水龍ダンジョン 3
「うん、なかなかの出来だと思うよ」
「僕もそう思います。こういった方式のダンジョンは斬新で、大陸初じゃないでしょうか?」
そう言うのはクワトロメイズの代表のクリスさんとコーディネーターのニールさんだ。今日は水龍ダンジョンの最終確認に来ている。
このダンジョンをメインで作ったマーマンのマモンさんが説明する。
「まずこのダンジョンのですが、「採取特化型ダンジョンでありながら、攻略メインのパーティーにも楽しめる」をコンセプトにしています。最初に1階層は、マーマンやリザードマンのような水中活動が得意な種族が採取だけで生活できるくらいの水中資源を用意してます。まあ、客寄せみたいなものですね」
1階層は一面が海水で覆われて、ボートが無ければ並みの冒険者は通過できない。
ヘンリーさんが言う。
「水中での採取がメインですが、貸しボート屋もそのうちどんどんオープンするでしょうね。その状況を見ながら採取素材を増やしていってもいいかもらしれませんね」
抜け目のないヘンリーさんは、ダンジョン入口付近の一等地もDP回収エリアにしている。更にマモンさんが説明を続ける。
「一応メインコースは分かりやすくしてます。攻略だけが目的なら迷うことはないでしょう。しかし、それがメインではないんです。メインコース以外にいい素材を配置してますし、裏ボスも用意してるんですよ」
よく見て見れば、メインコースとは明らかに違う場所に道が続いていたり、不自然にため池のような場所があったりした。この付近を探索すれば、いい素材が手に入るということだろう。
「問題はこのコンセプトが理解されるかどうかということが少し気掛かりですね」
ヘンリーさんは言う。
「そうですね。それとなく水龍ダンジョンのコンセプトを冒険者に知ってもらえばダンジョン運営も軌道に乗るでしょう。その辺は私達ダンコルに任せてください」
情報操作が重要ということになる。それはつまり、私が期待されているということだ。
ダンジョンの最終チェックに併せて、式典の準備も着々と進んでいる。ダンジョンオーナーであるリバイネ様も最近では真面目に訓練に取り組んでいる。今も苦手な飛行訓練を頑張っている。
「あっ!!危ない!!」
従者でダークリザードのタリーザが叫ぶ。飛行していたリバイネ様が海面に落下した。
「リバイネ!!最初のうちは急加速や急旋回は危ないから駄目って言ったでしょ!!式典では、ゆっくり、まっすぐに飛ぶだけでいいんだから!!」
リバイア様の指導にも熱が入っている。
そして、いよいよダンジョンオープン記念式典が始まった。領主である勇者の挨拶の後に龍の姿でリバイネ様が挨拶をする。
「わ、わ、我は・・・偉大なるウォータードラゴン、そして、う、う海の王者リバイネ!!我のダンジョンは少し趣向を変えて作ってやった。攻略だけに重きを置いたものではないぞ。ヒントはこの辺にして、皆の者!!心して挑戦するがよい」
かなり緊張しているが、威厳のあるいい挨拶だった。
挨拶を終えるとリバイネ様は颯爽とと飛び立っていった。
この光景を見てタリーザは涙を流している。
「リバイネ様・・・本当に立派になられて。これからも支えていきます」
式典後はいつもどおり、食事会が開かれた。今回のメニューは海の幸がメインだった。どれも美味しかった。私はロイさんに尋ねた。
「新風亭でもこんな料理を出される予定ですか?」
「基本的には海の幸をメインにした料理を出す予定です。今日ほど豪華な物は出せませんが、安くて美味しい物はお出しできると思いますよ。とりあえずは日替わり定食を肉料理と魚料理の二種類に増やそうと思ってます」
私は心の中でガッツポーズをした。また、新風亭に通う楽しみが増えた。
この食事会の私達の目的は、ダンジョンのコンセプトをそれとなく勇者達に広めることだ。
ヘンリーさんが説明する。
「以前少し話しましたが、リバイネ様のダンジョンは素材採取型のダンジョンです。ただ、ダンジョンボスもいますが、面白い仕掛けもありますので、是非クラシア様も挑戦してください」
2日後、勇者パーティーが挑戦して来た。メンバーは勇者パーティーに加えて、勇者の父親のラーシア王国の国王、冒険者ギルドのギルマス、ネリス商会の会長、それにリザードマンの親子だった。現勇者パーティーに初代勇者パーティーメンバーを加えた豪華なものだった。
あっという間に攻略されてしまった。ダンジョンボスはシーサーペントという巨大なウミヘビだった。Bランクの魔物で、このメンバーなら雑魚扱いだった。
勇者達も何となく気付いたようで、「メインコース以外にもっとダンジョンを探索したい」という意見も出ていたが、結局は「詳細な探索は冒険者に任せよう」と勇者が決断し、ダンジョンを後にした。勇者はダンジョンの情報収集依頼を冒険者ギルドに出す予定のようだった。
後は、冒険者達にこのダンジョンのコンセプトを分からせるため、情報をそれとなく流す。その重要な任務を担うのは、この私だ。
自分なりに計画を立ていたのだが、次の日の朝にミランダ社長とヘンリーさんに呼ばれた。
「実は今回のダンジョンPR作戦に助っ人を用意したのよ。入ってきて」
そういうと入ってきたのは、何とミーナだった。
「今回は、PR活動が重要な業務だからミーナさんに来てもらったのよ」
(それって、私だけじゃ不安ということですか?)
私はミーナに尋ねる。
「ミーナ!!そんなに自分のダンジョンを空けて大丈夫なの?」
「あっ、そのこと?それなら大丈夫よ」
ミーナの説明では、人事異動でA-2ダンジョンのサブマスターから渉外担当部長に昇進したらしい。
「ミスタリアグループでは、新人は実際のダンジョンの運営を学んだ後に本部で勤務することになるのよ。それでパパがね、これからは情報収集と他のダンジョンとの連携も大事と言い出してね。実際に実績を上げた私が実験的に渉外担当部を新設して部長に任命されたのよ」
ミーナが言うには、部下も3人いるらしい。
ミランダ社長が言う。
「今回ミーナさんは一時的にダンコルに所属してもらうことになってるわ。派遣という形ね。だからミーナさんには、形だけだけど役職を用意したわ。ミスタリアと同じ、渉外担当部長ね」
また、上司が増えてしまった。ミランダ社長、ヘンリー副社長、キョウカ特別顧問、ミルカ特別顧問秘書、ロンメル軍事顧問に続いての渉外担当部長のミーナだ。
ダンジョンの新人スタッフ3人はドライスタ様が直接雇用しているので、私だけが平社員だ。
新入社員が一向に増えず、上司ばかりが増えていく状況は不思議でならない。
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