再召喚されたメアは岸辺に駆け寄り右手を伸ばす。


「な、薙刀……がぁ……」


 転覆と同時に投げ出された薙刀を探すため、メアは土色に染まった水中をさ迷い続けていたらしい。


「す、すまんかった……」



 こうしてメアはトラウマを抱えつつ、二人の旅路は続く――。

底無し魔力の召喚士はこれで終了となります。

最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

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